Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

本命台湾おまけに尖閣

 今日描くシナリオは現段階ではまだ低い確率のものだと思う。ただ、一方で生じてもおかしくないと考える気持ちもあるため、思考実験としてここで考えてみたい。内容は、タイトルの通り中国が台湾に侵攻する可能性である。

 これについて中国共産党政府は、常に台湾は中国の一部であるというスタイルを貫き通してきた(一つの中国 - Wikipedia)。かつて台湾は、これもまた逆の意味で台湾が中国の正当な統治者であるという意味において一つの中国を公言してきたが、最近では台湾独立論(台湾独立運動 - Wikipedia)がかなり高まっている。それに危機感を抱いたのか、中国も盛んにけん制している(中国、台湾独立は「戦争を意味する」 アメリカは台湾支援を約束 - BBCニュース)。前トランプ政権も、当初より台湾への肩入れはある程度行ってきたが、政権末期になりそのスタンスを強めるに至った。それでも政府高官を次々と台湾に派遣するまでには踏み込めなかったのが事実である。バイデン政権がどのようなスタンスを取るかは現時点では何とも言えない。実際、識者の意見も割れているように思う。いろいろと見る限り、弱腰になるか強硬に出るかは人によりまちまちである。その上であくまで個人的な根拠のない感想だが、バイデン政権は口では強硬を振る舞いながら実質的にはそれほど強くは踏み込まないと感じている。もちろん、中国が行き過ぎたと感じるとトランプ政権以上に過剰に反応することもあるだろう。戦争に至る確率は共和党よりも民主党の方がずっと高い。

 

 少なくとも、アメリカの台湾への関与を中国が相当に気にしているのはわかる。これは米中対立を機会として、従来の一つの中国をアメリカが徐々に無効化しようとしていることもある。だが、私はそうした外交関係以上に中国の内政的な問題を理由に、むしろ中国はアメリカと部分的に事を構えても良いという方向に舵を切ることがあり得ると考える。一つには中所得国の罠(中所得国の罠 - Wikipedia)に陥る事への危機感、そしてもう一つは国内(不動産)バブルの崩壊を制御できなくなることがあるため。いずれにしても、中国共産党は徐々に成長を希望する中国国民の期待に応えられなくなっている(中国経済が米国を抜くとの予測、実現は困難 - WSJ)。それを回避するために、中国共産党政府はありとあらゆる方法を使い国民統制システム(顔認証、信用スコア等)を構築しているが、これらは平時に機能しても混乱時にはおそらく役に立たない。中国共産党政府が最も恐れているのはアメリカではなく、中国国民の不満である。

 鄧小平以降の解放改革路線の勢いで最近まで国民をそれなりに満足させられたが、ここからの更なる成長が期待できなくなりつつある。その危機感が高いからこそ、現在必死に好調な中国経済という宣伝を行い続けている。アメリカからの経済的な締め受けによりドルが徐々に枯渇(RIETI - 中国、ハイテク産業と金融システムが瓦解の兆候…事実上の「ドル本位制」が行き詰まり)しつつあり、一方で対外的な面子のためオーストラリアからの石炭輸入を抑制し、冬にも関わらず各地で計画停電に追い込まれた(真冬の中国で恐怖の大停電、市民によぎる暗黒の記憶 各地で電力使用制限、一体なにが起きているのか?(1/4) | JBpress(Japan Business Press))。

 あるいは、突然市中資金を引き揚げ株価を下落させた([注目トピックス 外国株]28日の中国本土市場概況:上海総合1.9%安で反落、人民銀の資金吸収を嫌気 (2021年1月28日) - エキサイトニュース)。世界最大級のフィンテック企業であるアントをアリババから接収しようとする動き(ジャック・マー氏の影響力恐れた中国共産党-アントは危機モード - Bloomberg)も建前上は法律違反を装っているが、実質的には共産党支配体制の維持(抵抗勢力を排除)と同時に巨大資金を手に入れるためであろうと考えている。以前のエントリでも、中国の不動産価格は数年前よりかなりの場所で下がっていることを書いたが、規制によりいつまで塩漬けできるかは不明である。時間が経つほどに資金繰りに問題の出る企業が増えていくだろう。現在でも国営・民間を合わせかなりの企業倒産がある(RIETI - 中国、企業債務が過去最悪圏、破綻急増に警戒高まる…米国の会計監査強化が追い打ち)が、経済危機には結びついていない。そのコントロールもどこまで継続できるかお手並み拝見といったところである。

 

 メディアではコロナ感染症が広がる中で中国の経済一人勝ちと報道するが、私はそれをあまり信じてはいない。確かに現時点で輸出は多少好調かもしれないが、むしろ衰退しつつある状況を必死に誤魔化しているのではないかと予想している。もちろん、本格的な崩壊が始まれば情報の広がりを抑えきれないだろう。だから、現時点で既に大きく悪化しているとまでは言うつもりはない。ただ、失業率は非常に高いまま(中国の失業者、農村部を入れれば1億4000万人か 政府発表より多い(NEWSポストセブン) - Yahoo!ニュース)なので、景気が良くなっているというとはとても言えないだろう。良い部分のみを抽出して宣伝するのは、中国や韓国では常套手段である。

 どちらかと言えば、現状は経済状況や今後の見通しはかなり悪化していることを認識しているのだが、米中対立のみならず欧州を含めた主要国とも徐々に関係性が悪化する中で、弱みを見せられないというのが正直なところではないだろうか。今後も、バイデン政権になったからと言ってアメリカが極端に対中政策を弱めることはない。というのも、議会が反中国で一致しているためであり、意地の張り合いが今後も継続する。ただ、現状でそのまま経過する時間は中国にとって不利な方向に働く。だからこそ、日本に秋波を送り韓国を取り込もうとする。

 そして、この状況に耐えきれなくなった時に取り出す方向性が、おそらく台湾進攻であろう。ただ侵攻により得られるメリットは正直それほど高くない。仮に台湾を戦争により実質的な支配下に置けたとしても、経済的メリットはゼロに近い。どちらかと言えば中国国内の戦意高揚と、それによる統治力の強化である。尖閣問題については、そのついでに奪っていこうといった感じか。尖閣の方を施工的に先に奪いに来る可能性も低くない。それにより日米の反応を確かめるというのもあるだろうし、それにより日本の動きを封じ込めるというのもあり得る。

 

 さて、こういった予想をすると中国を暴発させないために、話し合いによる妥協を図ったほうが良いという意見が出るだろうが、それが上手くいかないのは南シナ海の埋め立て基地問題で既にわかっている。そもそも話し合いで解決できるのなら、チベット問題もウイグル問題も、香港問題も内モンゴル問題も生じてはいない。そうした声に対し嘯き、強引にねじ伏せてきたのが中国のやり方である。

 随分前に、ウイグル問題をナチス以来の大虐殺と書いたことがあったが、前トランプ政権は退陣間際にそれをようやく認定した(米、中国のウイグル族「虐殺」を認定 新政権発足直前に発表 | ロイター)。バイデン政権もその認識を踏襲している。中国自身も世界を敵にする火遊びをしたいわけではないだろうが、そうせざるを得なくなるような状況に向かい徐々に歩みを進めているようにも見えているから気持ちが悪い。