Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

逆アラブの春か、アメリカ版文化大革命か

 アメリカでは、ポリティカルコレクトネスがとんでもないレベルまで広がりそうになりつつある(Blah🇺🇸 on Twitter: "ポリコレにどっぷり迎合したナンシー・ペロシ、下院議会で以下のジェンダー言葉を禁ずる。)。議会で、FatherもMotherもありとあらゆるジェンダーに関する言葉狩りが始められようとしている。私は、一部の人を社会的に貶める過激な言葉は抑制されてもよいケースがあると思うが、歴史的な経緯を経て生き延びてきた言葉を規制するのは暴挙であると思うし、ごく普通に使う言葉すら失わさせるというのは反文明的であると考える。もちろんそれに異論のある人もいるだろうが、アメリカでこんなことが行われているのを見るのは、アメリカの退潮を暗示しているようにも見える。

 一方で最近あまり触れていなかったが、韓国では文政権が独裁への布石を次々と敷いている(ヒトラーの後を追う文在寅 流行の「選挙を経た独裁」の典型に | デイリー新潮)。政権交代があった時に韓国の民主主義を賞賛していたメディアや識者はどんな気持ちなのだろうか。以前、韓国にヒトラーが誕生する可能性について書いたことがあった(韓国にヒトラーが誕生する可能性 - Alternative Issue)が、ついにここまで来たかと惨憺たる気持ちになる。言論弾圧や独裁は民主主義や選挙の形を巧みに用いながら進められるのだ。

 

 このように中国の共産党による独裁的な共産主義体制が崩壊する前に、民主主義が変質しつつあるように見えるのは正直悲しい。だが、同時にアメリカではテレビや新聞以外の情報発信メディアとして君臨しつつあった、FacebookTwitterが徐々に信頼を失いつつあるように思う。法律に基づくのではなく、自らの考えにより言論の自由を規制しているのだからさもありなん。これには、トランプ大統領とは全くそりが合わなかったドイツのメルケル首相でだえ、苦言を呈している(メルケル独首相が、ツイッターのトランプアカウント停止を「問題」とした真意 | 藤崎剛人 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)。正確に言えばメルケル首相はトランプ大統領を擁護したわけではないが、言論を制限する権利をプラットフォーマーには与えないという政治家としての決意を表明したのであろう。同様の考えは今後も広がっていくと思うし、以前にそれがFacebookTwitter社の凋落につながるのではないかと予測もした(FBとTwitterの凋落予想 - Alternative Issue)。また、トランプ政権中枢や共和党強硬派を締め上げる(Tomo on Twitter: "※上の投稿参照マッケナニーさん、漢テッドクルーズら「ハーバード大卒」の「保守」から学位を剥奪しようとしているのは、同大学の学生たち。)ような行為が提案されている。さすがに、これは滅茶苦茶だ。アメリカはどこに行こうとしているのか。

 

 民主主義の死に方(Amazon.co.jp: 民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道― eBook: スティーブン・レビツキー, ダニエル・ジブラット, 濱野大道: Kindleストア)という書籍があるが、こうした行き詰まりについて深く考えなければならない時代になった。それは人の善意を信じられない時代であり、政治が信仰に置き換わるような状況である。絶対的な正義は存在しないというのが私の持論だが、その正義を希求しながら正義に寄り掛かり他者を認めないという意識。アメリカや韓国にある政治の激しい対立や二極化は、民主主義(あるいは資本主義)の帰結として避けられないものかもしれないが、これは成長が止まった資本主義社会の終焉ではないか。日本も十分とは言えないが、現段階では少なくとの両国のような状況は避けられている。

 対立がエスカレートするとますますこのジレンマのような状況から抜け出せなくなるのだが、妥協という大人の交渉術が成立しない時代になってきたようである。それは俯瞰的なものの見方や、社会全体を良くするためのバランスの取れた認識が後退している証拠でもあるように感じる。弱者保護は叫んでも、それはピンポイントのパッチワークであり社会のバランスを保つものとは限らない。ただ、ポピュリズム的にはわかりやすいアイコンとなる人たちを救い、その他大勢に与える小さな痛みを許容せよと叫ぶ。小さな正義を得たとしても、社会全体に軋轢を積み重ねていく方法論ではないか。

 それは、結果的に中国の圧政と変わらなくなってしまいかねない。理想は、相互干渉がやや強すぎるかもしれないが、国民同士が一定レベルの信頼関係でつながれる社会のような気がする。その時、グローバリズムは勢力を弱めることになるだろう。

 

 日本のメディアの質が低いことは以前より知れていたが、日本が理想としてきたアメリカにおいてもその状況はかなり酷くなっている。メディアが第4の権力と呼ばれて久しいが、その暴走を私たちはいま目にしているのかもし入れない。そして、暴走機関車となりつつある存在と結託した政治家たちは、いったいどんな行為を見せてくれるのだろうか。なかなかに興味が尽きない。

コロナは春以降も終息しない?

 遅きに失した感のある緊急事態宣言と外国人ビジネス客の入国停止措置(ビジネス関係者らの往来停止 原則外国人の入国を全面的に制限 | 新型コロナウイルス | NHKニュース)ではあるが、下手に自分たちの都合や判断に基づく政治的判断で状況を甘く見てはいけない。菅総理には猛省してもらいたい。今後も状況を見る必要があるが、少なくともmRNAワクチンは現時点でかなり高い効果を示しており(新型コロナ用mRNAワクチンの4つのすごい設計(JBpress) - Yahoo!ニュース)、現時点では接種が始まるまでの時間をいかに稼ぐかが重要となっている。ワクチンの問題については、短期的な状況は見えてきたものの中長期的な問題点はわからない(医療従事者は新型コロナウイルスのワクチンを打つのか? ホンネを聞いた(日刊ゲンダイDIGITAL) - Yahoo!ニュース)。特に若者に対しどのような影響が出るかには、注意深く見守りたい。

 ところで気になる情報がいくつか見られる。一つは、現在南半球は夏なのだが南アフリカ南アでコロナ変異種確認、流行第2波や若い患者増加の原因か 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News)やブラジルの感染者数があまり減らない、あるいは増加しているという現状がある。またインドネシアの感染者数や死者数も増加を続けている。どうやら、コロナウイルスは変異により夏季でも感染できるようになったと見てよいのではないか。これは気温に強くなったというよりは、感染力が増大したため暑い時期でも感染が低下しないということかもしれない。だとすれば、変位種が主流となる次の冬には恐ろしいことになるし、その前に春から夏においても相当の対策を打たなければ感染の連鎖が収まるとは言い切れなさそうだ。

 

 ちなみに、感染の広がりに伴う弱毒化はあまり期待できない状況にある。感染力が増強するほどに、どんどんと他者に伝播していくため弱毒化する必要性がない(強毒株が淘汰される理由がない)。イギリスや南アフリカの変位種が強毒化しているという情報はないが、南アフリカ株では若者も重症化しやすいという話も聞く(南アの“凶暴ウイルス”国内侵入 ワクチンが効かない恐れ 海外との往来を続ければ…国内でも変異種出現、重症者増加に(夕刊フジ) - Yahoo!ニュース)。加えて、南アフリカの変位種は現在接種が始まったワクチンの効果が十分ではないかもしれないという懸念も示されている。現段階では詳細情報がないため判断が困難ではあるが、ナイジェリアでの変異など新たな情報(ナイジェリアで第3の変異種 デンマークでは市中感染も―新型コロナ:時事ドットコム)がどんどんと追加されている。

 ちなみに、変位種については日本でも独自の形でおそらく広がっているだろう。ドイツが第一波では感染者や死亡者が欧州の中で抑えられていたが、今回はその効果が見えない(むしろ欧州の中でも多い感じ)。これはあくまで私の勝手な妄想だが、BCGの効果か何にかはわからないファクターXにより、第一波が抑制されていた地域においても微妙な変異によりそれを回避する術をウイルスがにつけたのではないかと考えている。海外からの持ち込みもあろうが、これだけの広がりは気のゆるみ、政府の対策の不十分さ、そしてウイルスが日本人に適応しつつあるということがありそうだ。少々の変異なら開発されたワクチンでカバーされるだろうが、今先どうなるかはなかなかに読めない感じである。

