Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

感染収束と中国脱出

 米中貿易戦争で、アメリカは徐々に中国を外すという動き(アメリカの「ファーウェイ排除」は成功するのか…同社の5G製品使用国と情報共有しない法案を提出 | Business Insider Japan)を行ってきた。ファーウェイやZTEの締め出しから始まり、中国人留学生や研究生を追い出し、輸入関税を大幅に課すなど、脱中国の流れを破綻しないように徐々に構築してきた。日本も、かなり前からチャイナプラスワン(チャイナ・プラスワンとタイ・プラスワンが狙う新世代の分業体制とその課題 : 富士通マーケティング)という感じに、中国一辺倒を控えるようにはなっていたが、それでも利便性から中国での製造に踏み出す企業は少なくなかった。未だ完全には切る方向に向かっていない。

 

 現在、世界は中国における新型コロナウイルスの感染拡大がいつ収束するかという状況を窺い続けている。正直なところ、誰にも今後のことはわからないという感じではなかろうか。先が見通せない状況を受け株価(アングル:長引かない「パニック相場」、新型肺炎もアルゴが抑制 - ロイター)は大きな下げと反発を繰り返している。ただ、現状のような都市封鎖や自宅待機指示、あるいは企業活動の休止が長引けば、世界経済に与える問題は間違いなく拡大していく。現在、世界のGDPの20%近くを中国が占めており、その中国のGDP成長率は公式発表で6%程度(中国 GDP伸び率 大幅に落ち込む見方 産業損失は16兆円超か | NHKニュース)。発表されている数字を信じるかはともかくとしても、6%が1%や2%に落ち込めば世界に与える影響(コラム:新型肺炎、終息が4月以降なら世界の成長率1%に下振れも - ロイター)は決して小さくない。また、世界的なサプライチェーンは中国を当てにしている部分も多く、停止の長期化は世界中のものの生産をストップさせることにもつながる。それは、急激なショックを招くものではないが、徐々に世界警戒を蝕んでいく。

 もちろん、中国としても海外企業に逃げられるのは困るため、どんな手を使っても早期の収束を図りたい。また、つなぎとめておくために問題を大きくしたくないという心理が働く。WHOの緊急事態宣言に対する圧力(新型肺炎、「緊急事態宣言出すな」 中国が圧力と仏紙報道 - 産経ニュース)や、アメリカが発表した中国を訪れた外国人の入国拒否(米政府、新型コロナウイルスで緊急事態宣言 強制隔離や入国禁止措置実施へ | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)への反発(中国外務省、新型ウイルスへの対応で米国を批判 - ロイター)は、まさにその慌てて取った動きを示している。

 

 様子見が動き始めるのは、今回の感染拡大の収束の見込みがいつ頃判明するのかを見極めた段階であろう。仮に2~3か月で可能なら、一時的な停止を許容する。だが半年近くの停止が予測されれば、中国への投資を損失として計上してでも代替地を探し活動を進めなければ企業経営は成り立たなくなる。そう、政治的な理由ではなく経済的な理由で中国脱出が加速し始める。損得勘定は何ものにも勝るのだ。

 ただ、これほどの急速な感染拡大は近年では初めてのことであり、だが同時に世界の防疫状況はかつてとは異なるレベルにまで高まっている。中国の強権政治が、困難な隔離を遅まきながらも実施しているし、世界が取り組むワクチン開発の速度も随分と短くなった。この両者の天秤がどちらに触れるかこそが問題であり、それでも結局のところ現時点では感染を早期に収束できるかどうかは誰にもわからない。

 ではその感染がどの程度の速度で広がっているかを確認してみよう。ロイターが丁度良い整理を行っていた(急速に広がる新型コロナウイルスーSARSやMERSと何が違うのか)。これを見ると、感染の拡大速度はSARSやMERSとは比較にならないレベルであることがわかる。一方で、致死率は現段階では正確にはわかっていない。当初は3%程度と言われてきたが、感染者の数を過小評価しているという意見もあり、1~2%程度かそれ以下に収まる可能性もあろう。それでもインフルエンザよりは高く警戒が必要なのは間違いない(通常0.1%かそれ以下)ものの、SARSやMERSの10~30%という切迫した恐怖感はなくなる。

 また、最低でも半年で通常では1年以上かかるであろうと予測されているワクチンではあるが、これが出回るようになれば死亡率はもっと低下することになる。その先において、インフルエンザと同じような季節流行性の「一般的な」病気という認識に落ち着く可能性が十分に考えられる。そこに行き着くであろうと判断できた段階で、仮に感染が収束していなくともパニック状態は収まることになるだろう。ただし、湖北省では病院がパニック状態になっており感染者・志望者共に正確な数をカウントできていない。それだけに、死亡率による危機意識を高める行為については、今後出てくる情報をよく見ておかなければならない。また、今後中国が早期収束をイメージさせるために抑制的な数字のみを広報するかもしれないことも気に留めておきたい。

