Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

グローバル化が育てたクリティカルな世界

 中国の武漢より広まった新型コロナウイルスは、WHOの願いも空しく(世界は感染拡大阻止の岐路に 新型ウイルスでWHOトップ(時事通信) - Yahoo!ニュース)世界的なパンデミックの様相を呈してきた(新型肺炎、世界全体で流行 WHO「危険性最高に」 | 共同通信)。これは、世界が効率化を追求し懸命に構築してきた所謂「グローバル化」の負の側面ともいえる。世界はボーダレス化し、複数の国々は様々な貿易や流通経路を通じて一体化した。モノ・カネおよびヒトの自由な移動を保証するのがそれである。特に人の自由な移動なしには、現在構築されている世界は成立しない。貿易も人を介して輸送され、観光はまさに人そのものの大規模な移動である。日本人はビザなし渡航が数多くの国々に認められており、世界中を非常に容易に旅することができる。しかし、残念ながら今回はその自由な移動こそが、ウイルスの広がりを明らかに決定づけた。

 だからこそ、当初各国は感染地域からの渡航をストップすることにした。これは水際対策であるが、以前より無症状感染者の問題は提起されており、このウイルスの広がりを防止するのは困難であったと考えたほうが良い。また仮に渡航停止をしたとしても、長期的かつ全面的なそれを取ることはどこの国にもできない(北朝鮮を除く)。完全な断絶はもはや鎖国に等しく経済を維持できなくなるからである。更には中国のような都市の完全な封じ込めができればよいが、それは中国(シンガポールも行っているが:ウイルス封じ込めの優等生シンガポールに注目集まる-日韓とは対照的 - Bloomberg)以外のどこに可能な方法なのだろうか。現在の便利さは、世界的な垣根の低い流通網の構築により成り立っている。製造についてはサプライチェーンとか呼ばれているが、世界中の最も安い場所で物を製造し、あるいは生産してお金のある所に運ぶ。それは搾取であるという声もあるが、人々が求める便利さと豊かさの陰に隠れて目立つことはない。

 なお、繰り返し書くが一部の識者が主張する中国からの渡航者を全て止めるべきという意見には、私は完全には賛同していない。疫学的観点から言えばそれほど意味のない対策であり(新型肺炎の風評で日本はまた国益を失うのでしょうか – アゴラ)、ポーズとしての意味合いが大きい。もちろん別のエントリで書いたように、医療リソースに余裕があると見て諸外国から日本に感染を疑う人が押し寄せるのを止めることには効果があると思うが、現状その様な情報が漏れ聞こえては来ていない。

 

 

 さて、地産地消地産地消 - Wikipedia)という言葉がある。主に農産物や水産物に関し、グローバルな流通網ではなく地域密着型のそれを育もうという考え方だ。スローライフにも近い思想であるが、地域経済の活性化と食糧防衛の二つの側面があると考えている。だが、今回のコロナ禍は食糧以外でも防衛すべきものがあることを印象付けた。

 グローバリズムは国境を低くしたが、世界的な金融危機や中国の覇権台頭を受けてその見直しは数年前から始まっていた。今回のパンデミックは徐々に進み始めていた動きの最後の一押しをすることになるのではないか。経済的なしがらみにより容易に中国を切り離せない経済界は今も健在(トヨタ、中国・天津にEV工場検討 1300億円投資 :日本経済新聞)だが、それでもロジスティックに中国を組み入れることにより生じる危険性は多くの人が感じ取っただろう。そして、今回の震源地は中国ではあったが、それ以外の国であっても同様のことがいつ発生してもおかしくない。

 

 リスク管理として中国に過度に依存してきた危険性を、中国の経済覇権の思惑以上の形で世界は知ることとなった。安さ、便利さの代償は、危機が一気に広がるリスクを抱えること。フェールセーフ(フェイルセーフ - Wikipedia)という考え方があるが、そこにコストをかける意味を痛感したのである。情報管理でも同じだが、効率化を図ることで私たちは便利になるが、それは情報漏洩やハッキングされた場合に大きな危機を導くものとなる。そして、私たちが危惧すべきなのは感染者が日本の持ち込まれたこと以上に、経済的に中国に依存しすぎていることがある。それはモノの生産に関する部分であり、現在中国が懸命にそれの回復を目指しているが、今回の出来事が刻んだ中国リスクは小さくないだろう。

 世界の工場として発展を遂げた中国は、さらに世界をリードする生産地としての地位を築き上げるために、露骨な批判を受けない範囲でありとあらゆることを行ってきた。だが、中国の存在感が大きくなることが、今回のようなクリティカルな問題を引き起こすことになる。そして、そのバックボーンにあるのは効率化を目指すグローバリズムという考え方。その波にうまく乗ってきたのが中国である。

 

 一方で、新型コロナウイルスが夏季になって沈静化すればよいが、そうでなければ世界中に人たちが何らかの耐性を得るまで(あるいは有効な治療法が生み出されるまで)は感染は広がっていく。私は、このウイルスはインフルエンザの様に定着していくと想像しているが、世界はどこまで自粛と貿易制限の連鎖に耐え続けられるかという問題がある。先ほども書いたが、世界経済はグローバリズムに依存した貿易・経済体制を持っている。逆に言えば、それを止め続ければ経済に大きなダメージが与えられる。

 一部のメディアなどは自粛・隔離などを全面的に推奨したりもするが、それにより経済が大きく落ち込めばその被害の方が大きくなってしまう可能性も否定できない(経済打撃、東日本大震災超える可能性指摘も 新型コロナ(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース)。自殺者の数は一時期に比べて大きく減少(自殺者数9年連続減、37年ぶりの低水準 : 未成年は2年連続の増加 | nippon.com)したが、リーマンショックのような経済低迷は絶対に避けなければならない。それが直接人の命を奪う訳ではないが、間接的にはより大きな人命に関与する。別のエントリで書いた蝗害もアフリカでは何千万人もの命に影響を与える事態となっている。

 ウイルス感染は確かに怖い。自分が罹患することを考えると心配になることは理解できる。ただ、そこでパニックになっても、政府を批判しても状況が改善されるわけではない。局所的な最善策は、全体としての最善策とは異なることが多い。そのバランスを取るのが政府であり、広報能力の低さは気になるが一定のバランスの取れた対策を打ち続けている。

 

 グローバリズムとは直接関係ないが、ネットの発展により一部の声の大きな人の無責任な言説が力を持つことが増えた。それに対するリテラシー能力を身に着けることは何より重要だろう。