Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

防疫と貿易

 中国で広まっている新型肺炎の情報は、さすがに煽るような内容には飽きが来たのか冷静なものも増えてきたようだ。また、徐々に日本国内でも広がりが出ている可能性は高い。感染症学会が数字には上っていないが、散発的な流行が始まり潜伏した感染者が日本国内にいることを想定すべきとの発表をしている(日本感染症学会など、市民向けに注意事項|日テレNEWS24)。一方で、厚生労働省は検査キットの不足から対象者を絞っているが、それにより怪しい患者が検査されない問題が出てきた(“疑い”ぬぐえぬ患者 対応苦慮|NHK 千葉県のニュース)。ニュースを見ると、国民の興味は中国国内から日本国内での出来事に移り始めたといってよい。おそらくは、1月下旬に中国からの渡航者をシャットアウトしていたとしても発生していた事態であろうが、世界的には日本のことを感染国と認定することになっていくのではないか。

 中国の感染者数や死亡者数は、現在でも増加を続けている。その伸びは頭打ちになっている気配があるが、それは検査数による限界のための可能性が高い。また、医療関係者への感染拡大も大きな問題である(新型ウイルス、1機関で40人の医療関係者が罹患 院内感染に警鐘 研究 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News)。依然感染拡大は止まっていないし、むしろ医療関係者への広がりが続くと、対処能力が今後低下する危険性すらあると考えたほうが良い。また、不眠不休で対応する彼らの疲弊(武漢の医師ら疲労限界 病院完成間近も人員・物資の不足深刻(産経新聞) - goo ニュース)もじわじわとネガティブな効果を発揮する大きな問題である。そのような中、中国公式発表ですら重症者数が6000人を超えた(新型コロナウイルス感染による肺炎の最新状況(8日)--人民網日本語版--人民日報)が、ここから分かるのは感染者数よりも重症者数の増加の方が重視すべきだというポイントだろう。前日と比較して1.26倍に重症者数(数字としては1280人の伸び)が増加している。重症にまで至ると致死率が跳ね上がる危険性を秘めているのだから、この数字の伸びは馬鹿にできない。そして、湖北省以外でも意外とその数字は増えている。それが増加するほどに、死亡者数が跳ね上がる危険性を見落とせない。罹患してからの時間経過が長くなるほどに致死率も上昇する懸念(<新型肺炎>武漢市医師「致死率が4.3%」3週間で回復か死亡=中国メディア)もある。

 

 一方、現在世界中(主にアジア)で多くのクルーズ船が寄港地を求め彷徨っている情報(新型肺炎、さまようクルーズ船 入港拒否相次ぐ (写真=共同) :日本経済新聞)がある。横浜でのクルーズ船内部の感染の広がり(横浜港クルーズ船、新たに3人が感染…船内計64人に : 国内 : ニュース : 読売新聞オンライン)を考えると、受け入れたいと思う国がないのは当然の結果であろう。

 だが、これは多くの人の命がかかる事態でもある。それを排除するのではなく、適切に処置する方策を早急に立てなければならない。水際対策で成功しているというイメージが大切な時期(韓経:日本、クルーズでまた10人感染…安易な対処で「感染病後進国」恥さらし | Joongang Ilbo | 中央日報)から、国内における蔓延の防止と患者の命を救うことが何よりも大切な時期にシフトした。この状態は、日本以外の国でもさほど変わらない。世界的な蔓延がわかった時点で、多くの国がおそるおそる実情を発表し始める(あるいは本格的な調査を始める)未来がなんとなく想像できる。

 

 さて、以前より船便が世界中で停滞する危険性について何度か触れてきた。長期間閉鎖空間に置かれるのだから、中に感染者がいれば逃げようがない。その上で、感染力が高いことで(マスク未着用、15秒の近距離接触で感染―中国メディア (2020年2月7日) - エキサイトニュース)病気がすぐに広がり、さらに長期間放置していると死亡率が上昇する危険性がある(【新型肺炎】「41%が院内感染、院内致死率は4.3% 急速なヒトヒト感染を示唆」新研究報告(飯塚真紀子) - 個人 - Yahoo!ニュース)。ただし、適切な処置ができれば回復できる可能性も低くはない(新型肺炎感染のバス運転手が全快し退院 奈良 - 毎日新聞)。感染の広がりが止まらなければ、画期的なワクチンその他の対応策がなければかなり怖い事態となる。

 香港で医療関係者がスト的なことを行った(香港の医療者、中国大陸との境界封鎖求めスト 新型ウイルス - BBCニュース)が、今後は港湾労働者にもそれが広がっておかしくない。また、日本で空港関係者(入国管理官やその他)への感染が確認されれば、同じような問題が生じるだろう。問題としたいのは、こうしたボイコット運動の世界的な広がりである。致死率が低いとはいえ、罹患したくないのは誰もが思うことである。その可能性が高い場所で働きたくないと思うのは当たり前のこと。

 インフルエンザのように日常にはめ込まれれば、それに対する危機感を抱かなくなるが、それも中国における感染拡大が収束していかないことには難しいだろう。ボイコット運動が広がり始めると、世界の流通がストップする。あるいは多大なコストをかけての検疫・防疫体制が必要となる。安心は事実により担保されるが、実際にはイメージにより認識される。こうした認識が暴走することで世界的な流通崩壊が懸念されるのだ。一部では在宅勤務(【GMOインターネットグループ】新型コロナウイルス感染流行の長期化に備えた体制へ移行 在宅勤務の継続と、オフィス出社時の感染予防対策を拡充|GMOインターネットグループのプレスリリース)やリモート化(新型肺炎、テレワーク後押し 「国内全社員」検討も :日本経済新聞)が急速に推進されるという意見もあるが、これは人間の活動の全てを停止するものではないので、局所的な対応でしかない。

 また、大規模な集会の中止も続くことになるだろう。中国では閉鎖されていない都市ですら閑散としている(Coronavirus Live Updates: An American Dies of the Virus in Wuhan, China - The New York Times)。有効な治療法が生み出されない限り、こうした認識や対応はじわじわと世界に広まっていく。ましてや、中国のみならず世界中に患者が広がれば(インドケーララ州での患者発生疑い:2,826 suspected coronavirus cases being monitored in Kerala, says Health Minister)その動きは一気に進むだろう。暖かくなっても収束しない可能性も否定できてはいない。今、世界の経済はお互いの緊密な貿易により成立している。これは由々しき事態ではないか。

 

 一方で、現在アメリカは中国外しを着実に進めている(YouTube)。これは新型肺炎が原因ではなく、米中貿易摩擦を起因(ファーウェイの次は孔子学院か。アメリカの強まる「チャイナ狩り」留学生、研究者まで | Business Insider Japan)としているが、今回の騒動で錦の御旗を得たように加速させている。十分な計画と準備をもって当たれば、サプライチェーンの変更に伴う混乱は小さいかもしれないが、新型肺炎対策として場当たり的な対応(新型肺炎、感染拡大想定し準備 加藤厚労相:時事ドットコム)を続ければ、チャイナパージによるショックは決して小さくはない。正しく切り離すための方策も考える必要があるが、それが中国のみで終わらなくなった時、果たしてこの感染拡大を日常として受け入れる覚悟が早期に生まれるだろうか。

 世界の人々、特に先進国に住む人たちは、株式市場の下落などもあるがそれだけにはとどまらないこうした問題を軽視してはいけないと思う。