 

 現在、ドイツはロックダウンに近い厳格な規制をしているが、それでも感染の広がりが抑制できていない(独、1日のコロナ死者が過去最多 大規模封鎖検討の報道(ロイター) - Yahoo!ニュース)。イギリスも変異種の登場で感染者数が大きく増加している(息切れ、倦怠感......イギリスで1日4000人以上が新たにコロナ後遺症に | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)。今後も、世界中で新たな変異種が生まれていくだろうし、後遺症問題の深刻さが徐々に解明されていくのではないかと思う。直感で恐縮だが、弱毒化を期待するよりワクチンや人間が既に持っている免疫力を回避する方向に変わる方が早そうだ。

 こうした状況を俯瞰すると、現在の後手後手の政府対応では春以降に感染終息を期待するのは難しい。夏場の感染増加が予想以上に簡単に(日本国民の対応の良さであり、政府対応の良さの結果ではない)落ち着かせられたため甘く考えてしまった面があるだろう。小さな危機には対応できる政治家が揃っているようには見えるが、大きな危機には対応できる判断力がなさそうだ。ただ、野党にはそれ以上に期待できる要素が全くないので、自民党内での建設的な議論や競争を経てよい政治家が浮上してくるのを待ちたい。

 

(20210116追記)

 FinalventさんがWall Street Journalを引用して面白い情報を上げていた(finalvent on Twitter: "予想外ではないが、グラフにすると、感慨深い。)。世界各国のコロナによる死者数と超過死亡数に関する情報である。世界各国で、コロナによる死亡者数よりも超過死亡数の方が多い状況だが、韓国のそれが突出して高い。すなわち、数多くの隠れコロナ死者が存在しているということであろう。あるいは医療崩壊により、その他の病気による死者が激増しているとも考えられるが、普通に考えてその可能性は低いだろう。隠蔽なのか、基準を変に曲げているのかはわからないが。ロシア、アメリカあたりも多いのだが、それとは比率において明らかに異なる。逆に、防疫に成功している国々(台湾、ニュージーランド、オーストラリア、その他)は超過死亡者数が明らかにマイナスになっている。コロナ対策がその他の病気による死亡を抑制していると見たほうが良い。その中で、唯一と言ってよいほど特殊なのが日本。コロナによる死者もそれなりにいるのに、超過死亡数が大幅に減少している。すなわち、死者数が減っているというのだから面白い。ただ、日本の調査時点が10月のため今の流行は含まれていないのだが。どのように解釈すべきか、なかなかに難しい。

バブルの天井かプチ天井か?

 大変遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。今年も、ぼちぼちと気になることを書いていきたいと思います。

 

 さて、コロナ感染症による経済の落ち込みとは裏腹に、永遠に続くような上昇を続けてきた株価ではあるが、そろそろ目崎の天井を付けそうな気配である。私は、昨年末より少しずつ株の売りを始め、今年に入って多少積み増しをしている。株価の動きは誰にも完全に予想できるものではないが、移動平均からの乖離が大きいこと、売り方が概ね諦めてしまったこと(相場に強気が圧倒的になっている:https://www.aaii.com/sentimentsurvey?)、等を見るとそろそろ買い手が不足する感じがしている。バイデン新大統領による給付が決まる前には、株価は当面の天井を天井をつけるのではないかと予想する。もちろん、あまり当たらない私の予想なので話半分で聞いていただきたい。

 

 現在の株価上昇が、世界中の政府と中央銀行(特に先進国)による財政支出と金融緩和により引き起こされているのは言うまでもない。正直なところ、3月以降の株価上昇に乗り切れなかったのは判断ミスだったと反省している。株の方にも、もう少しリスクテイクしておくべきだったのだろうが、今となれば後の祭りであった。まあ、貴金属で益を出して損をしていないので良しとしよう。

 この財政支出や金融緩和の傾向は今後も容易に止まるものではないだろうが、一方で経済に蓄積されている痛みもどんどんと圧力が上昇している。株価の上昇は、有り余る資金を背景にしながらこうした痛みが回復することを前提(シナリオ)としているだけに、それが容易ではないとすればいったん調整をするのではないかと見る。もちろん、今が本当の意味で2000年以来の第二次ITバブル天井になるためにはそれ以外の大きなイベント(例えば不動産暴落や債務危機等)が必要となるだろうが、現状の政府や中央銀行のスタンスからするとそれを許容する感じではない。痛みを伴う財政支出を続けてでも、ショックを回避しようとするだろう。ただ、それにより貨幣の信頼が低下し続けるというデメリットも存在するが。ドル(DXY)の下落が一旦底を打てば、株価は調整を始める。その、象徴となっているのがビットコインとテスラ株だと見ている。個人的な好みからすれば、どちらも手を出したくない(出していないが)ものだが、その動向が株価全体の方向性を決める指標となりそうである。

 

 GAFA株が年末より停滞しており最後の一吹きを見せる可能性もあると思うが、そろそろ買いの勢いが弱まっており、積極的な買いは資源株等のコモディティ関連や、放置され続けてきたバリュー株以外には控えたいと思う。既に、ドルインデックス(DXY)の上昇に伴い貴金属は大きく値を下げており、潮目は少しずつではあるが変化しつつあると思う。問題は、一時的な株価の調整(指数で20~25%程度の下げ)により他の問題が表面化するかどうかが、現在のバブルの流れを左右するのではないかということ。それが何かはわからない。

 全体的な株価の動向は、以前にも書いたが2000年のITバブルの時に非常に似た動きをしている。その動きを踏襲するとすれば、今すぐでもおかしくないが1月中旬から2月上旬が天井となる。指数から見る株価の上げ代は残り5%以内程度となるが、もちろん同じ動きをすると決まっているわけではない。歴史は繰り返さないが韻を踏む。人々の感情により動く株価の動きは、全く同じではないが似たような傾向を示すのだと思う。

 ちなみに株価の下落は、昨年3月のコロナによる暴落とは様相が異なるだろう。ボラティリティが上昇し、例えば15%下げて10%戻し、再び15%下げてといった具合に、上下動を繰り返しながら三歩進んで二歩下がるような流れを想定する。純粋な経済情勢からすればもっと下がってもおかしくないと思うが、過剰流動性と政府の姿勢がそれを押しとどめると想定する。ただ、その限界が見えたと市場が感じ取れば、もっと大きく崩れるのではないか。それが真の意味での第二次ITバブル崩壊になると思う。そこにすぐ至るかどうかは全く分からないが、何らかの後押しが必要だろうというのは既に書いた通り。

 

 どちらに転ぶかがわからないから株取引は難しいが、少しだけ予想をしておこうと思う。外れれば笑っていただければ、それで十分。とりあえずは、気楽に行きたいものです。

建設的な議論がなぜできない

 国会の議論やSNSでの炎上覚悟のやり取りは、今のままではいずれも建設的な議論とはなりえないことは多くの国民が身に染みて理解しているだろう。国会における与党も与党だが、野党はそれに輪をかけて議論の素養がない。と言うか、そもそも建設的な議論をしようともしていない。単純に世論アピールのパフォーマンスしかしてない。だが同様のことは、日本社会に広く蔓延しているような気がしている。日本の長期的な低迷はこうした建設的な議論を行える土壌を整備できなかったことではないか。本来、議論は相手のことを認めながらも必要な問題を指摘するような関係性が理想だ。だが、相手への忖度が議論を掘り起こさなかったり、あるいは過度に攻撃的になって相手の全てを否定するようなケースがあまりにも溢れている。誰もが建設的な議論の有効性は十分に理解しているだろう。それにも関わらず、なぜ建設的な議論のためのプラットフォームが整わないのだろうか。

