Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

景気の行方

 先週は、リーマンショック以降で最大の株式市場の下げを記録した(世界株安「弱気相場」の足音 日経平均、2万円割れ寸前 :日本経済新聞)。とは言えど、トランプ政権成立後のアメリカ株式の上昇は非常に大きく、PER(野村證券 | PER(証券用語解説集))も一時20倍を超えていた(NYダウ PERチャート | 日経平均株価 AI予想)。標準とされる10~15倍程度を上回っており、過去こうした上昇の後には急激な下落が生じることが多い。これは株式市場の行き過ぎた期待感を修正する自浄作用であるが、往々にして市場はこうした反動に過敏なショックを見せる。

 もちろん現時点でアメリカも日本も景気の状況は悪くない。だから、なんとなく嫌な予感はするものの、なぜそれほどまでに株価が反応するのかをいぶかしげに感じる人もいよう。もちろん、そんな世界とは縁がないと気にしない人もいる。しかし、就職氷河期に正社員として就職できずに、結局非正規に甘んじている人はしばしば取り上げられる(40代無職と70代無職の親子が「共倒れ寸前」は自己責任か 「7040問題」が氷河期世代を襲う - 「文藝春秋」編集部)。あれも景気の動向に左右された大きな社会問題の一つである。知らず知らずのうちに人々はその流れに翻弄される。

 株式市場は景気の先行指標として、概ね半年から1年ほど先を行くとされる。株式市場の不安感は将来的な景気悪化を予想していると見た方が良い。同様に不動産価格も先行指標とされ、こちらもピークアウトを示唆する指標は既に出ている(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54093&pno=5?site=nli)。ただ、現状急激な落ち込みとなっているわけではなく、特に首都圏では建設業者の受注残がかなりあるとの話も聞いている。もっとも、中国資本等による爆買いにより支えられてきた部分もあり、崩壊しつつある(それを政府が凍結して支えている)中国不動産市場を見る限り、先行きはそれほど明るくない(【コラム】凍結する中国の不動産投資:時事ドットコム)。このあたりは景気の減速と相まって生じる現象であり、景気が悪化すれば不動産価格も下落、それが下落すればさらに景気が悪化するという負のサイクルを引き起こす。正常値に戻るだけであれば良いのだが、上げ過ぎたものはその分下がり過ぎる。このあたりの機微は市場のマインドに支配されるため難しい。その際たるものがバブル崩壊と呼ばれる。実際、ブラックマンデー(1987年ごろ)、ドットコムバブル崩壊(2001年ごろ)、リーマンショック(2008年ごろ)と概ね10年ごとにこの様なサイクルを繰り返している。

 何にしても、現在アメリカは多少の景気の減速を許容しても中国を抑え込むことを決意し(中国との冷戦を宣言したペンス副大統領:日経ビジネスオンライン)、中国への貿易依存度が未だ高い日本は間違いなくその対立の影響を受けるであろう。世界的な景気減速の引き金をどこが引くかを注視してきたが、現状では予想通り中国がその中心となる可能性が高いと睨む。以前にも書いたが、中国は独裁体制であり無理矢理に景気減速を抑え込むことが可能である。実際、株価暴落抑止のために突然多くの銘柄の取引停止を行っているし、不動産価格も社会不安を招かないため固定されていると見る向きもある。だが、それにも必ず限界はある。米中対立は、いくつかの和解や対話を経ながらも間違いなく長期間継続する。アメリカが求めるレベルの譲歩は、中国にとって受け入れられるものではない。なぜならアメリカの狙いは中国共産党支配の解体であるからである。

