Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

日韓情勢概観

 日本の韓国に対する輸出特例を一部解除した問題は、日本と韓国の間の問題ではなく、実質的な米中貿易戦争の一環とする認識がある(日本に追い詰められた韓国 米国に泣きつくも「中国と手を切れ」と一喝 | デイリー新潮)。リンク先における日本最高の韓国ウォッチャーである鈴置氏の説明は非常にわかりやすい。特に、アメリカからの圧力問題は韓国からの報道を見ていても決してわからない。日本のメディアにも、こうした複数の報道を分析する能力があれば、もっと良いニュースが流せるだろうに、非常に残念なことである。これらはすべて公開情報なのだから。

 

 よく言われることとして、スパイの大部分はこうした公開情報をうまく組み合わせることで、各国の実情を知るというものがある。映画の様なスパイはごく一部にはあるかもしれないが、最終兵器としては役立っても大勢を決定づけることはできない。

 様々な報道を比較検証している人たちは、この日韓の貿易摩擦も米中経済戦争の一環にあるということは理解しやすいと思う。韓国はすでに中国にBETしずぎており、有効な対策を打てない状況にある。もともと、韓国という国は一点集中型のギャンブル的な経済運営により大きく発展してきた。だから、金融システム等はいまだ脆弱なままである。そこまで手が回っていないというか、背伸びすることで日本に追いつけ追い越せを実践してきた。

 

 その手法には種々の意見もあろうが、結果として日米関係をうまく利用して日本の力を削ぎたかったアメリカを、さらにうまく利用して成長の道筋をつけた。日本の行動成長期からバブルへの流れがアメリカに警戒感を抱かせ、中国活用日本叩きの行動に移させた。その一環として、中国よりも成長軌道に乗りそうな同盟国である韓国が重用されるのは当然の帰結でもあろう。

 だが、ここにきて日本経済は大きく力を落とし、一方の韓国は次代の覇権は中国に移るとそちらに大きくBETした。ここ10年近く、アメリカは韓国の中国傾斜を抑制するように様々な働きかけを行ってきた。多くの日韓問題では、大部分で韓国を擁護してきたのである。日本人が、悔し思いをため込みながら韓国の横暴を受け入れざるを得なかった理由の大部分は、アメリカの政策にある。もちろんそこからの独立を言う人は少なくないが、独自の武力を持たない日本にその選択肢はない。

 

 だが、その情勢は現在大きく変わっている。特にトランプ政権が日韓関係に無関心だというのもあるが、それ以上に韓国のわがままを許さないという認識がアメリカに広がっていると考えるべきであろう。それがなければ、今頃日本政府は韓国との協議に応じなければならない状況に追い込まれていた。

 今回の貿易問題は、端緒としては韓国の戦略物資の扱いがずさんであることだが、それ以上に大きな構図として韓国の立ち位置を再確認させることがあると見ている。所謂徴用工問題(戦時労働者問題)などは、そこにトッピングとして日本が飾り付けたにすぎない。アメリカからすれば、徴用工問題がどのように解決されようとかまわないのだから。そういう意味で、アメリカが日本の肩を持つのは韓国の立ち位置が、アメリカが許容できない範囲に移りつつあるためである。もちろん、国際情勢の変化から地政学的に韓国の重要性が低下しつつあるというのもあるだろう。

 

 その上で中国にBETしすぎた韓国はそこから抜け出せないと私は考えている。韓国からすれば、日本には恫喝と裏からのささやきで何とかなる国という認識が染みついている。一方の中国は決して甘くない。そして、韓国の貿易は日本よりもずっと中国の方が多い(OEC - 韓国 (KOR) 輸出, 輸入, と 貿易パートナー)。輸出で25%(日本は4.5%)で輸入で21%(日本は11%)なのだ。さらに、文政権の至上命題である北朝鮮との関係をフォローしてくれるのも、アメリカではなく中国である。

 さらに、韓国は中国やアメリカには頭を下げられても、いや逆にその二か国に頭を下げざるを得ないからこそ、日本にだけは頭を下げたくないという強烈な心理がある。何度も触れているように、現実を見ない(見えなふりをする)ことは決して良い結果を導かないが、彼らはその代償行為を日本に集中することで自尊心を満足させることに慣れすぎた。昨日、韓国の国会議員が遺体で発見された(李元大統領側近の前国会議員が遺体で発見-Chosun online 朝鮮日報)。それが自殺なのか他殺なのかはわからないが、わずか数日前に日本製品不買運動は意味がないと発言していた(鄭斗彦元議員「日本製品不買に反対…日本がなければ国産品作れない」(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース)議員である。詳細は今後の報道を待たなければならないが、こうした流れは声を上げようとする人を確実に委縮させる。妄想するとすれば、北朝鮮にとっては日本と韓国の離間は非常に都合よい。そのように世論が作り上げられてしまっている。

