Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

株価下落のその先

 コロナウイルスの世界的な蔓延によるニューヨーク株式市場の下落(米株はS&P7日続落、週間では08年以来の大幅な下げ - ロイター)は、そろそろ一旦休止となるのではないかと感じている。もちろん、株式相場の短期的な動きなど誰にも予想できるものではなく私の個人的な感想に過ぎないが、一方的な下落が続くものではないのは過去の暴落時を見てもわかる。一部では今回の下げがリーマンショック並みの暴落との声もあるが、下に示すNasdaqのチャートを見てみれば、上がりすぎたものがわずかに調整したに過ぎないことはすぐに分かる。値幅としては大きいが率としてはたかが知れている。むしろ、逆によくここまで株価が上昇していたものだという感慨の方が深い。

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Nasdaqの株価推移

 もちろんアメリカのGDPは日本と違い増加している(アメリカのGDPの推移 - 世界経済のネタ帳)が、それと比較してもチャートを見れば現状の株価が非常に高い位置にあることは何となくわかるのではないか。この状況は過剰流動性が引き起こした現象であり、さらに言えばトランプ大統領の指向が株価上昇にあることも関係しているだろう。一昨年の12月に一度株価が大きく下落し、過剰流動性がもたらす総楽観に歯止めがかかるかと感じたが、実際にはその後の方が勢いよく上昇した。このあたりは参加者のマインドに大きく左右されるし、近年ではAIによるアルゴリズムがどう判断するかにより決まるため、なかなかに予想が難しい(実際、私の予想は全く当たっていない)。

 ただ、上昇する相場をITバブル時(インターネット・バブル - Wikipedia)と同様に、株価がバブルになるときはこのような勢いを持つものなのだと感心していたのが正直なところ。だが、今回の下落や景気の悪化に対して、結局は金融対策として過剰流動性を拡大する方向の処方箋が世界中の政府(あるいは中央銀行)が取られるだろうと予想する。現時点までの株安は、コロナウイルスが広がることによる世界的な不確実性の増大に伴うリスク回避が理由であろう。参加者たちは、一旦手じまいして様子を見るといったところであろうか。

 株価下落とは若干異なる動きだが、原油価格は中国の輸入量激減(中国の景況感、2月は過去最低 新型ウイルスの影響あらわ - ロイター)を受けて、既に大きく下げている(原油、消えぬ先安観 需要低迷・産油国の結束に不信感 (写真=ロイター) :日本経済新聞)。OPECでは協調減産声も出ているようだが、サウジアラビアの声掛けに徐々に従わない国も増えるだろう。その綻びが見えだすと一段と下げてもおかしくない。

 もう一つの商品として有事の金がある。こちらも高値維持をしているものの、株価の大きな下落を受け少し下げた(株価急落局面で金価格も急落している「謎」(小菅努) - 個人 - Yahoo!ニュース)ようだ。損失穴埋めのために売却されたのではないかというのが、一般的な見方の様である。

 

 問題はこの下落の先にある。世界的な経済が今までと同じような流通網を確保できたならば、これ以上の落ち込みはないのではないかという意見があるが、私の考えは少々違う。ウイルス感染の広がりに関する今後の動向や、各国が取る対応により状況は流動的であると思うが、気になっている点は以下の二つである。

(1)ジャンク債問題

(2)高すぎる不動産価格

  両者とも随分前から懸念されていたものではあるが、過剰流動性というお金の暴力の前ではこれまで本格的な綻びを見せることがなかった。前者(ハイイールド債 - Wikipedia)はリーマンショックリーマン・ショック - Wikipedia)の引き金となったサブプライムローンと同じ流れの金融商品であるが、一時期こうしたリスクの高い金融商品は間違いなく縮小方向にあった。ただ、現在の取引量はリーマンショック時を軽く超えている(世界経済総予測 2020:欧州でもジャンク債バブル 借り入れ比率は過去最高に=中空麻奈 | 週刊エコノミスト Online)。正のスパイラルという認識であろうか、株価の加速に勇気づけらえるようにどんどんと伸びていった(焦点:米ジャンク債、復活は本物か - ロイター)。過剰流動性を背景にして資金に余裕があれば、リスクテイクは市場参加者としては常識なのかもしれない。

