Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中国の増長

 私は以前から中国とアメリカの間で戦争が生じる確率はそれほど高くないと考えてきた。現代社会において武力的な戦争の経済的なメリットはそれほど高くないのが現実である。むしろ、経済支配(経済植民地化とも言う)により実質的な富の収奪を行う方が効果的なのだ。実際、アメリカは基軸通貨であるドルを用いて近いことを成功させている。それ故に、一帯一路(中国経済圏の拡大)とかデジタル人民元の拡充(通貨圏の拡大)などを中国も行おうとしてきた。アメリカの後を追い、アメリカに取って代わることを目指して(実際にはアメリカとの棲み分けを目指して)である。とは言え、中国が進める経済覇権の拡大をアメリカが見逃すはずもない。現在米中で行われている駆け引きは、単なる対立ではなく冷戦というか実質的な経済戦争である。世界から富を吸い上げるための構造をどちらが多く握るかと言う意味での。

 もっとも、過去の冷戦と異なるのは経済的な切り離しが不十分なままで対立が生じていることであろう。アメリカとソ連の間のそれはもっと徹底的なものであった。今は多少アメリカ政府がデカップリングを進めているが、両国経済の結びつきはかなり強固であり、また民間企業が政府の言うことを聞く保証もない。こうした状況は、これまでアメリカが中国をサポートしてきた経緯がある。私はその理由を、アメリカが潜在的には日本を脅威と考え、日本に対する抑え込みを行うためであると見ている。アメリカは日本を同盟国であると同時にライバルと考えている(バブル崩壊後はかなりその状況は減少したが)。脅威と認識する程度は、共和党の方が同盟国とみなす傾向が高く、民主党の方がライバルとみなしがちだ。また、アメリカも中国の提供する経済メリットを受け取ることで、これまでは中国のわがままを見逃し続けてきた。逆に言えば、中国はアメリカの顔を少なくとも立ててきたのである。だが、数年前(習近平の方針変更)より状況は一変した。

 さて、最近の中国から出てくる声は非常に威勢が良い(「目を突かれて失明しないよう気をつけよ」中国が米など“ファイブアイズ”を牽制(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース)のだが、これをどのように読み解くべきであろうか。過去にも何度も触れたが、現在中国は世界中に喧嘩を売りまくっている。台湾は言うまでもないが、その他にアメリカを筆頭に、オーストラリア、インド、カナダ、そして日本(尖閣に侵攻しながら秋波は送ってくるが)やアセアン諸国にも様々な圧力をかけようとしている。国家間の交渉は飴と鞭の両者で均衡を得るのが通常だが、かなり鞭の要素が高まっている印象が感じられる。私個人としては中国の国際戦略はお世辞にもうまいとは思わないのだが、彼らは徹底して行うために揺るぎがない点が日本などと異なる。

 

 中国が世界的な存在感を高めているのは言うまでもないが、ここにきての態度の変化がどのような理由によるものかが重要であると思う。すなわち十分な自信をもってアメリカとの対立(あるいはアメリカへの譲歩)を選択したのか、それとも国内的な不安定さゆえに対外的な敵を作らなければならなくなったという消極的な選択である。前者よりも後者による方が突発的な戦闘開始の可能性は飛躍的に増大する。中国共産党政府が事態をコントロールできているかいないかの違いが理由で、後者はコントロールができていないからこそ敵対せざるを得ないという訳だ。

 傍証的な情報はいくつか見えてくるが、間違いなく後者であるという明確な根拠はまだない。実際に国際関係は様々な要素が複雑に絡み合い、前者の要因と後者の要因が同時に併存しているのが普通である。強いて言えばキャスティングボートをどちらの要因が握っているかと言う問題であろうか。本来、将来的に間違いなくアメリカを凌駕できるという余裕がある場合には、戦狼外交なような強権的なスタンスを取る必要がない。放っておけば自分たちがどんどんと力を得ることができる(逆にアメリカは衰退していく)のだから。「金持ち喧嘩せず」はこの場合においても真理であろう。だが、現実はアメリカにこそ強くは言わないが、その他の国にはかなり高圧的である。それは、自分たちが勝っている(あるいは間違いなく覇権を握る)とは信じていない結果だと思う。