 建設的な議論が為されるベースには、必ず相手への敬意が必要とされる。尊敬と言う上下関係は対等な立場を阻害するので、良きライバル関係とでもいう方が妥当だろう。フランクでいならも、相手のことを認めるような関係性。理想的なものは少年漫画のライバル関係だが、それは架空の場面には存在しても実存として見かけることが非常に少ない。私の子供時代には、ガキ大将と言う形でバランスを取ってくれる裁定者がいたような感じがするが、今はこうした中立的な判断をしてくれる存在(調停者)の地位が弱まったからではないかと思うのだ。あるいはそのような立場の人たちが尊敬(それに基づく信頼)を失っていると言ってもよい。かつては、親が担い、村の長老が担い、教師が担い、専門家が担い、政府が担ってきたもの。それが大きく棄損されている。

 一つの分野の勝ち負けが人の存在としての勝ち負けを決める。例えば学歴であり、あるいは年収である。その絶対的な指標に巻き込まれると、意識しないでいようとしても上下関係が生まれ、結果的に対等な関係性が崩れる。あるいは、当初より対等な関係など望まず、如何にマウントを取り自分に都合の良い結果に導くのかが目的となる。小さな優越感が全てを凌駕する。

 

 裁定者の話に戻ろう。個別に考えれば、今でも尊敬に値する人は数多くいる。だが、一定の社会的な立場を得てしまうと、優しさのある攻撃性を発揮することが難しくなりやすい。詰問するのではなく、改善を促すための意見が相手の精神にダメージを与えることを恐れ始める。あるいは心に深く踏み込むことを恐れるようになった。それを大人の処世術と呼ぶこともできるが、処世術なしで付き合える友人が少なくなっているのかもしれない。忌憚なき関係が大きく減少しているのかもしれない。相手の懐に飛び込む勇気を、私たちは徐々に失い続けてきたのではないか。あるいは、それを回避することを子供のころから教え続けてきたとも言える。これが会社の同僚や先輩後輩、あるいは学校の友人関係に広がっている。ウエットな関係が忌避され、ライトでドライな関係が好まれる。そこには、人を近づけないことにより自分を少しでも守ろうという意識が垣間見える。

 個人的にはポリティカルコレクトネスの広がりが、その一要因たるハードルとして存在しているようにも思うが、それだけではないだろう。むしろ、ポリティカルコレクトネスが原因ではなく、私たちの社会環境が変化した結果として現れているのではないかと感じている。

 

 私はこうした流れに至った一つの答えを、社会における間違った優しさの広がりに求めたい。例えば、多様性を謳いながら真の意味での多様性を認めない社会。存在としての多様性は保護されるが、それは存在として対等な関係ではない。自立ではなく庇護と甘えを優先する形。常識がそのようにすり替わっており、特に日本における状況の進行は顕著である。アメリカのそれも酷い状況だと思うが、この立場が明確な分救いがあるかもしれない。

 優しさが社会的に求められるのは理解できる。自然の脅威から始まり、人権軽視の世界や戦争など人的要因による苦しさに満ちた社会を、私たちは実感としてあるいは社会知として認識している。だからこそ、優しい社会を作ろうとして努力するし、少なくとも自分が住む国の国民を豊かにしようと、他国に挑戦を仕掛ける。もちろん、受けるぐ側も守ろうとして攻撃的にならざるを得ない。

 だからこそ、多くの人たちは優しい社会を希求する。しかし、理想的なそれは容易に手に入れられるものではない。少なくともそのための環境はまだ整っていない(国内に限ればかなり充足しつつあると思うが)。そして安定した社会は不安定な社会から攻撃を受ける。結果として、世界は不安定側から常に浸食を受ける。こうした攻撃には、優しさは却って弱さとなって表れやすい。

 

 国際関係ではなくとも、国内だけでも優しさの弊害はよく見られる。学校教育における過度な平等性の追求は典型的だが、優しさを絶対的な正義とみなすことにより多くの問題が生じているように思うのだ。優しさが必要ないわけではない。だが、一方的な優しさはむしろ社会的な不満を引き起こす。絶対的な正義の皮をかぶるが故に、多くの人の密かな不満を引き起こす。

 さて、私たち日本人はこうした優しさの暴力に長年晒されてきた。結果的に、それが弱さとなってい現出しているように思う。皆が優しさに慣れてしまったために、厳しさに対しての感覚が鈍ってしまった。よくケンカの落としどころを子供たちが理解しないという話を聞くが、これも優しさの氾濫による弊害ではないかと思う。そして、議論ができないという話もその延長線上にあるのではないだろうか。

 過度な誤った優しさを常識として捉えているからこそ、バランスの良い優しさを行使できず、愛情のこもった厳しさを受け止めることもできない。同レベルではマウントの取り合いが始まり、共に成長するという共有認識すらを失ってしまった。

 全ての人がそうと言うつもりはないが、それを学びトレーニングする機会を得られないひとが増えてしまった。結果として軋轢が社会に広がり、落としどころの作り方や相手との忌憚なき関係性をあまり構築できなくなる。

 

 ここで書いたことは極論でもある。大部分の人はそれなりのバランス感覚を持ち、必要な優しさを的確に行使しようとしているだろう。ただ、お互いを高め合うような建設的な議論が活発にならない理由は、そのような関係性を積極的に生み出そうとしていない社会的な風潮にある。厳しい意見を敬意を持ち合って交わせるような関係性を、もっとどんどんと行えるプラットフォームを作るべきではないか。社会がそれを作って行くために必要な議論を建設的に行うべきではないか。

 卵が先か鶏が先かはわからない。だが、それを意識し始めることから始めるべきではないかと思う。

 

中国の不動産暴落は来るか?

 中国の不動産バブル崩壊を謳う情報が、今年の秋ごろから非常に多くなった。私も以前より今のバブル崩壊は、金利の上昇か不動産バブルの崩壊により生じるのではないかと書いてきた。秋ごろからの騒動は、中国不動産大手の広州恒大問題(【バブル終焉】巨大不動産企業・恒大集団のデフォルト観測|篠原哲 | tetsu.s|note)から始まったものだが、既に中国における不動産価格の上昇は日本のバブル時をはるかに上回るレベルに達している(52兆ドルの中国不動産バブル、コロナでも止まらず - WSJ)。それでも本格的な下落に至らないのは、中国政府が様々な面で不動産下落を阻止しようとしているのが最大の理由だろうが、この状況を踏まえて中国国民が不動産を政府が下げないと認識していることもあろう。そのため、今年9月ごろ騒ぎになった不動産バブル崩壊の懸念に関する情報は、ここ2か月ほどすっかりと影を潜めた。

 状況をもう少し詳しく見ると、現在中国で不動産価格が上昇し続けているのは上海や深センなど一部の富裕層が多い都市に限られ、全体的には不動産価格が下落しているという情報は少なくない(中国バブル崩壊 これだけの予兆(ニュースソクラ) - Yahoo!ニュース)。中国政府が発表している情報でも、多くの場所で不動産価格が下落していることは間違いなさそうである(【朝香 豊】中国政府が認めた!不動産バブル崩壊(朝香豊の日本再興原論㉘) - Daily WiLL Online(デイリー ウィルオンライン))。ただ、マインドを見る限りそこまで恐怖に支配されているという感じではない(【不動産】中国不動産バブル崩壊迫る 日本はジュリアナ全盛期に崩壊|日刊ゲンダイDIGITAL)。株価が低迷しているため、中国で投資に耐えうる選択肢が不動産しかないというのが一つの大きな理由ではないか。その上で、地方政府の収入の大部分も不動産開発によるものである。誰もが、不動産バブルを理解しつつも壊せない状態なのだ。赤信号、みんなで渡れば怖くないと言ったところか。

 

