Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中国は食糧危機に陥るか

 中国で、贅沢禁止令が再び出されたことに波紋が広がっている(習近平主席が突然の「贅沢禁止令」 権力闘争への発展あるか(NEWS ポストセブン) - Yahoo!ニュース)。これを対米方針に関係する権力闘争の一部としてみる意見もあるが、それ以上に中国の食糧事情が切迫し始めたと取る向きもある(中国による「日本の米」買い占めが現実味…食糧消費大国の中国で食糧不足が深刻化)。どうやら、外食の際には人数-1までしか料理を注文できないと言うほどの徹底ぶりという情報もある。食べ残しをなくすという厳しい内容と言えるだろう(習氏、食べ残し禁止大号令「コメ一粒ずつに農民の苦労」…コロナ・米中対立で食料輸入に不安 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン)。従来より、来客に対してではあるが残るくらいに提供するのが中国の伝統であり、それを否定するような支持となっている。もちろん、無駄な残飯を無くしていくこと自体は悪い話ではないが、規制をかける方法論がどのようになるかで中国人民の不安や不満も変わってくるだろう。

 事実としてブラジルから大量の穀物を輸入し、アメリカからの買い付けも増加しており、程度はともかくとしても余裕がなくなりつつあるのは間違いない。昨年よりアフリカ豚コレラの影響で3割以上の豚が処分されたとの報道もあり(中国政府はもっと少なく発表しているが、実際に豚肉価格はかなり上昇している)、中国人の食卓には少なからぬ影響が出ている。今回も食糧価格が1年近く上昇し続けていることへの対応であろう。

 こうした憶測に対し、人民網は当然危機を否定する(世界の穀物生産大国が輸出を中止、中国は食糧危機に陥る?--人民網日本語版--人民日報)。しかし、中国の場合には否定するほどにそれが重要なポイントであることを示してしまう癖があり、余裕がなくなりつつあると見るのが正しいと思う(食糧危機発生か? 中国当局、各省に食糧増産を命令 大豆など輸入増)。もちろん、急に食糧不足で黄巾の乱が生じるというはずもないのだが。

 

 現在、中国国内では数多くの問題が生じている。既に触れたアフリカ豚コレラの蔓延から、新型コロナに蝗害(北部と南部で生じているが、アフリカやインドのものとはまた別)、さらには今年に入っての広範囲にわたる洪水により穀倉地帯が大きな被害を受けている(中国「食べ残し禁止令」は今秋の食料危機への注意報 洪水、バッタ、アフリカ豚コレラで食料生産が大打撃(1/3) | JBpress(Japan Business Press))。一部には王朝末期に生じる天変地異と疫病のパターンとも言われ、ソ連と同じように建国72年(2021年)で崩壊するのではとの楽観的な予想もあるが、私はそれほど容易には崩壊しないと見ている。少し前より第二の長征ともいえるような農村回帰を謳い始めている(上山下郷運動 - Wikipedia)が、徐々に中国の経済成長が困難になってくることを意識している故の施策であろう。

 現在の習近平体制は、ある意味で中国共産党政権を現状のまま生き延びさせる唯一に近い方法論であり、どれほど批判されようとも目的を変えない限り変化しようがない。仮に習近平体制が打倒され、新たな政権が始まったとして(さらには一時的に西側諸国と融和的に振る舞ったとして)も、共産党体制が変わらない限りにおいて方向性に変更が生じることもないだろう。これまではパイの拡大により圧政はあっても中国人民を満足させてきたが、今後はそれが徐々に困難になっていく。食糧問題もその文脈の中にある。

 

 さて、アメリカと表向き敵対している中国は二つの意味でアメリカに依存している。一つは金融面。ドルに人民元が取って代わるという予防は抱き続けているだろうが、現状ではそこに至るにはまだまだ道のりが遠い。エネルギーと食糧の決済の大部分はドルのままであり、容易に変更はない。もちろん中国と大きな経済的互換関係に至っているアメリカは、部分的なデカップリングを進めているものの、こちらも一足飛びに完全な分離を果たせない。

 だが、中国も一部の穀物(主に大豆やトウモロコシ)の自給率は大幅に低く、その供給をアメリカを中心とした外国に依存する。特に畜産業のエサ問題は深刻である。要するに、最低限の食料までがすぐに不足することはないものの、舌の肥え始めた中国人民を満足させるのは難しい。カロリーベースでは問題なくとも、不満が高まれば共産党政権に対する批判が噴出してしまう。特に、人民解放軍の兵士たちがきちんと食べられるかどうかが大きなポイントではないか。

 

 中国の戦略は、深謀遠慮というよりは場当たり的だが決して諦めない執念深さが特徴である。長い時間をかけて目的に到達する。これは、上意下達が可能な国家体制に加えて、住民の不満を押し込められるだけの監視圧力や暴力装置を持っていることにより成立する。だが悲しいかな、食糧に関しては絶対的な力をアメリカが持っている。中国の抵抗を含めて紆余曲折はあるだろうが、中国が食糧危機に陥るかどうかは、アメリカ次第ではないか。ただ、それこそ武力による米中戦争の引き金になりかねない行為であるので、そのトリガーが引かれるとは思わないが。