 本来、覇権を確立するためには味方となる国をどれだけ増やせるかが重要なのだが、国連における一票を期待した途上国へのお金による抱え込みはできていても、それ以外の国家を十分ひきつけられてはいない(一時期AIIBや一帯一路で順調に動きかけたが、アメリカの抵抗から流れが変わった)。お金では振り向かせられても、信用で他の国を引き付けられなジレンマのような状況である。成金が本物の金持ちになれない状況と言ってもよいかもしれない。もちろん、将来的にアメリカの覇権を覆す可能性が皆無とは言わないが、中国の今の焦りのようなものを見るにつけ、その野望が遠のいているのではないかと思うのだ。

 

 そうした状況を鑑みると、中国が諸外国への恫喝を強めるほどに彼らは自分たちが苦しい状態にあると自白しているように見えてくるから不思議なものだ。彼らは増長しているのではなく、背伸びをして自らの強さを誇示しなければならないという訳である。その背伸びは、周辺国の反発を招くものであるということもわかっているだろうにやめられないのだ。コロナワクチン外交も、欧米を崩すところにまでは至っていないし、デジタル覇権についてはアメリカを中心にじわじわと締めつけられる体制を整えられている。コロナ感染の拡大により一気に中国締め付けの流れが進むことはないかもしれないが、大きな流れは現時点では決している。

 中国が焦っている理由はいくつか想定できる。一つ目には、予想以上に欧米諸国やアセアンなどからの批判や反発が多いこと。ある程度は予想していただろうが、抑え込みや懐柔により打破できると踏んでいたフシがある。国連を通じた数の外交に対しては、アメリカが徐々に国連のプレゼンスを下げる方向で骨抜きにしつつある。二つ目には、国内で膨張しすぎたバブルのコントロールが困難(中国国有企業がまたデフォルト、財務状態に懸念広がる | ロイター)になってきていること(中国企業ドル建て債の不履行、昨年3倍の約1.3兆円=香港紙)。中国内需の大部分は不動産開発によるもの(中国、中小銀行の破綻処理終結 不良債権比率98% :日本経済新聞)であるが、その後の稼ぎ頭とする予定であったAIや半導体中国「半導体崛起」沈滞か…清華ユニが破綻の危機 | Joongang Ilbo | 中央日報)、その他先進技術の開発にアメリカを中心とした妨害が入ったことによる(RIETI - 中国、ハイテク産業と金融システムが瓦解の兆候…事実上の「ドル本位制」が行き詰まり)。もちろん、西側諸国からすれば中国の技術剽窃を阻止するための行動であり、基本的な構図としては中国が最先端の技術(あるいは技術者や研究者)を盗もうとしたという問題である。既に中国の経済成長は止まりつつある。三つ目には、今後莫大な高齢者への対応をしなければならない(60歳以上が5億人に…!「超高齢大国」中国の未来がヤバすぎる(近藤 大介) | 現代新書 | 講談社(2/4))が、そのための体制が全く整っていないことである。一人っ子政策は撤回されたが、残念ながら子供の数が劇的に増加しているわけではない。国家としての人口バランスは著しく歪なままである。

 

 時間がたてばアメリカの経済力を凌駕するという声も少なくはないが、平和的な形での発展の形(すなわち世界が認める形式)がなければ中国の経済成長はそれほど簡単ではないだろう。成長がストップすると、あるいはこれまで必死にかさ上げしてきたバブルが崩壊すると、中国内部には相当の不満が蓄積し、場合によっては暴発する可能性は低くはない。それをコントロールするために治安維持に多大の資金を投入し、信用スコアを使った政府反乱や暴動抑止システムまで構築(社会信用システム - Wikipedia)している。「弱い犬ほどよく吠える」ではないが、苦境にあるからこそ強気を見せなければならない。北朝鮮を見ていればよくわかるではないか。

 逆に言えば、中国国内でも弱気を許容できる柔軟さや寛容さがあれば、中国は本当の意味での世界大国になれるであろう。だが、今のところそのような厚みのある言論空間も社会も中国には存在しないし、むしろそれは抑圧されつつある。恐ろしいのは、このように塗り固められた化粧の裏にはどろどろとした実情が存在し、しかし表面的な成功の部分のみをクローズアップし続けようと中国共産党政府が考え続けたとすれば、その先には戦争の文字が見えてくる。ここで言う戦争は、経済戦争ではなく武力によるものである。経済成長ではなく、別の勝利を求めなければならないのだ。その発端を誰が切るかはわからないが、可能性が高まりつつあるのは確かではないかと思う。