 ただ、このような綱渡り状態を永遠に維持できるはずもない。現在、都市における不動産取得価格が年収の何十倍と言うレベル(https://www.fukuoka-fg.com/files/items/11221/File/201011_kaigai.pdf)にまで高騰している(日本では年収の5倍程度が妥当とされ、バブル期でも平均すると東京で10倍程度であった:nomu.com通信)。北京や上海などの大都市だけではなく、地方の中核都市もかなり高い状態にある。本来なら不動産投機を抑制し、不動産価格を抑えるべきだが、それが行えないというのは中国にとっての苦悩であろう。中国共産党政府の諸外国に対する強気の態度は、このような国内的な不安定さ(不動産問題だけではないが)の裏返しではないかと言うのが私の見立てだが、皆さんはどう考えられるだろうか。中国の不動産バブルがいつ弾けるのかは予測できないが、弾けることについては不可避ではないかと思う。既に妥当なレベルははるかに超えており、最終的な結末はいつか必ず来る。しかも、それはそう遠くない時期(数年内)であろう。ここまで膨れ上がった状態を何らかの手法で乗り切れるとは思えないのだ。もちろん破綻を先送りにするため統制経済を強めることと、政府批判を回避するための外国との対立が有効である。不動産価格を何年も凍結して、インフレにより実質的価値を下げるというのが関の山。実のところ、既にその施策は数年間の間取り続けられている。不動産価格が下落傾向とは言えど暴落ではない。コントロールされていると見るべきではないか。だが、この戦略はかなり後ろ向きのものであり、かついつまでもコントロールし続けることはできないと考える。そろそろ限界が近づいている。

 もっとも、以前より中国の経済崩壊論は多くの人たちが想定し、それにも関わらず裏切られてきたという実績があるのは承知している。私自身、北朝鮮も中国ももっと早く疲弊すると思っていただけに、そのあたりは予想が甘かったと反省している。正直に言えば、私の想像を越えていた。それでも、中国の将来がバラ色だと思う人はそれほど多くないのではないか。中所得国の罠(中所得国の罠 - Wikipedia)もあるが、今後も大きな成長を続けるのは困難だろうし、人口における年齢構成の歪さは顕著である。社会システムとしてかなり偏った構成であることは言うまでもない。

 

 中国における不動産バブルの崩壊は来るか来ないかではなく、いつそれを押しとどめられなくなるかという時間の予測に焦点が移っている。崩壊を抑えるという意味において中国共産党政府は有能である。少なくとも数年間は不動産バブル崩壊を抑制し、コントロールしてきた。だが、不動産に対し政府や地方政府も、中国国民自身も依存するシステムができ上がってしまった。とすれば、不動産系大手のデフォルトが本格化する時がそれではないか。広州恒大は来年1月の支払いを待ってもらうように、出資者等と調整していると聞く(未確認情報)。こうしたパッチにより一時しのぎは可能だろうが、同様の行為を何度か繰り返すうちに自転車操業の火は大きくなっていく。

 中国の資産のうちに不動産が占める割合は莫大である。そして、そこに関わる人たちも何億人と存在する。これを救うためにはおそらく最初は地方政府、そして最後は中央政府が資金を投入しなければならないが、ツケを払わされるのは国民であろう。また、不動産価格凍結を続けると共産党員や地方政府職員の(不正な)利益は激減し、別のバブルを引き起こそうと動き始めることになる。アメリカから睨まれており、ドル安政策の結果引き起こされる元高を考えると、貿易の劇的な伸びは期待できない。要するに、何か弾けなければならない状況に押し込められている。

 私は、不動産バブルは無理やりコントロールされていても、その他の要因(何かはわからないが)により社会のタガが外れる時が来ると予想する。一つには戦争(あるいは紛争)であり、あるいは大貴bな企業負債の発覚からくるデフォルトであり、そして民間企業破綻からくる金融危機である。これらと相まみえながら不動産も押さえつけが効かなくなると考える。特定の何かではなく、全体として押さえ続けたひずみが現れてくるのではないか。

 

 だが、繰り返しになるが時期はわからない。中国という国は、日本がバブル崩壊で世界の教訓となったように、新しい形の破綻への道が今も密やかに敷き詰められている。加えて先進国の多くが混乱に直面しており、それ故に資金に逃げ場がないことが延命に力を貸すこともあるだろう。ただ、崩壊は徐々に進行しているという考えには変更はない。

コロナ禍による人口減少

 以前私は、ロックダウンによる出産数増加について書いた。短期的なそれは可能性として十分にあると今でも思う。しかし、これだけ長期化すると出産数は逆に大きく減少する方向に行くだろう(焦点:コロナ禍が深めた欧州内の格差、南欧で出産減少 | ロイター)。短期間ならバカンスで済むが、長期間になればむしろ諍いを招きやすくなる。更には、雇用不安に加えて妊婦や乳児の感染リスクなどが重なれば妊娠など考えられない。

 もちろん、こうした状況はワクチンが有効でかつ無害であれば急速に改善される。社会が元に戻るのと歩みを共にしながら、場合によっては反動で増えるなどと言うことも想定できる。だが、ワクチンの効能を多くの人が信用できる至るにはまだ1年近くの時間が必要とされるだろう。すなわち、出産数減少は1年半程度続くと見ている。そしてこれはワクチンが有効でかつ無害であったという前提における想定だ。この後、問題が生じたならば社会がショックを受ける以上の衝撃で妊娠数(出産数)が減少するのではないか。

 

 ここからは妄想に近い想像になるが、元々コロナウイルスは精巣にも多く分布するという情報があった(精巣が新型コロナウイルスの「隠れ家」に? 否定的な見解も | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)、(患者の精液から新型コロナウイルスの陽性反応、精巣内に長期間潜伏する可能性も | エピネシス)。そこで炎症を起こせば多くの精子が傷つく、あるいは精巣で生産されなくなるという懸念がある。この精子に対する影響(COVID-19の男性生殖能力に与える影響とその可能性について | 不妊治療 京野アートクリニック高輪(東京 港区 品川))はまだ解明されていない。ただ、コロナ感染者の精子が不活性化するなどと言うことがあったとすれば、これは非常に由々しき事態となる。あるいは、他の部位ではウイルスが消えたとしても精巣に永らく留まることがあれば、もっとパニック的な状況になるだろう。不安による妊娠忌避ではなく、性交渉できないあるいはしても妊娠しないという構造的な不妊状況ができてしまうのだから。

 あくまで可能性の話なので注意してほしいが、言い換えれば人類存続の危機とも考えられる。もちろん、まだコロナ感染者は2020年12月初旬に報告されているレベルで世界人口の1/1000以下。検査不足等による確認されていない患者数が仮に5倍程度あったとしても1/200程度であろう。現時点で全体で見て0.5%程度であれば決定的な危機とは言えないが、この状況があと1年続くとすれば患者数はおそらくこの3倍から5倍になるだろう(先進国にワクチンが配布されても、途上国で感染が広がる)。これが1%を超えてくるようなことがあれば馬鹿にならない。

 また、先進国では既に人口の数%が罹患しているところもある(ベルギーでは5%)。もし仮に、感染者の精巣が不活性化したり損傷を受けていたとすれば、とんでもないことではないか。少なくとも出産数が数%の減少を引き起こしてもおかしくない。これは恋愛事情にも大きく左右する。未感染証明書を持っていなければ、付き合いすらできないなんて話になりかねない。短期的な問題ではなく、長期的な問題として社会を揺るがすだろう。

 

 一方で、日本では既に多くの国民が抗体を持っているのではないかという説も出ている(日本人の5割はコロナに「暴露済み」か 集団免疫獲得へ、致死率も低下(デイリー新潮) - Yahoo!ニュース)。これに関しても、現時点での情報からは正直何ともいえない。当初より近隣種のコロナウイルスに感染した人が多いため、欧米と比べて感染が広がらないという噂はあった。現時点でも、東アジアや東南アジアの感染者数は欧米と比べて非常に少ない。強固な感染症対策を取ったというのはあろうが、それだけでは説明できないように思う。これが本当かどうかを証明することはできないが、ファクターXはそんなところに潜んでいたとすれば面白い。

