Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中国が都市封鎖を解く時

 中国の武漢市を発端とした新型肺炎の広がり(新型コロナウイルス感染による肺炎の最新状況(15日)--人民網日本語版--人民日報)は、徐々に世界中(特に日本)でインフルエンザの様な広がりを見せ始めている(“日本はすでに感染拡大”WHO専門家|日テレNEWS24)。まだ、WHOがパンデミックを宣言することはないだろうが、私はそれも時間の問題だと考える。未だ、世界各国は水際の封じ込めを対策の中心に据えているが、それが無意味だと分かるのももうすぐだろう。

 この感染症の感染力と速度は、私が見る限りかなり強力である。専門家にもこのウイルスの伝染力が強力だと考える人(新型コロナウイルス、世界の3分の2が感染する可能性も-専門家 - Bloomberg)と、そうでないと考える人がいる(コロナ「感染拡大のおそれはとても小さい」大御所がパニックを叱る!(山根 一眞) | ブルーバックス | 講談社(1/4)https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/coronavirus-dr-iwata)が、実はどうなるかは誰にもわからない。まだ、それを判断する十分なデータは集まっていないのが正解だと考える。過去の経験は尊重した方が良いし、活かせる点も数多くあると思うが、それでも今回は封じ込めが容易ではないと感じている。特に、SARSやMERSほど致死率が高くなく、潜伏期間が長いことがそう考える理由である。実際、新型インフルエンザは世界中に定着したのだ。仮に感染力がインフルエンザほどではなくとも、今後他の国々でもそう遠くない時期に表面化してくると見る。そして、もはやこの感染の広がりは中国の手を離れている。

 

 日本でも、当初は感染力の見定めが難しかったこともあり、やむを得ない状況の部分もあったと思うが、春節時(欲を言えば前)に中国全土からの入国停止を決断していれば、もう少し感染の広がりは抑えられたかも知れない。このあたりの決断は官僚には出来ないものなので、基本的に政治家(主に厚生労働大臣)の想像力欠如による責任である(新型コロナウイルス メディアや政治家は中途半端な知識でやっぱ恐怖を誘導したいらしい)。特に、国民の不安を解消できていないことが何よりの失点である。

 ただ、何度か書いてきた様に中国からの入国を停止していても、第三国からの入国による広がりは間違いなく発生するであろうし、全ての貿易や人の移動を停止出来るほどに今の社会は簡単ではない。あくまで時間的な余裕(10日~半月程度)を得られたかどうか程度の違いである。強いて言えば、それができなかったためにクルーズ船対応でも印象面で後手を踏み、中国に次ぐ感染地域のレッテルを貼られた。もっとも、数ヶ月経ると何の意味もなくなる話ではあるが。とにかく、時間をかけるほどにウイルスの状況や特性がどんどんと明らかになっていく。現代の世界はそれだけの知恵を有している。

 さらに言えば、感染しても容易に回復するとすれば、これまたパニックは収まっていく。今は、当面の責任の擦りつけ合いが行われているだけであり、その雰囲気に飲まれてしまうことは避けたいものである。私の現時点における認識は、感染は世界的にもかなり広がるだろうが、致死率はパニックさえ生じなければ(医療崩壊が発生しなかったとすれば)徐々に落ち着いていくというもの(最終的にいくらになるかは不明)。

 ただ、人々の気持ちを考えるとインフルエンザよりも高い致死率の病気に罹患したいとは思わない。それが生み出す狂騒曲と言うか、変な方向に社会が大きく触れてしまうことの方がずっと怖いと思っている。ずっと書いてきた、経済活動の停滞もその一つである。

 

 さて、現在中国は経済活動を抑圧しても感染の広がりを抑えようと、多くの都市を実質的な閉鎖状態(程度には差があるが)においている(https://jp.reuters.com/article/china-health-beijing-idJPKBN20827I)。これは、正直に言って日本ではおそらく出来ない強権策だと思う。逆に言えば、それだけ中国共産党政府がこの感染病を恐れているという裏返しでもある。

 その結果、バルチック海運指数は大幅な下落に見舞われた(中国のコロナウイルス、世界の海運業に大打撃 コンテナ価格が83%下落)。海運に対する忌避的な行動が出来るのは、中国の経済活動が止まることに加えて、運送行為そのものに対する危険性の認識があるため、有効な治療法や薬・ワクチンが見つけ出されるまでは容易に元に戻るとは思えない。

 

 それ以上に中国共産党政府が気にしているのは、いつになればこの封鎖状態を解くことができるかであろう。現在、中国から発表される感染者数の増加は、湖北省を除けば大きく抑えられている。その数字が正しいかどうかはわからないが、減少しているという事実については、少なくとも違っていないと思う。病院に行けない人たちの感染が増えているかもしれないし、目に見えない死亡者も出ているかも知れない。だが、それ以外に人たちは接触を避けることで罹患しないで済んでいる可能性は高い。

 しかし、この封鎖状態を解けばどうなるか。それは再び感染が勢いを増すかもしれないという懸念。封鎖解除により再拡大が始まってしまえば意味がない、それどころか共産党政府の威信に大きく傷がつく。そのギリギリの決断が、中国共産党政府首脳陣を悩ませているはずだ。だから、問題を大きくしないようにWHOに圧力をかけ、世界中の国々にも規制をしないように呼び掛ける(中国からの入国規制に「強く反対」-華外務省報道官が各国を批判 - Bloomberg)。

 封鎖が数か月にまで長引けば、金融緩和や財政支出でも経済の崩落を防げなくなる危険性があり、だが再感染拡大による再度の封鎖となればその影響はもっと大きい。そもそも、食糧事情も相当に悪化することすらあり得る。それは暴動を誘引し、力で抑えようとすれば天安門の二の舞である。

 当面は、湖北省以外の都市の新規罹患者が回復者をある程度の期間下回り始めたことをもって、徐々に封鎖を解いていくだろう。武漢とその周辺を生贄にして、その他の健全性を全面的に叫ぶだろう。そのための準備は、湖北省以外の死亡者数の減少よりも、新規罹患者数にポイントが置かれる。そして、実際には再度感染が広がってもそれを認めようとはしないようになる。

 

 だが、世界が中国に注ぐ不信感は日本なんかよりもずっと大きい。日本に対しては厳しいことを報じても大丈夫と言う変な信頼感があるのだ。封鎖が解かれても、私の見立てでは感染が封じ込めるとは思わない。今回のコロナウイルスが今までのように暑さに弱いものであれば、季節的要因により一時的な感染収束に向かったように見えるかもしれないが、再び寒くなれば広がる可能性は低くない。そして、再度の封鎖は容易ではないだろう。日本もこうしたことを想定した対応を立ててほしい。