 また、以前より指摘されているのはアメリカのシェールオイル開発にも多くのジャンク債が発行されていることである。並行して原油価格が下がっているため、こちらのジャンク債もいつ火が吹いてもおかしくはない(シェール革命はサブプライム危機の二の舞か)。今の世界の株価はお金をお金で回している状況にある。それが、新型コロナウイルスが引き起こす逆回転により負のスパイラルに陥らないかという懸念である。デフォルトやそれを扱うファンドの破綻が発生すれば、多くのばらまかれたCLO(CLO|証券用語解説集|野村證券)が劇薬になりかねない。ただ、世界的な金融緩和の副作用として世界的な金利の下落が、より大きな利益(利息)を得られる商品に向かわせたのは当然かもしれない。

 

 また、不動産価格の高騰も過剰流動性の生み出した結果の一つであると思う。既に東京の不動産価格はバブル期を以来の高値になったという(https://www.j-cast.com/2020/02/01378454.html?p=all)。しかし日本のそれは非常にかわいいもの(マンション価格、年収の10倍超え続く 18年の都内 :日本経済新聞)で、韓国や中国の不動産価格はもっと上昇している。一般に適正な住宅価格が年収の5~7倍と言われているが、中国ではそれどころか10倍を超えて30倍なんて話も出ている(中国の新築マンションは年収の30倍!?)。中国政府はこの制御に苦労していると思うが、この市場が崩壊すれば激震どころではない。バブル期の日本と同様に、中国は世界でも数多くの不動産を買いあさってきた。それが逆転することになる。

 観光地と航空業界とホテルは、当面の間は大きな逆風にさらされるのは間違いない。政府の支援も入るだろうが、いつまでもそれに頼ることはできない。そして、経済の好調さとグローバル化の恩恵を受けてきた不動産関係も景気の冷え込みは敏感である。自粛ムードの高まりこそが最大の敵となる。

 

 リーマンショック後の経済再生に向けて、世界はお金をばらまくことで好調を取り戻したのは明らかな事実。日本は、それ以前からの政府負債が大きかったため積極財政に取り組めずに、GDPの上昇という恩恵にあずかれず世界に取り残された。そして、今はMMT現代貨幣理論 - Wikipedia)というお金をばらまくための理論が取り上げられようとしている。大枠で考えると、内容的にはリーマンショック後の各国の対応と大きな違いはない(LIBORが2008年以来の大幅低下、米利下げ観測の高まり反映 - Bloomberg)。

 だが、その対応の先には同じようなこと(政府債務増大)が世界中で発生する可能性がある。今後発生するであろう巨大な不良債権処理に再び政府資金が湯水のように使用されるだろう。だが、それがいつまでも十分な効果を示すかどうかはわからない。もちろんこれは最悪を想定した内容であり、全てが悪く回転するとは限らない。だが、株価のバブルは同時に数多くのリスクオンを行ってきた複合的な構造が現在の状況であると私は思う。今回の問題はその楽観論に冷や水を浴びせた。だからこそ、この状況が本格的に逆回転したときのショックについて考えると共に、それを緩和するための方法論についても考えておくことが重要だろう。

 新型コロナショックは、短気に解消されるものではないだろうし、実体経済をじわじわと蝕むタイプの災厄である。自粛ムードはそれを止める時期が難しい。わかりやすい指標があれば復帰できるが、それがない限りなかなか元には戻せない。加えて、全世界が同時に被害を受ける。すなわち、リーマンショック時の中国のようにどこかの国が救済者になることは難しい。さらに、時間がかかるほどに経済の悪化が様々な問題(地域紛争、食糧問題等)に火をつけていく。だから、ここからは階段を一歩ずつ下りるように悲観と楽観を繰り返しながら、少しずつ株価は下げていくのではないか。

 できれば、特効薬の開発によりそれが止まることを期待したい。