 逆に言えば、その近接種感染が広がっていたことが理由で日本人(あるいは東アジア人)の出産数が減少したのであれば、これまた大きな問題ではあるが、本当にそうなおかを確認するのは困難である。強いて言えば、一人当たりの出産数が大きく減っている訳ではないので、コロナ近接種に罹患して出産数が減少したと考えるのは早計かもしれない。

 

 さて、経済的な疲弊が続くことでも少子化は加速される。この問題は決して小さな話ではなく、日本や韓国(出生率が0.9を切った)では大きな少子化が社会の存続を脅かしつつあるのだから、しっかりと確認しておいた方が良い。今は、それどころではないというのが実際だろうが、コロナを乗り切っても少子化による社会の疲弊に足元をすくわれれば、これも同じように大きな問題なのだ。死者は増えないが生者が減るのだから。

株式バブルとコモディティサイクル

 私は現在の株式市場がバブルであると認識しているが、これはいくつかの情報を基に判断したものである。もっとも、現在のように過去にないほど資金がじゃぶじゃぶの状態ではそうした統計データは役に立たないという考え方もできよう。実際トレーダーが債券投資をしようと思っても、現在は金利が低い状態なのでほとんど利益が出ない。つまり、株価が多少高かろうとより利益の出る方向にシフトする(アメリカの株価が記録的な高値である4つの理由…世界恐慌に匹敵する急激な景気後退にもかかわらず | Business Insider Japan)のも当然となる(あるいは利率の高い新興国債権やジャンク債等)。本来は絶対的な指標の高さが心理的な歯止めとなるべきなのだが、より良き投資先がない結果として危険な水準だとはわかっていても、相対的な過熱感のなさゆえに株価が過去にないレベルにまで買い上げられている。出口戦略が語られれば終わる人時の夢ではあるが、つかの間ではあってもこの夢に乗れれば良い。

www.financialpointer.com 実際、市場のマインドには日本のバブル時に比する過熱感がないのもその通り。日本ではバブル崩壊の残滓を今も引きずっており、「株式が歴史的な高値」何それ?的な状況である。ただ、実体経済とは別の世界で生じているバブルなので実感が湧かないというのもあるのではないか。実体経済を救うために資金をばらまくが、現実にはそれが大して実体経済には回らず株式市場のみを潤している。更に言えば、コロナによる暴落以降の回復過程においても、ごく一部の銘柄のみが株式市場を押し上げているのは事実である。すなわち、株式の利回りではなくトレンドに乗るのが全てとなっているのだ。結果として、PERが非常に高い一部のグロース株が集中的に買われている。PERが100以上の企業数は既にITバブル期を50%ほど上回っているという情報もある。

  今までも何度か書いているが、株式市場の過熱感を示す短期的な指標としてFear & Greed Indexが高い値を示していること(Fear & Greed Index - Investor Sentiment - CNNMoney)には注意が必要だ。この指標が全てを正確に予測する訳ではないが、市場のマインドを見る上では参考になるだろう。現在80~93辺りのExtreme Greedをうろついているが、過去3年を見るとコロナショック前のやや下くらいのレベルまで市場が強気に傾いている(この時の最大値は98)。過去にこの値が上昇しすぎた後(通常、1~3か月後)には株式はある程度大きく下落している。

 バフェット指数は、株式市場の時価総額と名目GDPを比較したもの(バフェット指標を見よ、米国コロナ対策バブルは「崩壊危険水域」の現実(高田 創) | 現代ビジネス | 講談社(7/9))であるが、こちらも過去最高を更新し続けている。もっとも金融緩和が行き過ぎた現在において、この指標は株価の割高さを示すには十分ではないという意見も少なくない。確かにそのとおりである。それでも、行き過ぎた状態が不健全なのは言わずもがなであろう。欲望の追求により進行するひずみは溜まり続けている。

 ただ過熱感がそれほど感じられず、多くの経済学者や投資家が強気でいるのは、各自のポジションが際立ったリスクオン状態にはないことがあるだろう。全体としては過去にない状況だが、局所的にはまだ余裕があるといったところか。ゴムひもはまだ張りつめていない。

  これも既出だが、コールオプション(将来的に株を買う保険:コールオプション|証券用語解説集|野村證券)の購入率がITバブル期を超えて史上最高になった。

 通常は、株式下落の場面で増加するものだが、今回は株式上昇場面ですらコールオプションの購入が大きく増加している。これはITバブル時にもみられなかった特筆すべき傾向である。市場参加者の大部分が株価に対して超強気であるということだ。

  そして、並行してプットオプションの比率は大きく下げている(過去10年で最低)。通常は株価が上昇すると売って儲けようと考える人が多いのだが、それすらも焼き尽くされた感じであろうか。モメンタム(モメンタム|証券用語解説集|野村證券)としては、気にかけておいた方が良い。往々にして大きく行き過ぎる時にこうした状況が生まれる。

  一方で、世界の株式の時価総額は世界のGDPの115%になった。働いて得る賃金よりも株を持っている方が有利であるといった感じだろうか。

 S&P500の一株を買うために、平均的なアメリカ人労働者は141時間(8時間労働として17日以上)働かなければならない計算になるそうだ。これだけを見ると、真面目に働くのが馬鹿らしくなりそうだ。

  S&P500に対するシラーCAPE指数(CAPE|証券用語解説集|野村證券)が、2000年のITバブルには及ばないものの次に高くなっている(大恐慌時を超えた)。株価が収益率に対して高すぎることを示している。これは歴史的な高値レベルだが、第二次ITバブルが最初のそれと同程度のレベルまで生じると考えれば上昇余地はまだかなりある。その余地は金利の低さが担保している。金利が全てのカギとなり、金利の変化は為替にも表れるだろう(ドル高)。

www.multpl.com 通常は、リスクオンとなればジャンク債が買われ、金などが下げる。ところが現在は両者が同時に上昇している(米ジャンク債利回りが過去最低、今年2回目の更新-ワクチン期待で - Bloomberg)。金は目先低調だが、時期を見て再び上げ始めるだろう。低金利の継続が期待されているが、同時にリスクは誰もが感じているという複雑な葛藤心理が市場を覆っている。

 

 さて、株価の変動は長期的なファンダメンタルと、短期的な需給により決まる。私ががここまでで示した内容は、Fear & Greed IndexとPut/Call Ratio以外は前者に関するものである。需給に関して言えば、現在はイケイケの状況なので今すぐに株式市場が大きく崩壊する兆候は見られない。これも以前のエントリに書いているが、きっかけがない限り現在の状況が大きく変わるということはないだろう。トリガーとして考えられるのは金利上昇と不動産価格下落、そしてジャンク債や海外債券の連鎖的破綻であろうか。VIX指数がコロナショック前の値に戻らないままだが、ジャンクの債利回りは既にコロナショック前よりも低くなった。ハイエナのように少しでも利益を求めて飛びついている状況である。だが、景気が劇的に回復でもしなければジャンク債を発行している企業が復活するとは思えない。同時に、FRBが債権を次々と買い上げることから資金的ひっ迫も容易に生じない。怖いのは、高いPERや低い利率に伴いリターン低下が生じ、リスクオンが過剰になる事であろう。

 それでは、市中にどの程度市場にお金が流れているのかを見てみよう。それにはアメリカにおけるM1資金(現金+預貯金の合計)の変化を見てみるとわかる(M2でも構わない)。アメリカのマネーサプライのうち35%は今年の2月以降に発行されている。要するに、この1年弱で新たに50%ものお金が市場に流されたことになる。経済を下支えするためであるが、弱者にお金を回す以上に金利を下げるために用いられ、結果的に投資家を潤している。アメリカ社会的分断は、今後も広がりそうだ。トランプを応援する声が根強いのは、こうした状況に後押しされている。

