Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

株式バブルとコモディティサイクル

 私は現在の株式市場がバブルであると認識しているが、これはいくつかの情報を基に判断したものである。もっとも、現在のように過去にないほど資金がじゃぶじゃぶの状態ではそうした統計データは役に立たないという考え方もできよう。実際トレーダーが債券投資をしようと思っても、現在は金利が低い状態なのでほとんど利益が出ない。つまり、株価が多少高かろうとより利益の出る方向にシフトする(アメリカの株価が記録的な高値である4つの理由…世界恐慌に匹敵する急激な景気後退にもかかわらず | Business Insider Japan)のも当然となる(あるいは利率の高い新興国債権やジャンク債等)。本来は絶対的な指標の高さが心理的な歯止めとなるべきなのだが、より良き投資先がない結果として危険な水準だとはわかっていても、相対的な過熱感のなさゆえに株価が過去にないレベルにまで買い上げられている。出口戦略が語られれば終わる人時の夢ではあるが、つかの間ではあってもこの夢に乗れれば良い。

www.financialpointer.com 実際、市場のマインドには日本のバブル時に比する過熱感がないのもその通り。日本ではバブル崩壊の残滓を今も引きずっており、「株式が歴史的な高値」何それ?的な状況である。ただ、実体経済とは別の世界で生じているバブルなので実感が湧かないというのもあるのではないか。実体経済を救うために資金をばらまくが、現実にはそれが大して実体経済には回らず株式市場のみを潤している。更に言えば、コロナによる暴落以降の回復過程においても、ごく一部の銘柄のみが株式市場を押し上げているのは事実である。すなわち、株式の利回りではなくトレンドに乗るのが全てとなっているのだ。結果として、PERが非常に高い一部のグロース株が集中的に買われている。PERが100以上の企業数は既にITバブル期を50%ほど上回っているという情報もある。

  今までも何度か書いているが、株式市場の過熱感を示す短期的な指標としてFear & Greed Indexが高い値を示していること(Fear & Greed Index - Investor Sentiment - CNNMoney)には注意が必要だ。この指標が全てを正確に予測する訳ではないが、市場のマインドを見る上では参考になるだろう。現在80~93辺りのExtreme Greedをうろついているが、過去3年を見るとコロナショック前のやや下くらいのレベルまで市場が強気に傾いている(この時の最大値は98)。過去にこの値が上昇しすぎた後(通常、1~3か月後)には株式はある程度大きく下落している。

 バフェット指数は、株式市場の時価総額と名目GDPを比較したもの(バフェット指標を見よ、米国コロナ対策バブルは「崩壊危険水域」の現実(高田 創) | 現代ビジネス | 講談社(7/9))であるが、こちらも過去最高を更新し続けている。もっとも金融緩和が行き過ぎた現在において、この指標は株価の割高さを示すには十分ではないという意見も少なくない。確かにそのとおりである。それでも、行き過ぎた状態が不健全なのは言わずもがなであろう。欲望の追求により進行するひずみは溜まり続けている。

 ただ過熱感がそれほど感じられず、多くの経済学者や投資家が強気でいるのは、各自のポジションが際立ったリスクオン状態にはないことがあるだろう。全体としては過去にない状況だが、局所的にはまだ余裕があるといったところか。ゴムひもはまだ張りつめていない。

  これも既出だが、コールオプション(将来的に株を買う保険:コールオプション|証券用語解説集|野村證券)の購入率がITバブル期を超えて史上最高になった。

 通常は、株式下落の場面で増加するものだが、今回は株式上昇場面ですらコールオプションの購入が大きく増加している。これはITバブル時にもみられなかった特筆すべき傾向である。市場参加者の大部分が株価に対して超強気であるということだ。

  そして、並行してプットオプションの比率は大きく下げている(過去10年で最低)。通常は株価が上昇すると売って儲けようと考える人が多いのだが、それすらも焼き尽くされた感じであろうか。モメンタム(モメンタム|証券用語解説集|野村證券)としては、気にかけておいた方が良い。往々にして大きく行き過ぎる時にこうした状況が生まれる。

