Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

生産回復と消費停滞

 コロナウイルス感染による死者数は、日々広がりを見せている。ワクチン開発に関するポジティブな情報はあるものの、ワクチンが有効だとしても世界に広がるには時間が必要である(再送-ファイザーのコロナワクチン生産目標下げ、供給網の課題が一因 | ロイター)。更に言えば、ワクチンを打たないと回答する人は非常に多い(総フォロワー数100万突破!動画メディア「mamatas(ママタス)」が「コロナワクチンができたら、子どもに打たせる?」について、子育て中のママの本音を調査|C Channel株式会社のプレスリリース)。一方、現時点での経済面を見ると輸出や生産の回復は顕著である(コラム:「経済が大事」という優しさが高める景気底割れリスク=鈴木明彦氏 | ロイター)ものの、今後消費が回復するかどうかは予断を許さない。日本ではバブル崩壊後に生産能力が過剰になり生まれたのが、デフレと言う現象であった。アメリカでも、一時的な減少かもしれないが雇用統計に陰りが見えた(米雇用統計が急減速:識者はこうみる | ロイター)。日本では飲食店の倒産状況が過去最悪と報道されている(飲食店の倒産「過去最多」が確定 居酒屋で急増、年末年始も需要縮小の恐れ - ITmedia ビジネスオンライン)。こうした状況を概観すると、製造業の回復は見られるが、政府等による給付に限界が来ればまずは消費行動から先に減速していくだろう。既に、旅行業や飲食店における消費行動の停滞は進行しており、GOTOキャンペーンで最低限のパッチがあてられていても、それは単なる延命策に過ぎない。過去の状況には程遠い。仮にワクチンが有効であれば、時間をかけてコロナ前の状態に回復することになるが、それまでの期間中に業界が回復不能な状況に至るかどうかが問われる。自殺者の増加傾向は、数字の上ではあるが明らかになりつつある(https://www.mhlw.go.jp/content/202010-sokuhou.pdf)。

 

 このように、今問題となるのはワクチンによる回復ではなく、それまでのタイムラグを 政府や中央銀行による財政政策により本当にカバーできるのかという点であろう。現在の株式市場を見る限り可能であるという反応の様だが、それは真実だろうかと疑問を感じる。例えばアメリカでは、FRBの見解は景気回復をそれほど楽観視していないように見える(現在の資産購入は「快適」、追加緩和に反対せず=シカゴ連銀総裁 | ロイター)。そのためか、今はとにかくどんな政策でも行うという姿勢が顕著である(米10年債利回り、なかなか1%に届かず-FRBが容認せずとの見方も - Bloomberg)。アメリカメディアでは第二弾の経済対策の話が出ており、株価がそれを期待してコロナの広がりと雇用状況の悪化にもかかわらず上昇しているとする。だが、第一弾の経済対策でとりあえず半年耐えてきたものも、本当に切迫してきた今となれば第二弾が出ても数か月の延命しかできないのではないか。アメリカではフードスタンプフードスタンプ - Wikipedia)やフードバンク利用者が大幅に増加しているとされる(パンデミック続く2020年末 米国では6人に1人が飢餓の懸念 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト)。

 仮に、大企業は有り余る資金を基に好調な状態を維持できたとしても、それとは別に消費行動が停滞する可能性がかなり高まっているのではないか。現在は実体経済と金融経済は大きく乖離してしまった。その原因は景気悪化を懸念した政府や中央銀行による金融緩和によるものであるが、所得の少ない人たちが生きている実体経済と、コロナ禍においても所得が減少しないあるいは株高等によりむしろ増加する人たちが住む金融経済が明らかに分離してしまっているのが現状だろう。景気を何で判断するのかは難しいが、株高による富の増加と同時に同じ国内で飢餓が進行しているとすれば、何と皮肉なことだろうか。

 

 今、じりじりとコモディティ価格が上昇を始めている。先行する形で金が上昇していたが、金が銀に代わりそしてプラチナへと移り始めた。また、石油の需要は低いままなのに原油価格も上昇を始めている。今すぐに危険な状態になるという話ではないだろうが、悪性インフレ(あるいはスタグフレーション)への道のりを意味しているのではないかと考えてしまう。消費は減退し企業業績は上がらなくなるが、並行してモノの値段は上昇していく。FRB金利を低くとどめようと努力しているが、ある時突然堰を切ったように上昇し始める悪夢。

 今がバブルか否かという議論はいろいろなところで出ているが、私は個人的に以前からバブルだと思っている。ただ、それが今にも弾けそうなほど加熱しているかと聞かれると、部分的にはそうだが全体としてはまだ先に進めるというイメージを持つ。市場に広がった資金がそれを支えているのだ。実際にテスラの株価は普通に考えれば異常なほど高いと思うし、ビットコインの再上昇も過剰流動性が生み出す(さらにはドル崩壊への恐怖が導く)現象だと思う。今は弾けるきっかけを待っている状況で、トリガーさえ引かれればいつでもクラッシュできる。ただ、そのトリガーの姿はまだ見えてこない。そして、見えない限りは惰性で上昇し続ける。

 

 テスラ株を売っていたヘッジファンドが大きな損失を出したというニュースがあった(CNN.co.jp : テスラ空売り筋、今年の損失は3.6兆円 米航空業界の損失上回る)。かつてリーマンショック時に巨額のカラ売りを仕掛けて利益を得た人たちがいるが(マネー・ショート 華麗なる大逆転 : 作品情報 - 映画.com)、その時とは構図が異なるために成功は容易ではないようだ。

 以前より、ジャンク債と不動産価格の下落にアンテナを張っているが、この両者はいずれもすぐに崩壊する雰囲気ではなさそうだ。ただ、S&P500の大部分の株式がPER 30倍以上だというのもやはり過熱感を感じさせる(S&P 500 Map)。しかも、投資会社などはまだまだ買えると推奨しているのである。まあ、こういう時は一緒になって踊らなければということであろう。ただ、ここからの参入は短期でない限りあまり奨めしたくはない。(20201206追記:こんな情報があった。株式を買う投機的ポジションが先週末に2000年のITバブル時代と同程度の比率[過去最高レベル]になった:SentimenTrader on Twitter: "Last week, U.S. options traders opened 94.8 million new equity and ETF contracts.The smallest of traders buying call options - pure speculation - accounted for 20.5 million of those. At 21.6% of total volume, that's a record high.… https://t.co/Qz2EkYy61y"。)

 私は昨年に、今年の年末までには株価が大きく(高値の半分程度まで)下落するだろうと予想した。この考えは、新型コロナにより株価が下落した後も維持してきた。維持と考えたのは二番底を想定したものでもあり、同時に世界中の中央銀行の決断を読み切れなかった結果でもある。ただ、GDPの増加(今年は多くの先進国が低下)に比して株価の上昇が大きすぎるのは間違いない。私の予想はおそらく当たらなかったが、考え自体はまだ維持しようと思う。まあ、ずっと言っていればいつかは当たるという話でもあるが、政府や中央銀行の無限の支出はないと考えるからでもある。

 

 できれば、ワクチンが有効でかつ害のないものであることを期待したい。仮にそうであったとしても、今度は消費低迷と政府や中央銀行の財政政策公交代となる訳だが、それも一つの歴史と考えるべきであろう。