  ところで単純に資金供給量を考えれば、市場にある資金が1.5倍になったとすれば投資可能な費用は2倍以上に増えていておかしくない(通常、債券市場の方が株式市場よりずっと大きい)。すなわち、株式市場はもっと暴騰しても不思議ではないのだが、株式の価格は企業収益が基本となるためどこかに制限がかかる。未だに現金保有者が多いという報道が出るのは、株価の高さを危惧して投資していない人たちが存在するためである。その心理的なブレーキが、今後どこまで壊れるかによりこの先の株価が決まる。我慢しきれずに高値をつかみに行く人たちの存在。不合理であっても、それも一つの需給であろう。

jp.reuters.com ただし、市場資金の増加は将来的なインフレとそれに伴う金利の上昇を招く可能性は高い。あくまで今すぐではなく長期的な意味であるが。

  現時点では今年のマネーサプライ上昇に応じたインフレは発生していない(というかFRBが懸命に抑えている)が、過去を見ると両者には一定の相関がみられる。そのため今後数年をかけてではあろうが、コストプッシュインフレが生じる可能性は高い。

 通常、インフレ時には株も不動産もコモディティも上昇するが、株や不動産は収益率に依存する傾向があることから金利が問題となる。景気回復によるインフレならばよいのだが、コストプッシュインフレは企業収益を引き下げる懸念がある。どちらにしても金利がもd内トン理想だが、FRBがそれをいつまでコントロールできるのかということが焦点となろう。QEを言い出す勇気は持てても、テーパリングを口にする勇気はないに違いない。金融政策は、その後のことを考えると出口戦略を描けなくなっている。

www.financialpointer.com 金利の影響は多少受けるものの、最も上昇する可能性が高いのがコモディティであろうと思う。現在、コモディティ価格は株式などと比較して歴史的にかなり低いレベルに留まっている。それ故に、最も上昇余地があると言える。

  過去を見ると、およそ17年ごとにコモディティ価格が大幅上昇している。1974年、1991年、2008年ごろがピークにあたる。ちなみに底打ちは、1970年と1999年で、今が底とすればその次が2020年と言うことになるだろう。このサイクルが正しければ、2025年ごろにかけてコモディティの大幅な上昇があることになる。まあ、その通りになるかどうかはわからないが。

 私が、現在貴金属を中心に投資をしている理由はこのサイクルを想定してであるが、物事に絶対はないのであくまでそういう見方もある程度に考えてほしい。なお、世界中で中央銀行がお金をばらまきまくっているので、これも貴金属が上昇すると考えている理由である。もっとも、株式バブルが崩壊した場合には一時的にコモディティも引きずられて下落するので、このサイクルとは別に意識しておいた方がいいだろう。長期投資であれば問題ないが、短期的には20~30%下げてもおかしくはない。

 

 では、私がバブルと呼んでいる株式市場はどこまでいくのか。これを予測することは本当に難しい。実際、私は何度も予測を外している。状況変化を見ながら常に戦略変更を試みているが、そもそも数年前から私の認識では株価は高すぎるのだ。ただ、現在は上昇方向のバイアスがかかっているので、これが反転するようなきっかけがない限り上がり続ける(一時的な調整はあるにしても)と考えた方が良いと思う。更に言えば、ここのところ大きな出来高を伴わない上昇が続いている。出来高の面で言えば、7~8月ごろの上昇の方が顕著であった。要するに売る(利益確定+川売り)人が少なくなっているのが理由であろう。売っても損失を抱えることになり、または利益の機会を失うと考えているのだ。こうした時に何らかの理由で下がり始めると、パニック売りの連鎖が生じることもある。

  幸いにも、私は今回の上昇過程で空売りのポジションを作っていないので被害はないが、売りを中心としたヘッジファンド空売り投資家チャノス氏、テスラのショート縮小も解消はせず - Bloomberg)や投資家が大きな損失を計上しているという報道(モデルナ株ショートの投資家、年初からの損失が約1900億円に(Bloomberg) - Yahoo!ニュース)も出ている。通常では考えにくい一方通行の動きとなっているからだが、逆に何らかの理由により反動が発生するとすればコロナショック以上になりそうだ(詐欺の黄金時代をもたらしたのは誰?:ジム・チャノス – The Financial Pointer®)。

 今後の動きについて個人的なイメージはあるが、状況は常に変化するので決め打ちはしない。ただ、最後に一吹きするのは気長に待ち構えたい。株価は数年は大丈夫で、上昇し続けるだろうというのが多くのアナリストの予想である。だが、過剰な金融緩和にもどこかに限界がある。その限界に近づくほどに株価は大きく変動するだろう。仮にそれがあるとすれば、上昇は短期間で10~20%の熱狂的なものになるのではないか。ITバブル時のNASDAQチャートが参考になるかもしれない。

逆アヘン戦争

 意図して進められているものとは思わないが、アメリカでは大麻「大麻合法」の州がアメリカで続出している事情 | The New York Times | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)だけではなくその他の麻薬までが合法化される州が出ている(オレゴン州、ハードドラッグ所持を非犯罪化 アメリカで初 - BBCニュース)。その上で、カリフォルニア州では大麻が合法化され、アパート内での喫煙が禁止されるらしい(San Francisco bans smoking, vaping tobacco in apartments but says weed is OK)。基本は民主党議員が推し進めているようではあるが、新たな税収として見込んでいるのが何とも言えない。禁煙による税収の落ち込みを大麻でカバーしようというのであろうか。連邦議会下院でも民主党主導により同様の法律が可決された(米でマリファナ合法化法案を可決 下院で史上初 - ライブドアニュース)が、現時点で共和党過半数を占めている上院では否決されると見られている。それでも、1月に行われるジョージア州の選挙結果次第では状況が一変することも十分に考えられる(大麻合法州15に拡大、連邦レベルでの解禁は上院選の結果次第(猪瀬聖) - 個人 - Yahoo!ニュース)。

 

 大麻は飲酒や煙草よりも常習性が低く体への負担も少ないのは事実だが、その他のドラッグのエントリとして機能することから、アジア地域の各国では厳しく規制されている。欧州では、オランダで非犯罪化(合法化ではないが、逮捕されない:実はオランダで「合法」ではない大麻の利用。その歴史と現状、とある「非違法」大麻製品ブランドのビジネス(AMP[アンプ]) - Yahoo!ニュース)ことが有名だが、その他カナダやウルグアイでは最近合法化が為されている(日本国民は対象外?「大麻合法化」で知っておきたいカナダのマリファナ事情 | LifeVancouver カナダ・バンクーバー現地情報)。嗜好品としての扱いである(アメリカも州レベルでは合法化されているところは少なくない)。

 ここでマリファナがハードドラッグへの誘因となり得るのかについては議論するつもりはないが、個人の自由を理由に広がる状況(米大統領選、ブルーウェーブで大麻解禁へ 日本、水際対策が急務(猪瀬聖) - 個人 - Yahoo!ニュース)が必ずしも国家として良い状況ではないという疑念を抱いたためこれを書いている。タイトルに「逆アヘン戦争」と書いたが、今進められている大麻合法化への流れが中国により主導されているというつもりはない。むしろ、アメリカ自身が自らその方向に向かっていると理解している。だが、中国がそれを傍観するかと言えばこれも違うだろう。その他さまざまな面でアメリカから脅されている中国とすれば、これを機会にアメリカを長期的に疲弊させられるのではないかと考えてもおかしくはない。アヘン戦争を仕掛けたのはイギリスだが、その後の派遣国家となったアメリカがドラッグにより国力を失うとすれば万歳ではないか。

 アメリカはずいぶん昔より、麻薬に他する厳しい対応を続けてきた。南米やメキシコの麻薬組織を徹底的に排除し、アメリカに持ち込まれる麻薬に目を光らせてきた。大麻はそうした麻薬とはレベルが違うのはその通りだが、これにより麻薬に対するハードルが下がることは忸怩たる思いであろう。特に、反対してきた共和党としては我慢ならないのではないか(全米の大麻合法化を阻止する3人の共和党議員 | Rolling Stone Japan(ローリングストーン ジャパン))。