  一方で、世界の株式の時価総額は世界のGDPの115%になった。働いて得る賃金よりも株を持っている方が有利であるといった感じだろうか。

 S&P500の一株を買うために、平均的なアメリカ人労働者は141時間(8時間労働として17日以上)働かなければならない計算になるそうだ。これだけを見ると、真面目に働くのが馬鹿らしくなりそうだ。

  S&P500に対するシラーCAPE指数(CAPE|証券用語解説集|野村證券)が、2000年のITバブルには及ばないものの次に高くなっている(大恐慌時を超えた)。株価が収益率に対して高すぎることを示している。これは歴史的な高値レベルだが、第二次ITバブルが最初のそれと同程度のレベルまで生じると考えれば上昇余地はまだかなりある。その余地は金利の低さが担保している。金利が全てのカギとなり、金利の変化は為替にも表れるだろう(ドル高)。

www.multpl.com 通常は、リスクオンとなればジャンク債が買われ、金などが下げる。ところが現在は両者が同時に上昇している(米ジャンク債利回りが過去最低、今年2回目の更新-ワクチン期待で - Bloomberg)。金は目先低調だが、時期を見て再び上げ始めるだろう。低金利の継続が期待されているが、同時にリスクは誰もが感じているという複雑な葛藤心理が市場を覆っている。

 

 さて、株価の変動は長期的なファンダメンタルと、短期的な需給により決まる。私ががここまでで示した内容は、Fear & Greed IndexとPut/Call Ratio以外は前者に関するものである。需給に関して言えば、現在はイケイケの状況なので今すぐに株式市場が大きく崩壊する兆候は見られない。これも以前のエントリに書いているが、きっかけがない限り現在の状況が大きく変わるということはないだろう。トリガーとして考えられるのは金利上昇と不動産価格下落、そしてジャンク債や海外債券の連鎖的破綻であろうか。VIX指数がコロナショック前の値に戻らないままだが、ジャンクの債利回りは既にコロナショック前よりも低くなった。ハイエナのように少しでも利益を求めて飛びついている状況である。だが、景気が劇的に回復でもしなければジャンク債を発行している企業が復活するとは思えない。同時に、FRBが債権を次々と買い上げることから資金的ひっ迫も容易に生じない。怖いのは、高いPERや低い利率に伴いリターン低下が生じ、リスクオンが過剰になる事であろう。

 それでは、市中にどの程度市場にお金が流れているのかを見てみよう。それにはアメリカにおけるM1資金(現金+預貯金の合計)の変化を見てみるとわかる(M2でも構わない)。アメリカのマネーサプライのうち35%は今年の2月以降に発行されている。要するに、この1年弱で新たに50%ものお金が市場に流されたことになる。経済を下支えするためであるが、弱者にお金を回す以上に金利を下げるために用いられ、結果的に投資家を潤している。アメリカ社会的分断は、今後も広がりそうだ。トランプを応援する声が根強いのは、こうした状況に後押しされている。

  ところで単純に資金供給量を考えれば、市場にある資金が1.5倍になったとすれば投資可能な費用は2倍以上に増えていておかしくない(通常、債券市場の方が株式市場よりずっと大きい)。すなわち、株式市場はもっと暴騰しても不思議ではないのだが、株式の価格は企業収益が基本となるためどこかに制限がかかる。未だに現金保有者が多いという報道が出るのは、株価の高さを危惧して投資していない人たちが存在するためである。その心理的なブレーキが、今後どこまで壊れるかによりこの先の株価が決まる。我慢しきれずに高値をつかみに行く人たちの存在。不合理であっても、それも一つの需給であろう。

jp.reuters.com ただし、市場資金の増加は将来的なインフレとそれに伴う金利の上昇を招く可能性は高い。あくまで今すぐではなく長期的な意味であるが。

  現時点では今年のマネーサプライ上昇に応じたインフレは発生していない(というかFRBが懸命に抑えている)が、過去を見ると両者には一定の相関がみられる。そのため今後数年をかけてではあろうが、コストプッシュインフレが生じる可能性は高い。

