Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

トランプマジックの賞味期限

 世界中の株価の中で、アメリカのそれが最高値を更新するかと言う圧倒的にパフォーマンスの良い状況(Dow Jones Industrial Average, DJIA Quick Chart - (Dow Jones Global) DJIA, Dow Jones Industrial Average Stock Price - BigCharts.com)にある。実際、現時点においてアメリカ国内の景気が世界の中でも最も良い場所の一つなのだから当然かもしれない。

 ところで、日本企業のPBR(PBR/株価純資産倍率│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券)はかなり低くて1を切っているところも少なくない(TOPIXのPBRは1.2倍でアメリカのS&P500の3.5倍と比べても1/3程度と低い)。それ故に、日本株は出遅れだという声も聞かれる(バリュー相場到来、「マグニチュード大も」-日本株出遅れ修正へ - Bloomberg)。一方、アメリカのPBR(約3.5倍)については日本と比べて高い(世界各国のPER・PBR・時価総額 (毎月更新) - myINDEX)ものの歴史的に見れば加熱とまでは言えないレベルに留まっており(日本株(TOPIX)と米国株(S&P500)の予想PER・実績PBR推移 - ファイナンシャルスター)、指標を見る限りにおいてはバブルと言うほどではない。ただ、私は指標とは別にバブルの匂いを感じている。

 

 他方、経済状況に関するニュースに目を向けると、米中経済戦争や、BREXITドイツ銀行の債務問題やイラン問題など、経済を揺るがす可能性には事欠かない。欧州のECB(中央銀行)は景気の先行きを考えて、政策金利のマイナス幅を増大するのみならず、いくつかの国々の反対を押し切りQEまで復活させた(ECBがQE再開、マイナス金利0.5%に深掘り 金利階層化も - ロイター)。ドイツは第三四半期にはリセッションに陥ることが強く懸念され(ドイツ、製造業受注が大幅落ち込み-リセッションリスク悪化 - Bloomberg)、欧州の経済状況は予断を許さない。アメリカのみがマクロ的に俯瞰すると未だ悪くはない状況(米コアCPI、8月は前年比+2.4% 1年ぶり大幅上昇 - ロイター)にある(米新規失業保険申請、4月以来の低水準-労働市場の健全さ示唆 - Bloomberg)。一部で景気減速を指し示す指標が悪化を始めている(BofAから投資家に悪いニュース、米消費者信頼感の指標が急低下 - Bloombergガンドラック氏、米大統領選前のリセッション入りを警告-確率75% - Bloomberg)ものの、それが今すぐに大きな不況に社会を導くわけではない。あくまで現状においては懸念である。

 そんな状況下でも、株価下落を極端に恐れるトランプ政権は大胆な金利引き下げ(一気に政策金利を0%にするレベル)をFRBに要求している(トランプ大統領が求めた赤字ファイナンス目的の利下げ、惨事招く恐れ - Bloomberg)。さらに、米中共に意地の張り合いに疲れ始めており、根本的な対立は何も解消してはいないが、お互いにほんのわずかではあるが妥協のサインを出し始めた(米大統領顧問らが中国との暫定合意案検討、関税先送りも-関係者 - Bloomberg)。現状の株価上昇も、それを受けてのものと考えられている。トランプマジックは、トランプが支持率を維持するために株価を高める政策を打ち出し続けるという期待により維持されているのだから。

 

 過剰流動性資金が株式市場をはじめあちこちに流れ込む現象は、もはや当たり前のことになった。最も単純な経済の図式を考えるとき、経済は需要と供給で成り立っている。だが、歴史的には世界中が供給が過剰になり需要が減退したという状態は、今のところ初めて発生している。一部ではいまだに供給不足を唱える人もいるが、デフレの最大の問題は需要不足であり、日本は生産能力と比べて消費が弱いことが事態を長引かせている。ところが、世界中が30年遅れでそんな日本のようなデフレの危機に近づいているという訳だ。日本のバブル崩壊に学んだ世界だが、日本も脱出できていないデフレに対する明確な処方箋は今のことろ持っていない。だからこそ、そこに入らないように対処するしかないのが現実であろう。