 

 先ほども書いたように、この流れは中国政府が画策したものではない。それでも、この動きを陰で応援することは十分あり得る。かつて自国が煮え湯を飲まされ、屈辱の状況に追い込まれた原因なのだから、私が中国人だったならばそのことは間違いなく意識する。その上で、偉大な中国の再興を掲げる中国共産党としても、リベラル系の議員を支援するという形での参画は考えるであろう。

 アメリカ大統領選挙において、中国はいろいろな活動をしていたであろう(当然ロシアも)ことは想定されているが、民主党への応援はこうした側面を考慮して進められているのかもしれない。もちろん、これは私の勝手な妄想である。中国は短期間にアメリカを凌駕する力を得ることに対しては諦めたように見えるが、長期的展望での埋伏の毒をいろいろな場所に仕込もうとしている。それは親中派議員を増加させ海外マスメディアへの資金援助、あるいは様々な反政府運動への支援など、日本でも見られる動きである。わかりやすい証拠を残すものではないが、状況証拠から窺い知れる。同様のことはアメリカもいろいろな国に仕掛けているので「お互いさま」と言うしかないが、自由の国であるだけアメリカの方が分が悪い。

 

 大麻に関する動きが、私が思うほどに大きな流れにならない可能性も十分あると思うが、相手が望むものを提供することが最高の誘導手口であるということをふと思い出した。

生産回復と消費停滞

 コロナウイルス感染による死者数は、日々広がりを見せている。ワクチン開発に関するポジティブな情報はあるものの、ワクチンが有効だとしても世界に広がるには時間が必要である(再送-ファイザーのコロナワクチン生産目標下げ、供給網の課題が一因 | ロイター)。更に言えば、ワクチンを打たないと回答する人は非常に多い(総フォロワー数100万突破!動画メディア「mamatas(ママタス)」が「コロナワクチンができたら、子どもに打たせる?」について、子育て中のママの本音を調査|C Channel株式会社のプレスリリース)。一方、現時点での経済面を見ると輸出や生産の回復は顕著である(コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク=鈴木明彦氏 | ロイター)ものの、今後消費が回復するかどうかは予断を許さない。日本ではバブル崩壊後に生産能力が過剰になり生まれたのが、デフレと言う現象であった。アメリカでも、一時的な減少かもしれないが雇用統計に陰りが見えた(米雇用統計が急減速:識者はこうみる | ロイター)。日本では飲食店の倒産状況が過去最悪と報道されている(飲食店の倒産「過去最多」が確定 居酒屋で急増、年末年始も需要縮小の恐れ - ITmedia ビジネスオンライン)。こうした状況を概観すると、製造業の回復は見られるが、政府等による給付に限界が来ればまずは消費行動から先に減速していくだろう。既に、旅行業や飲食店における消費行動の停滞は進行しており、GOTOキャンペーンで最低限のパッチがあてられていても、それは単なる延命策に過ぎない。過去の状況には程遠い。仮にワクチンが有効であれば、時間をかけてコロナ前の状態に回復することになるが、それまでの期間中に業界が回復不能な状況に至るかどうかが問われる。自殺者の増加傾向は、数字の上ではあるが明らかになりつつある(https://www.mhlw.go.jp/content/202010-sokuhou.pdf)。

 

 このように、今問題となるのはワクチンによる回復ではなく、それまでのタイムラグを 政府や中央銀行による財政政策により本当にカバーできるのかという点であろう。現在の株式市場を見る限り可能であるという反応の様だが、それは真実だろうかと疑問を感じる。例えばアメリカでは、FRBの見解は景気回復をそれほど楽観視していないように見える(現在の資産購入は「快適」、追加緩和に反対せず=シカゴ連銀総裁 | ロイター)。そのためか、今はとにかくどんな政策でも行うという姿勢が顕著である(米10年債利回り、なかなか1%に届かず-FRBが容認せずとの見方も - Bloomberg)。アメリカメディアでは第二弾の経済対策の話が出ており、株価がそれを期待してコロナの広がりと雇用状況の悪化にもかかわらず上昇しているとする。だが、第一弾の経済対策でとりあえず半年耐えてきたものも、本当に切迫してきた今となれば第二弾が出ても数か月の延命しかできないのではないか。アメリカではフードスタンプフードスタンプ - Wikipedia)やフードバンク利用者が大幅に増加しているとされる(パンデミック続く2020年末 米国では6人に1人が飢餓の懸念 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト)。

 仮に、大企業は有り余る資金を基に好調な状態を維持できたとしても、それとは別に消費行動が停滞する可能性がかなり高まっているのではないか。現在は実体経済と金融経済は大きく乖離してしまった。その原因は景気悪化を懸念した政府や中央銀行による金融緩和によるものであるが、所得の少ない人たちが生きている実体経済と、コロナ禍においても所得が減少しないあるいは株高等によりむしろ増加する人たちが住む金融経済が明らかに分離してしまっているのが現状だろう。景気を何で判断するのかは難しいが、株高による富の増加と同時に同じ国内で飢餓が進行しているとすれば、何と皮肉なことだろうか。

 

 今、じりじりとコモディティ価格が上昇を始めている。先行する形で金が上昇していたが、金が銀に代わりそしてプラチナへと移り始めた。また、石油の需要は低いままなのに原油価格も上昇を始めている。今すぐに危険な状態になるという話ではないだろうが、悪性インフレ(あるいはスタグフレーション)への道のりを意味しているのではないかと考えてしまう。消費は減退し企業業績は上がらなくなるが、並行してモノの値段は上昇していく。FRB金利を低くとどめようと努力しているが、ある時突然堰を切ったように上昇し始める悪夢。

 今がバブルか否かという議論はいろいろなところで出ているが、私は個人的に以前からバブルだと思っている。ただ、それが今にも弾けそうなほど加熱しているかと聞かれると、部分的にはそうだが全体としてはまだ先に進めるというイメージを持つ。市場に広がった資金がそれを支えているのだ。実際にテスラの株価は普通に考えれば異常なほど高いと思うし、ビットコインの再上昇も過剰流動性が生み出す(さらにはドル崩壊への恐怖が導く)現象だと思う。今は弾けるきっかけを待っている状況で、トリガーさえ引かれればいつでもクラッシュできる。ただ、そのトリガーの姿はまだ見えてこない。そして、見えない限りは惰性で上昇し続ける。

 

 テスラ株を売っていたヘッジファンドが大きな損失を出したというニュースがあった(CNN.co.jp : テスラ空売り筋、今年の損失は3.6兆円 米航空業界の損失上回る)。かつてリーマンショック時に巨額のカラ売りを仕掛けて利益を得た人たちがいるが(マネー・ショート 華麗なる大逆転 : 作品情報 - 映画.com)、その時とは構図が異なるために成功は容易ではないようだ。

 以前より、ジャンク債と不動産価格の下落にアンテナを張っているが、この両者はいずれもすぐに崩壊する雰囲気ではなさそうだ。ただ、S&P500の大部分の株式がPER 30倍以上だというのもやはり過熱感を感じさせる(S&P 500 Map)。しかも、投資会社などはまだまだ買えると推奨しているのである。まあ、こういう時は一緒になって踊らなければということであろう。ただ、ここからの参入は短期でない限りあまり奨めしたくはない。(20201206追記:こんな情報があった。株式を買う投機的ポジションが先週末に2000年のITバブル時代と同程度の比率[過去最高レベル]になった:SentimenTrader on Twitter: "Last week, U.S. options traders opened 94.8 million new equity and ETF contracts.The smallest of traders buying call options - pure speculation - accounted for 20.5 million of those. At 21.6% of total volume, that's a record high.… https://t.co/Qz2EkYy61y"。)