 

 ただ、武漢以外の都市でも感染爆発が連続して生じるようなことになれば、話は大きく変わる。世界的な感染の広がりがそれほど生じなかったとしても、一旦は中国を世界的なサプライチェーンから切り離さざるを得なくなるのだ。このサプライチェーンの大きな変動は一度動き出せば容易に引き返せない。中国外への投資が新たな行われるのだから、その投資を回収しなければならない。もちろん、新たな投資先の開拓には資金だけではなく時間も必要であり、この判断は簡単ではないだろう。ただ、米中貿易摩擦により傾きかけていた気持ちを推す程度には強い理由となる。また、今回の騒動で中国の景気が大きく沈みこむとすれば、それが気持ちの揺らぎに拍車をかける。

 中国市場は非常に魅力的である。だがそれは、それに応じたメリットがあることが前提の話。中国政府は中国で上げた企業利益を海外に持ち出させていない。つまり、その儲けを企業利益として自由には使えない状態になっている。逆に言えば、中国に対して行った投資が人質(金質?)になっている状況。米中の貿易交渉で、中国側が軟化する可能性がないわけではないが、今までのままでは容易ではない。

 

 最も問題なのは、今回の感染拡大の収束に対する悲観的な意識と、中国経済の大幅な景気悪化がスパイラルのようにリンクすることである。現在、中国政府も明確な感染阻止を確信できている状況にはない。だからこそ、各地の都市を実質的な閉鎖に追い込むほどのことをし、世界からの交流拒絶にも反対声明は出すものの強硬策には打って出られない。

 封じ込めのためには隔離が必要。だが、それを早期に解除すれは再びの感染拡大につながりかねない。一方で、封じ込みは急速な経済の悪化を引き起こす。長期にわたるそれは絶対に避けたい。それ故に、行うのは感染の広がりを小さく見せることと、回復者の状況を全面的に押し出すこと。次には有効なワクチンを、検証なしにでも宣伝していくこと。これにより、なるべく早期の封鎖解除に持ち込むことである。

 

 果たしてそれが成功するかどうかが最大に見どころでもある。もちろんこの感染が世界中に広まり、どこの国も阻止できなければ別の形での終了が見えてくる。ただし、それにかかる時間が長すぎるため、中国は持ちこたえられないのではないか。

 中国としても、世界的な感染拡大は望むところではないと思う。

 

(追記)

 日本がアメリカのように、中国に直近立ち寄った人を未だ全て入国拒否という判断に至っていない理由として、以下のような可能性が推測できる。

 (1) 中国との経済的つながり重視(外務省あたりが言及しそう)

 (2) オリンピックへの波及懸念(こちらは官邸なども考えそう)

 (3) 日本での発症者数がそれほど増加していない(厚生労働省が判断しそう)

 

 日本の悪い癖は、一度決めたことを愚直に守りすぎること。勝手判断をしすぎれば統制が取れなくなるのは事実。だが、武漢から自力で戻った熱のある人もウイルスチェックを受けられないなどの状況は、官僚的かつ硬直的過ぎる(新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について令和2年2月3日版))。全てが官邸の指示であるはずもなく、各省庁の判断(感応性)が悪いのだと考える。少なくとも、国民が抱いている懸念に対するコメント等のレスポンスが必要だろう。

 検査希望者数が莫大で対応不能(パニック発生)を懸念している可能性もあるが、中国が統制不能になっている現状では、より高いレベル(安全側)での対策を取るべきである。クルーズ船への対応等も国民の不信感を招く方向に動く。

 

 官僚として、過剰反応をしてその責任を負いたくないという気持ちは、新型インフルエンザの時の教訓とからもわからなくはないが、多少は過剰になっても対応すべきだろう。そして、そこには政治家の後押しが必要である(大阪府、新型肺炎感染疑い例を独自検査へ 保健所長の判断で - 産経ニュース)。

 武漢から脱出されたとされる500万人は、他地域からの流入労働者であるという情報が出ている。こうした人たちは、中国各地に分散した。一般的に、お金のない彼らは医者にかかる可能性が低い。そのため、中国の統計ではこうした人たちの罹患状況を把握できていない可能性は高い。感染爆発はスラム地などの衛生観念の低いところで、より発生しやすい。それが一般人が住む地域に広がっていく(https://www.ntdtv.com/gb/2020/02/03/a102767888.html)。当然中国政府はそのことを認識しているだろう。これは全く根拠のない話だが、すでに解放軍あたりを動かして、その掃討に入っていても驚かない。