Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

クルーズ地獄

 日本には義務がないにも関わらず、人道的な観点から対応を引き受けたクルーズ船のダイヤモンドプリンセスでは、数多くの欧米メディア(その尻馬に乗って騒ぐ日本のメディアも含む)から徹底的に批判されたが、今となってはそれを言い出す者はいない(日本批判、次は自国へ 「対岸の火事」終わる―新型肺炎・クルーズ船隔離:時事ドットコム)。元々、イギリス船籍でアメリカ企業が運営している船であった。欧米メディアは前言を翻したくないため取り上げないが、乗客から感謝されているし(ダイヤモンド・プリンセス乗客のロシア人医師激白 日本人は想像以上に親切で几帳面だった!(1/7) | JBpress(Japan Business Press)ダイヤモンド・プリンセス集団感染「日本を責めることはできない」クルーズ船検疫の第一人者語る(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース)、致死率は現在の欧米の状況よりもマシである(クルーズ船批判に「正確な情報を透明性をもって発信を」茂木外相 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン)。

 

 さて、このクルーズ船問題が将来的には禍根を引き起こしそうになってきた(クルーズ船から下船認めず オーストラリア沖に数万人 - 産経ニュース)。オーストラリア沖には何十隻ものクルーズ船が寄港を認められず彷徨っており、中には感染拡大に直面しているケースもある(クルーズ船で4人死亡、138人にインフル様症状 入港拒否でパナマ沖に停泊 写真14枚 国際ニュース:AFPBB News)。

 だが各国とも自国内の対処に手一杯で、とてもではないが1000人を超える感染可能性の高い人たちを受け入れる余地はない。日本でも中国でも、現在の感染拡大の一翼を欧米からの帰国者が担っている。そんなところに、自国の医療リソースを態々割いてまで手を出すことなどできないのだ。

 燃料や食糧については、寄港せずに補給を続けることは可能だろうが、船内での感染の広がりが進めば、多くの死者がでることになる。クルーズ船は高齢者が乗船しているために、致死率も当然上昇するだろう。それを引き受ける責任は、船籍のある国かあるいはクルーズ船を運航する企業の本籍がある国になる。

 

 だが、ダイヤモンドプリンセスの礼をイギリスがすることもなかったし(麻生太郎氏、新型コロナで中国・英国をバッサリ! 「船籍は英国だが何一つ発言しない…割を食っているのは日本じゃねえか」歯に衣着せぬ“麻生節”炸裂 (1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト)、アメリカも、どんどんと何十隻ものクルーズ船を引き受けること(米カリフォルニア沖クルーズ船 下船開始「教訓いかす」 | NHKニュース)などできやしない。

 となると、今後何が生じるのか。それはクルーズ船の中が地獄のようになることである。感染が疑われる状況なわけだから、部屋から出ることはおそらくできない。食事から感染が拡大するかもしれない(米国沖クルーズ船 レストランで感染拡大か|日テレNEWS24)。精神的なストレスが増幅していくのである。また、日本が対処していた時ような手厚い対応もされない(新型コロナ「クルーズ船の食事」が高評価 日本で材料調達、船内から感謝の英文ツイートも : J-CASTニュース)だろう。そんな中で、どんどんと乗客が倒れていく恐怖は地獄と言ってもよい。

 だが、どこの国も助けてくれない。多国籍の人たちが乗客としているため、海の上では選択的な救助すらできないだろう。兎にも角にも、寄港し上陸できなければ何も始まらないのだ。船内で暴動が発生してもおかしくはない。

 

 こうした状況は、メディアの絶好の餌食となる。なぜ困っている人を助けなかったのか。危機的な状況に目を向けず、手を差し伸べなかったのか。後付けで文句をつけることは本当に容易である。だが、それを言うのであれば今こそメディアが、こうしたクルーズ船で巻き起こるであろう惨禍を指摘し、そのための対応策を専門家などの意見を参考にして提案すべきである。

 時間が経過するほどに問題は深刻になっていく。私は、クルーズ船救助のために国際協力チームをつくり、軍隊等との連携により世界中で対応する仕組みを作る必要があると思う。余裕はないが、それでも欧米の状況を見ていれば音頭を日本が取ってよい。

 隔離するための場所として、震災など災害時に用いるプレハブの緊急避難施設を建設し、日本の責任ではなく世界が共同で行うオペレーションとして人道的な対応をするというもの。もちろん、何万人もの場所を用意できるわけではないので、各国で分担してそれを行わなければならない。だが、それが機能しなかったときの結果を想像するだけでも恐ろしいのだ。

 

 日本に責任がある訳ではないし、日本も大変な時期ではあるが、それでもできることを考えていかなけではならないではないか。検討した結果がどうなるかはわからないが、こうした議論がメディアから全く聞こえてこないのが不思議である。