 私は昨年に、今年の年末までには株価が大きく(高値の半分程度まで)下落するだろうと予想した。この考えは、新型コロナにより株価が下落した後も維持してきた。維持と考えたのは二番底を想定したものでもあり、同時に世界中の中央銀行の決断を読み切れなかった結果でもある。ただ、GDPの増加(今年は多くの先進国が低下)に比して株価の上昇が大きすぎるのは間違いない。私の予想はおそらく当たらなかったが、考え自体はまだ維持しようと思う。まあ、ずっと言っていればいつかは当たるという話でもあるが、政府や中央銀行の無限の支出はないと考えるからでもある。

 

 できれば、ワクチンが有効でかつ害のないものであることを期待したい。仮にそうであったとしても、今度は消費低迷と政府や中央銀行の財政政策公交代となる訳だが、それも一つの歴史と考えるべきであろう。

ゾンビ教授が大学を亡ぼす

 日本の大学ランキングが低迷していると言われて久しい。日本でも多くの大学が、ここにきてランキングアップを目指して対応を始めているが、一足飛びに上がるものではない。こういう状況に陥った理由には数多くの要因(大学の乱立からくる研究費用の減少、定年延長からの年齢構成のひずみ、安定志向に走る研究者の増加、その他)があるだろうが、最も重要なポイントとして大学教員(特に教授)の質の低下があると考えている。正確に言えば、今の大学教員は30年前のような楽な状況ではないということ(雑務が莫大に増加しており研究時間が大きく減っている)があり、過去の教授の質が高かったと必ずしも言い切れないという意見も十分理解できる。それでも、研究において競い合う対象を持っているのかどうかわからない覇気のない人が少なからずいると感じるのだ。もっとも、そうした人ほど大学教員(特に教授)としてのプライドだけは非常に高いのだが。私は、大学教員にプライドなどそれほど必要ない(と言うか、持ち出す必要などない)と思うが、そう考えない人が予想以上に多いことに驚いた。

 一般に大学教員には、研究と教育、そして社会貢献が求められている。その中で、素晴らしい成果を上げている研究者を数多く知っている。だが、同時に十分な成果を上げなくとも辞めさせられない状況や問題点も存在している。特に、最上位ポストである教授に昇進すれば、それ以上は努力しなくとも定年(現在は65歳が普通)まで安定した収入が得られることがマイナスに働いているケースに目が付いてしまう。個人的な印象で恐縮だが、私が知る限り大学も他の企業と同じように約20~30%の稼ぎ頭:研究成果を上げる人がいて、約40~50%のそこそこ貢献する人(敢えて「普通」のレベルと呼称する)がおり、20~30%の成果を上げていない人が存在する。これは、社会における一般的な分布とあまり変わらないので、大学が特殊であるという訳ではない。そんな中、研究成果を上げていない教員ほど「教育」の重要性を主張する傾向が高くなるほは自明の理だが、実は優れた研究者である人の方が同時に優れた教育者でもあるケースが多いように感じる。教育の重要性を主張する人が、現実に教育的な成果をどれだけ上げているのかは正直よくわからない。もちろん、これは大雑把な印象からくる話なので個別のケースを見ればいろいろとあるだろう。

 

 大学における研究には基礎研究もあれば応用研究もある。応用研究は成果がわかりやすいが基礎研究はそうではないとされる。そのため、成果が出なくとも基礎研究を継続させる環境が重要だとされる。そのこと自体に反対はしない。私もそう思う。だが、50を超えて成果の出ない研究(というか、成果を出そうとして研究を行っているのかどうか疑問なケース)がままあるのだ。これを問題にするのが難しいのは、それが貴重な研究であるかどうか、あるいは成果を出そうと努力しているのかどうかが他者から判断できないことが多いからである。

 特に研究者は専門外の人から自分の研究に口を出されるのを非常に嫌う。結果としてどの研究者がどのような研究を行っているのかが、今一つはっきりとわからないなんて話があるのが実情であろう。こうした状況は、大学のIR化により改善していくとは思うが、結果として成果を残していない教授が数多くいたとしても、それらの人材を排除できないという大きな問題を抱えている。更には、そうした古参の人たちが大学運営に強い影響力を持っていたりするのである。言い方は悪いが、研究よりは学内政治を行っていると言ったほうがいいだろうか。

 

 60歳を超えても素晴らしい研究を続けている人がいると同時に、50代前半から定年に向けた時間つぶし(もちろん、批判されないよう最低限のことは行っているが)に突入する人もいる。さらに成果を上げていない人ほど、研究成果を可視化することに対して大きく反発する。自分の分野は容易に結果が出ないので比較するのが不適当だとか、頭が悪いわけではないので理屈を語らせれば非常に強い。今の時代、若手教員には厳しいハードルがいくつも課せられており、その条件はかつてよりも随分と上がっているのではないかと感じる。そんな時こそ、高い給与を得ながらそれにふさわしい成果を上げていない教授のことを「ゾンビ教授」と呼んでよいのではないかと思う。政府が支援して活かしているゾンビ企業と似たようなものである。確かに過去において素晴らしい業績を上げたかもしれないが、今それを継続できていなければやはり「ゾンビ」と呼称したい。これを解消するためには、個人的にテニュアテニュア - Wikipedia)をいったん解消してもっと限定した形で再導入したほうが良いのではないかと考えている。こうしたゾンビ教授を減らしていくために効果的だからであるが、実際にはそんな過激な策は訴訟を考えると取れるはずもなく、新たな教員採用に対して義務付けていくことになるのだろう。それでも、今の大学に対してはそれくらいのショックはあっても良いと夢想してしまう。大学がなかなか変わらないのは、旧態依然の状況を守ろうとする人が力を持っており、その発言力が強いことが理由であろう。ゾンビ教授の発言力が常に高いとは限らないが、過去の実績の身を誇り現在の自分を客観視できない人が多くなっては欲しくない。

 大学教員という地位は安住の地ではなく、常に切磋琢磨する「虎の穴」のような場所に変えていくことで、日本の大学の価値は間違いなく向上していくだろう。特に昇進を目指す教授以外のポストではなく、その先の昇進がない教授というポストにこそ必要ではないか。また、アメリカのように、専門の経営者を大学に導入するという方法もあるだろう。大学という大きな組織を、素人の教員が運営する状況は普通に考えるとなかなかにおかしい。研究者たちは研究に専念すべきであり、むしろ様々なしがらみから解かれる方向にもっていくことが望ましい。日本の大学に不足しているのは、自分たちの力でお金を稼ぐ能力である。数多くの研究者という貴重な資源を有しておりながら、それを無駄に(個人としては満足できても組織としてはパフォーマンスが十分でない状態をこう言いたい)垂れ流しているのは非常にもったいないし、同時に同じ教員同士だからパフォーマンスの低い教授を見守るしかない状況がある。稼げる大学に変えるためには、そのための専門家を雇い任せた方が良いではないか。もっとも、日本の私立大学がそこまでよいかと問われれば疑問もあるが。

 

 研究の自由を奪うというのではない。自由な風土を無くそうというのでもない。自由に研究し、その結果として社会に貢献してほしい。大部分の大学教員は素晴らしい人であり、問題がある人は一部と言ってもよい(個人的には10%程度?)。

 私は大学とは知識を与える場所ではなく、知恵を与える場所だと信じている。知恵を与えるためにはその体現者が教員であるべきであり、それ故に大学教員は研究を常に行い学生たちに見せなければならない。研究を進める姿、その取り組み姿勢、取り組み方や情報収集の方法、あるいは人脈の作り方、発想方法やプレゼンテーション法など、過去の自分の姿ではなくリアルな場面での生の自分を見せること。ゾンビ教授は口先での指導はできるが、実際に活動する自分を見せていない。結局のところ、教育においても最低限の成果を成し得ていないことにつながる。

 日本の未来は大学における研究と教育にかかってる部分が少なくない。良い方向に向かうことを期待したい。