Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ウイルスと経済

 多少下落したものの、未だ株式市場は高値から崩れたとは言えない位置(Dow Jones Industrial Average, DJIA Quick Chart - (Dow Jones Global) DJIA, Dow Jones Industrial Average Stock Price - BigCharts.com)にいる。新型コロナウイルスの脅威を判断しかねているといったところであろうか。各国の水際対応も、パフォーマンスとして一時的に厳しくしている国はある(北朝鮮、新型肺炎の拡散を憂慮し国境封鎖 : 東亜日報モンゴル、中国国境を封鎖 - NNA ASIA・日本・社会・事件)ものの、根本的に経済を混乱させようと思う国はない。世界的流行の可能性はあるが、死亡率がそこまで高い訳ではなく、いいところワクチンがない段階のインフルエンザクラス。SARSやMERSと比べると低いと考えてよい。すなわち、貿易を根本的に停止するとまでは言い難いのが実際のところだ(WHO、渡航制限勧告は見合わせ | 共同通信)。世界は密接につながっているのだから、ネットで言われるほど安直に断絶できるものではない。

 だが、一方で中国での感染の広がりについては、終息のめどが見えてきたという状況にはないのも事実。むしろ、それが見えないからこそプライドの高い中国もアメリカのCDC(米疾病対策センター)の調査を受け入れる(米国は中国に専門家派遣へ、新型肺炎の封じ込めで-クドロー委員長 - Bloomberg)という状況にまで追い込まれたとみるべきであろう(2/3追記:まだ支援は受け入れていないようだ)。本当であれば、救援や援助ではない形での専門家を受け入れたくはなかっただろうに。

 

 一向に終息の兆候が見えない状況は、様々な状況を引き起こし始める。企業や国家は中国への渡航を制限(海外安全ホームページ: 広域情報米ホワイトハウス、中国便の運航制限を検討=NEC委員長 - ロイター【インドネシア】ライオン航空、2月に中国全土の直行便運休(NNA) - Yahoo!ニュースロシア、中国への渡航自粛を勧告 新型肺炎対策で (写真=ロイター) :日本経済新聞)し、帰国を推進する方向(グーグルが中国の全オフィスを一時閉鎖、新型肺炎対応で-バージ - Bloomberg)に舵を切り始めた。少なくとも感染の広がりが落ち着き始めるまで、この流れは簡単には止まらない。また、クルーズ船での感染発見(イタリア寄港のクルーズ船乗客が新型ウイルス感染の疑い、船内に隔離 - Bloomberg)や今後は飛行機内でも様残なケースが見つかるのではないだろうか。こうしたニュースが出るたびに、徐々に運航が難しくなっていく。一時、中国への忖度からか問題を低く認識してきたWHOも、ようやく重い腰を上げざるを得なくなったようだ(WHO「緊急事態」を宣言 医療のぜい弱な国への感染拡大懸念 | NHKニュース)。

 国や政府対応が、対中国のみで済んでいる段階ではまだましかもしれないが、世界的な広がりから世界相互の運航がストップし始めると世界混乱の状況は新しいフェーズに突入する。繰り返しになるが、このウイルスによる死亡率は現在の情報では恐れるほど高くはない。インフルエンザウイルスによる死亡者(アメリカでインフルエンザ感染が拡大 入院患者は140,000人、死者は8,200人以上 | シアトル最大の日本語情報サイト Junglecity.com)は、日本でも何千人(図録▽インフルエンザによる死亡数の推移)もいるのだから、それと比較すればわかるだろう。だが、中国での広がりが急速であること、まだ有効な対策がないことや重症化率がやや高いかもしれないことから、恐怖心が広がっているのが現状である。

 

 だが、人々は事実ではなく感情で反応する生物である。政府の対策が十分ではないと叫ぶ人たちは、正しいと思って行動しているつもりだろうが、ネット上で叫んでいる分には良いかもしれないが、政府の活動を邪魔するレベルにまで広がり始めると問題である。マスコミも、基本的には事件が大好き。問題を煽る方向に報道するのは間違いがないし、政府対応が不十分だと叫べば世間受けもよい。

 しかし、交流が密なこの時代にウイルスの流入を完全に抑制することは難しい。自由な往来を保証せよというつもりはないが、メリットとデメリットを比較することは常に必要である。そして、多くの人が知らないデメリットが数多く存在する。知らないがゆえに言える無茶な意見も非常に多い。国会での深い議論をするのは望むところだが、国会議員による下手なパフォーマンスにより必死に対応している政府(行政機関)の足は引っ張らないでほしいと願う。