 

 韓国は自覚も十分ではないままに、中国の代理としてアメリカの代理である日本と経済戦争に突入を迫られるのではないかと想像している。これは韓国民の意思とは何ら関係ない。それに対して日本は万全といえるかどうかはわからないが、一定の対策は考えているだろう。どのレベルでの争いを想定しているかにより、日本が受けるダメージが決まる。現状のような小手先のものではなく、もっと本格的な争いに移行するだろう。そして間違いなく日本もダメージを受ける。戦場的には、貿易そのものではなく以前と同じように歴史戦であろう。日本ディスカウントは、今後も激しくなっていく。

 その可能性を考えてか、リベラル系のメディアはこのトラブルが大きくなると日本もダメージを受けると主張し、両成敗的な形でありながら実質的に日本が降りるべきだとの認識を示している((社説)対韓輸出規制 「報復」を即時撤回せよ:朝日新聞デジタル)。これは、米中貿易戦争に中国が勝利した場合のBETに加え、日韓の貿易戦争が激化した場合の日本の弱みを拡大させるうえで、効果的な楔であろう。もちろん、どこの国のメディアなのかという意見はあろうが、リベラル系メディアの敵は現自民党政権である(極論を言えば長期安定政権である安倍内閣と言い換えてもよい)。敵の敵は味方と同じ論法で中国や韓国に近いように見えるだろう。

 

 さて、米中貿易戦争やその代理戦争たる日韓貿易戦争の勝者がどうなるかを完全に予測することはかなわない。特に、世界経済が落ち込んだ場合にはアメリカの政権交代も十分考えられるだろう。場合によってはパンダハガーと呼称されるバイデン氏が次の大統領になることすらありうる。極端すぎるトランプ政権が一定の支持を得られるのは、何より経済状況がよい(株価、雇用)からなのだから。

 私は短・中期ならアメリカが有利、総力戦や長期戦に耐える状況に持ち込めれば中国も勝ち残る可能性があると考えている。もちろん、中国の経済も壊滅的な被害を受けたうえでの話だが。共産党政権が生き残れば、強権により再浮上も不可能ではない。アメリカは力としてはまだ十分に中国より強いが、アメリカ(あるいは民主主義国家)固有の弱さを抱えている。早期決戦のための分散された戦場が、香港であり台湾であり、そして日韓ではないか。

 

 ただ、少なくとも現在のアメリカの認識は日本を味方にすることに重きを置いている。安倍総理の外交の成果だと個人的には評価している。アメリカのみにBETすることがよいのかという疑問はあろうが、米中戦争の趨勢が見えてくるまではアメリカとの距離を縮めておいた方が賢明ではないか。中国との天秤をかければ、そこを突破口として利用される可能性は高い。

 また、現状中国の景気は非常に悪い。だからこそ、日本には甘い声で接近しようと試みている。日本としては決別するではなく、だが近寄るでもない姿勢を続けるのではないか。安倍政権以降もそのあたりの対処は完ぺきではないが、それ以降の政権がとる判断の方が今後の日本を左右するだろう。中国が内部事情により焦るようなことがあったなら、安倍排除の動き(何らかの情報戦)を起こすかもしれない。

 

 ちなみに、半導体原材料の輸出は韓国がしびれを切らす前後で、一度一定量は許可されるのではないかと予想している。ただし、量は間違いなく減る。横流しがないことを証明できる、あるいは過去の紛失分を説明できる(できなくとも、今後そうしないことを「十分に」説明させる)レベルで輸出再開となろう。そうれば、現状騒いでいるWTO提訴問題は全く意味を持たなくなる。その上で、日本は半導体製造の量をコントロールできるようになる。韓国が何かするたびに、徐々に許可される量が減っていくのだ。そして、最終的には半導体製造が日本とアメリカに還っていく流れが想像しやすい。

 少なくとも、容易に中国に製品だけでなく技術が流れない体制が固められていくことになる。そこに韓国という国家の存続や経済の状況は顧みられる必要はないのである。