 アメリカは利下げと量的緩和FRBの資産買い上げ)によるバラマキ余力を残しており、それを期待して株価が下がらない状況にある。ただ、その期待がいつまで継続するのかが私にとっての大きな関心となっている。ちなみにもう一つの大国である中国は、共産党独裁政権という強みを生かし、少々の難局は強引に乗り切ることが可能かもしれない。崩れるときは一瞬だろうが、そもそも世界経済の混乱を誰も望まないので、中国が意地を張り続ける余地は十分に残っている。

 兎に角、トランプマジックと言うべきか、「減税するぞ」、「金利を下げるぞ」というメッセージを発することで、彼の大統領着任後アメリカの株価は大きく跳ね上がってきた。それに引きずられるように世界の株価も上昇したが、それは世界の景気が本当にすごく良くなったわけではなく、ばらまかれた金は利率を求めて世界をさまよう。そして、今都合の良い過剰流動性資金の行き場所が株式市場になった結果に過ぎない。

 

 日本がバブル崩壊後に長期のデフレに沈んでいるのは、積極財政を閉めたままであるからという意見は正しい認識である。だから、アメリカや中国ほどではなくとも政府支出の増加に舵を切るのは必須だと私は考える。ただ、それが現状の日本を一発で救う万能であるとも思わない。財務省ほどの悲観派ではないものの、下手なかじ取りをした時の行き着く先はパラダイスではない。

 同じ状況はトランプマジックの行き着く先にも表れ得る。日本の財政当局が臆病すぎるせいで、株価もGDPも世界の上昇からは置いて行かれているが、世界もその落としどころについてはそろそろ考えなければならないのではないか。

 アメリカのPBRが驚くほど高い訳でないのは既にふれたが、これも金余りの生み出した状況だと私は感じている。世界中に低金利の資金が溢れており、企業は社債などで非常に容易にそれらにアクセスできる。また、世界の景気は現状様々な不安はあるものの悲観するほど悪い状況に至っている訳じゃない。ただ、過剰流動性によるかさ上げがどこまで継続できるのかという問題に現在直面している。今はやりのMMT現代貨幣理論 - Wikipedia)などは、制約はあるものの無限に近く可能であるというスタンスのように見える。ただ、私はその考え方には疑念を持っている。基本的にリフレ派のつもりではあるが、世界が「過剰流動性の罠」に陥っているのではないかという疑念は頭を離れない。

 

 原油価格は、株価と違い大きくは伸びていない(OPECプラス、来年に向け市場の大幅な供給過剰に直面へ-IEA - Bloomberg)。一方で安全資産として捉えられる金の価格はここにきて高まっている(金価格は史上最高値更新も-今後2年で2000ドル突破とシティが予想 - Bloomberg)。すなわち、世界経済がそこまで順調ではないという認識がそこには存在する。にも関わらず株価が上昇を続けるのは、楽観論と悲観論が入り混じっているラストパラダイスになっているからだとは思えないだろうか。そして多くの資金運用者は、安全運用先として博打のように楽観論にBETしている。

 金はあるが投資先がない。この言葉は、日本でずっと囁かれてきた。そして、これはデフレ状況にあることを示す典型的なキーワードでもある。そんな中で世界は徐々にデフレに向かっている。それは過剰流動性資金により生み出され、進行している。ただ、その危険性に対する処方箋は、まだ金利引き下げと資金供給にしかないのが恐ろしい。過剰流動性により過剰流動性を制御しようというのだから。素人の考えなど休むに似たりであってほしいと思うが、素人なりの直感で現状を見るとそう感じてしまう。

 トランプマジックは、私が予想していた以上に効果を上げた。まあ、私の予想などいくらの価値もないが、それはトランプなりに目利きがあったことだけではなく、多分に過剰な資金の流れが生み出した幻想なのかもしれない。その賞味期限がいつ来るかはわからないが、確実に期限は存在するだろう。

 それは予想PERの急激な低下から始まるのではないか。どのような流れを取るかはわからないが、私はどちらかと言えば悲観論である。