 

 さて、今回の感染の広がりが恐ろしいのは、感染拡大速度が明らかにSARSなどと比べて早く(拡大速度SARS上回る 潜伏期間でも感染:一面:中日新聞(CHUNICHI Web))、抑え込みが難しいことであろう。特に、無自覚感染者(潜伏期間中も含む)があちこちで見つかっており(新型コロナウイルス、男女2人が症状ないのに感染。国内感染者は11人 | ハフポスト)、そこでも感染が広がっている可能性が既に指摘されている(新型コロナウイルス、「潜伏期間にも感染」 死者は80人に - BBCニュース)。これは、これまでのスクリーニング体制では発見が不可能である。中国からの渡航者を全て一時検査することは容易ではない。相当な数の人間を留め置ける場所が存在しないためである。すなわち、人の交流を一時的に遮断するという方向に動かざるを得ない。

 もちろん、上に施策があれば下に対策があるのが世の常。第三国を経由した動きが盛んになるだけのこと。そこまでいくと世界中が協力して対応せざるを得なくなるが、なかなかに影響が大きくなる。特に船便のストップは馬鹿にならない(福岡市長「中国本土からのクルーズ船拒否すべきだ」 自身ブログで - 毎日新聞)。密閉空間で長期の移動をするわけだから、そこの感染者が一人いればパニックが発生する。貿易の中心は船便である。それが止まり始めると世界経済は麻痺してしまうことになる。

 

 ワクチンは、早ければ数か月で臨床試験にまで行く(新型コロナウイルスのワクチン「完成は早くても今夏か」研究者が語る | ギズモード・ジャパン)という情報も出ているが、運が良ければという感じではないだろうか。SARSのワクチンが使えるとか、その他既存のワクチンに近い成分で対応できるなどがあればよいのだが、そうでなければ時間がかかるものと考えておいた方が良い。仮に死亡率が低くとも、感染者数が多くなれば死者数もそれに伴い増加していく。インフルエンザを考えれば、社会がパニックを起こすほどではないはずだが、それが受け入れられるまでにはある程度の時間が必要である。

 すなわち、今後の感染拡大状況により大きく変化するが、簡易な感診断キットの作成とワクチン開発が終了するまでは、この混乱は容易に終息しないと見たほうが良い。少しずつ報道は下火になるだろうが、個人的感想としては半年程度は必要ではないかと想像する。つまりオリンピック開催(IOC、東京大会「感染症対策は重要要素」(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース)も、今後の状況次第では延期も考えられる。時期を秋にずらすのか、1年遅らせるのかはわからないが、こうした可能性は低くないとみている。

 

 中国の感染拡散防止を目的とした活動自粛もまた、数か月続くのではないかと見る。株式市場以上に敏感に反応するのが原油価格であり、既に下落を招いている(WTI原油先物チャート|チャート広場)が、状況は更に深刻(新型コロナウイルスで重症となる原油市場 SARS以上の経済損失は確実か、第3次石油危機の現実味も(1/4) | JBpress(Japan Business Press))になるかもしれない。これが中国経済の本格的な下落の引き金になるかは不明(新型肺炎による中国経済への影響、数値化は時期尚早=IMF - ロイター)だが、影響が小さいとは考えていない。むしろそれを恐れるアメリカの方から、貿易戦争の手綱を緩める方向に動けば一時的には株価が上昇することもあり得る。だが、それでも中国経済には相当大きなダメージを与えるだろう。

 この状況が北米への雇用回帰を促すとの意見もある(ロス米商務長官、新型コロナウイルスで米国に雇用が戻る可能性を指摘 - Bloomberg)が、世界経済の停滞の方がずっと影響は大きい。また、新型インフルエンザでもそうだったが、騒動もどこかで必ず落ち着くポイントはある。とにかく、短期的には株式市場や各種相場のボラティリティボラティリティ - Wikipedia)はかなり増大するのではないか。私は以前より相場の過熱を気にしており、一旦下落方向に動き始めるとそれを留める手段が各国政府にはほとんど残っていないだけに、かなりの混乱になるのではないかと想像している。そのトリガーはやはり中国にありそうだ。