 通常、インフレ時には株も不動産もコモディティも上昇するが、株や不動産は収益率に依存する傾向があることから金利が問題となる。景気回復によるインフレならばよいのだが、コストプッシュインフレは企業収益を引き下げる懸念がある。どちらにしても金利がもd内トン理想だが、FRBがそれをいつまでコントロールできるのかということが焦点となろう。QEを言い出す勇気は持てても、テーパリングを口にする勇気はないに違いない。金融政策は、その後のことを考えると出口戦略を描けなくなっている。

www.financialpointer.com 金利の影響は多少受けるものの、最も上昇する可能性が高いのがコモディティであろうと思う。現在、コモディティ価格は株式などと比較して歴史的にかなり低いレベルに留まっている。それ故に、最も上昇余地があると言える。

  過去を見ると、およそ17年ごとにコモディティ価格が大幅上昇している。1974年、1991年、2008年ごろがピークにあたる。ちなみに底打ちは、1970年と1999年で、今が底とすればその次が2020年と言うことになるだろう。このサイクルが正しければ、2025年ごろにかけてコモディティの大幅な上昇があることになる。まあ、その通りになるかどうかはわからないが。

 私が、現在貴金属を中心に投資をしている理由はこのサイクルを想定してであるが、物事に絶対はないのであくまでそういう見方もある程度に考えてほしい。なお、世界中で中央銀行がお金をばらまきまくっているので、これも貴金属が上昇すると考えている理由である。もっとも、株式バブルが崩壊した場合には一時的にコモディティも引きずられて下落するので、このサイクルとは別に意識しておいた方がいいだろう。長期投資であれば問題ないが、短期的には20~30%下げてもおかしくはない。

 

 では、私がバブルと呼んでいる株式市場はどこまでいくのか。これを予測することは本当に難しい。実際、私は何度も予測を外している。状況変化を見ながら常に戦略変更を試みているが、そもそも数年前から私の認識では株価は高すぎるのだ。ただ、現在は上昇方向のバイアスがかかっているので、これが反転するようなきっかけがない限り上がり続ける(一時的な調整はあるにしても)と考えた方が良いと思う。更に言えば、ここのところ大きな出来高を伴わない上昇が続いている。出来高の面で言えば、7~8月ごろの上昇の方が顕著であった。要するに売る(利益確定+川売り)人が少なくなっているのが理由であろう。売っても損失を抱えることになり、または利益の機会を失うと考えているのだ。こうした時に何らかの理由で下がり始めると、パニック売りの連鎖が生じることもある。

  幸いにも、私は今回の上昇過程で空売りのポジションを作っていないので被害はないが、売りを中心としたヘッジファンド空売り投資家チャノス氏、テスラのショート縮小も解消はせず - Bloomberg)や投資家が大きな損失を計上しているという報道(モデルナ株ショートの投資家、年初からの損失が約1900億円に(Bloomberg) - Yahoo!ニュース)も出ている。通常では考えにくい一方通行の動きとなっているからだが、逆に何らかの理由により反動が発生するとすればコロナショック以上になりそうだ(詐欺の黄金時代をもたらしたのは誰?:ジム・チャノス – The Financial Pointer®)。

 今後の動きについて個人的なイメージはあるが、状況は常に変化するので決め打ちはしない。ただ、最後に一吹きするのは気長に待ち構えたい。株価は数年は大丈夫で、上昇し続けるだろうというのが多くのアナリストの予想である。だが、過剰な金融緩和にもどこかに限界がある。その限界に近づくほどに株価は大きく変動するだろう。仮にそれがあるとすれば、上昇は短期間で10~20%の熱狂的なものになるのではないか。ITバブル時のNASDAQチャートが参考になるかもしれない。