 かつて、共産党政府の支配を容認した方が都合よかった時代は、チベット問題もウイグル問題も黙殺されてきた。だがその状況が一変した今、中国の力を削ぐためにアメリカは様々な手を尽くして対立を続けるだろう。もちろん中国は容易に折れない力(軍事力、経済力、サイバー攻撃力、ロビー能力)を有し簡単には引き下がらない。アメリカも一枚岩でないが、中国はそれ以上に権力構造が複雑で脆い。両者とも不確定要素を数多く抱えている。それでも、中国共産党政権懸命の対策にもかかわらず、景気悪化は間違いなく世界に広がる。加えてアメリカ自身にも弱点はあり、リーマンショック前以上のジャンク債市場が広がっている(ジャンク債ぎりぎりの米社債、空前の規模に - WSJ)ことがそれである。多くの新興企業やシェールオイル企業などが、ジャンク債による資金調達を行っているが、これらは景気の状況が良いことを前提としての利率であり、あるいは原油価格が一定以上であることを必要とする。その市場が崩れ始めていることは多くの情報が示している(ジャンク債投資家も動揺-4日で6060億円流出、ETFが中心 - Bloomberg)。景気動向原油価格には相関関係があり、中国の景気低迷は原油価格の低下につながる(40ドル割れの可能性が出てきた原油価格 高まる原油需要減少の懸念、減産合意の実効性には疑問符)。それはすなわちジャンク債の価値下落につながる。リーマンショックの時にもサブプライムというジャンク債が引き金の一つを引いた。それよりも大きく、似たような構造が現在存在している(レバレッジドローン:レバレッジドローンが以前より「危ない」理由 - WSJ)。

 もう一つ、欧州でもドイツ銀行問題(世界的株安は回避できるか ドイツ銀行が破綻危機から脱せない理由)も時限爆弾のように存在している。大きすぎる故に容易に誰も触れることのできない問題は、急激な破たんを意味するものではなくとも、世界的な景気悪化に耐えられるかという大きな疑念を抱かせるだろう。要するに、現状の世界的な景気拡大により恩恵を受けているところは、それの反転により窮地に陥る可能性が高いということである。こうした問題については何年も前から多くの人が指摘している。私も以前より株価が実体経済以上ではないかと感じ、それに関するエントリを何度か書いてきた(それでもバブルを生じさせるであろうことも予想した)。もっともその時期や程度については全く予想が当たっていないので、自慢できるようなものでもない。他にもより正確に予想していた人も少なからずいると思う。現状、GAFA等による情報収益モデルの世界展開(もちろん他にも現在等様々な要因がある)により企業収益が大きく上昇するという夢を市場は見ることができた。特に金融緩和の余剰資本がそれを膨らませてきた。だが世界経済の実体は有限であり、GAFAGAFA(がーふぁ)とは - コトバンク)は直接の生産活動には大きく寄与していない。イメージとしてはリーマンショック前の投資銀行の在り様にも似ている(Appleはモノを作っており、Amazonも流通に寄与しているため全く同じではない)。こうした情報産業の収益モデルは、実体経済に寄生してお金を吸い上げていくものに近い。株価がそれに依存しているとすれば、その足下は思っている以上に脆いのではないだろうか。

 私自身の当たらない予想ではあるが、今後2~3年をかけて株価はピークの半分程度にまで低下していくのではないかと考えている。状況次第ではそれ以上に下がることもあるかもしれない。これは例えばNASDAQの長期チャート(NASDAQ Composite Index, COMP Quick Chart - (NASDAQ) COMP, NASDAQ Composite Index Stock Price - BigCharts.com)を見ても直感的に感じられるのではないか。仮にトランプ大統領FRB議長を解任しようが、中国が減税政策を推し進めようが容易には変わらないのではないか。FRBが再度の量的緩和にまで踏み切れば回避されることもあるだろうが、これも現在広がっているバブルの延命に過ぎないと個人的に理解している。むしろ景気悪化に耐えられない中国政府が暴力的な行動に出たとすれば、さらなる下落を招くだろう。

 バブルの崩壊は、それが始まった段階では誰にもわからない。崩れた後になって初めてそれがバブルであり、そして崩壊したのだとの認識に至る。予想が外れて世界経済が引き続き堅調なまま進んでくれることを期待したいが、最悪を考えて社会見て行動したいと考えている。