Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ドルの退潮

 株価は私の予想を超えて順調に上昇している。正直、ここまで好調さを継続するとは春先には考えてもいなかった。今回のコロナショックでは、私自身は二番底があると想定して株式には投資を行っていない。残念ながら予想は全く外れてしまったので、株式市場上昇の恩恵にはあずかれなかった。ただ、世界中で通貨の乱発が生じることによる貴金属やその他のコモディティの上昇の恩恵には、少しだけ乗ることができた。貨幣の乱発に関しては今後も継続することが予想されるので、長期的なポジションは維持したままである。今後に期待したい。

 さて、コロナショック直後の混乱期における円高は、多くの人が予想していたほどには進まなかったが、ドル円はここにきてじりじりと円高方向に進んでいる(「円高ではなくドル安」だから今後は怖いのだ | 市場観測 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)。ワクチン開発の進展に応じて一時的に上昇するものの、大きな流れは間違いなくドル安に向かっている(アングル:イエレン氏でドル安、イールドカーブはスティープ化へ | ロイター)。理由は簡単でFRBがドルを増大させており、今後もさらにその傾向が続くと見られているからである(FRB、量的緩和の拡充検討 FOMC要旨 来月にも指針見直し 金利上昇圧力を懸念 :日本経済新聞)。ドル安への懸念と共に仮想通貨が大きく値上がりしているし、金や銀は先に上がりすぎて弱いものの、それ以外のコモディティ資産も上昇している。一部のアナリストは今後1年程度でドルが20~30%下落すると考えている(ドル安どこまで進む? 来年20%下落との予想も - WSJ)。さすがに短期にそこまで進むかどうかはわからないが、長期的にはドル安は避けがたいだろう。

 

 現在の株式相場は、過剰流動性の極みと言ってよい。有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏の考案したバフェット指数(わかりやすい用語集 解説:バフェット指標(ばふぇっとしひょう)|ラーニング|三井住友DSアセットマネジメント)はかつてないレベルにまで上昇した(take on Twitter: "【🇺🇸バフェット指標 要警戒】)。企業利益は減少しているのに、株価が上昇する(T.Kamada on Twitter: "こんなチャートをみつけました。青い線はS&P500指数、オレンジ色の線は税引き後の企業利益です。企業利益の減少は、株に好材料のようです(笑)。… ")という矛盾に満ちた状態である。ちなみに付け加えれば、CNNMoneyによるFEAR & GREED INDEX(Fear & Greed Index - Investor Sentiment - CNNMoney)も11/26時点で91という非常に強欲な状況であるとされる。ここ数年では、コロナショック直前の状況に近い。

 株価と企業利益の間にあるギャップを埋めているのは、世界中の中央銀行や政府がばらまいている資金だが、これは投資と言うよりはギャンブルに近い。それでも現実に金があるなら踊らにゃ損といった具合であろうか。兎にも角にも、世の中は行き過ぎるのが常。それに対してきちんと状況を見据えていく必要があるだろう。

 

 さて、ドルの退潮は諸条件を見る限りかなり高い確率で発生すると見る。リスクオフによる円高と異なり、全ての通貨に対してドルが低下しており日本政府としても手の打ちようがない。私の見立てはドル円が90円程度まで行くのではないかと考えているが、その時期についてはよくわからない。1年から2年程度のうちにと言う感じだろうか。もちろん、その前に何らかの新たな事案が勃発して状況が変わることも十分考えられる。その上で、こうしたドルの退潮は結果としてアメリカの金融支配力を低下させていくと思う。資金は世界へ流れ、アメリカに集まらなくなる。結果として、アメリカ国債金利が上昇し景気に水を差す。アメリカの対応次第ではあるが、中国の元が存在感を高める可能性もある。これは、世界の不安定化を促進することにつながるだろう。世界の混乱はドルを求める声につながるため、一部のアナリストが想定するレベルにまでは、容易にドルは低下しないと考える。

 そして、ドル安により引き起こされる不可避の円高は、日本経済をじわじわと締めつけるのではないか。コロナからの回復を目指すうえで、現時点での日本は比較的良いポジションにいると考えてはいるが、円高ら足を引っ張ることになるかもしれない。円高は本来日本にとってプラスである(エネルギー輸入にメリット)が、輸出競争力の側面でマイナスである(中国や韓国にシェアを奪われる)。その結果が、現在の状況を引き起こしている。更に、株価の側面でも円高は足を引っ張る。企業価値の下落は企業の設備投資意欲を抑えるため、こちらも日本の国力に対してはマイナスと働くことが多い。

 

 現在は、コロナショックを政府や中央銀行のかつてない行動により支えられている状態だと思うが、そろそろピークをつけてもおかしくない位置に来たと感じている(もちろんまだ株価が上昇することもあろう)。売りで入るには少々怖いので、現時点では様子見と決め込みたい。