Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

韓国が引金を引く日

 世界経済は、実体経済はそれほどでもなくとも株価が上昇する金融相場(金融相場(きんゆうそうば) | 証券用語集 | 東海東京証券株式会社)の状況(【米国株・国債・商品】株が最高値、部分的な貿易合意に米中署名 - Bloomberg)にある。日本でも何度も言われてきた、実感なき好景気の状況である(コラム:ポスト米中合意、世界経済は「回復感なき株高」の公算大 - ロイター)。大統領選を前にして、アメリカ政府やFRBが対策を打つだろうという期待が先行している状況。ただ、それでもアメリカでは資産を株式等で持つ人が多いため、株価の上昇が消費を押し上げる効果があり、日本や欧州とは少し違う。

 世界に溢れているマネーはアメリカのみに留まるはずもなく、世界中のマーケットを押し上げている。金価格も相当に上昇しており(金価格推移 | 相場・マーケット情報 | 純金積立なら三菱マテリアル GOLDPARK(ゴールドパーク))、資金は行き先を探し右往左往しているといったところであろうか。資金の一部は不動産にも流れ込み、大きく価格が上昇しているところも少なくない。不動産価格上昇は世界中で見られる現象ではあるが、中国や韓国のそれは多少の上下はあるものの、日本と比べると非常に高い伸びを示している(【韓国】30代のソウル「離脱」加速[建設] 不動産高騰、再上京は難しく中国の新築住宅価格、12月は前年比+6.6% 18年7月以来の低い伸び - ロイター中国、中小都市で異常な地価高騰 住宅返済比率92%、家計に限界 (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト)。

 一時期、中国でも2015年頃に不動産バブル崩壊かと叫ばれた時期もあったが、中国政府の金融緩和策や売買抑制策(中国当局、消費者金融や住宅売却規制を強化 不動産株一時急落)等により上昇率こそ低下したものの、バブル崩壊には程遠い不動産価格の下がらない状況が続いている(https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/as190124.pdf)。とは言え、中国政府の不動産政策が全て上手くいっているとは思わない。崩れない、あるいは崩すことができない最大の理由は、恐ろしくて誰もこの不動産バブルを壊せないということではないか。莫大な社会資本投資によりGDPを上昇させている中国にとっては、これは決して壊してはならない聖域である。もちろん、高すぎる不動産価格はいつかは調整しなければならない。庶民が手を出せないものになってしまえば、市場が枯渇してしまう。ただ、地方政府の財源の大部分が不動産に依っていることもあり、あらゆる手を尽くして現時点では表面上は壊滅的な状況に至ってはいないようだ。

 

 このように、中国政府は間違いなく扶桑さん価格を下落させてはいけないことを強く意識しているであろう。その崩壊は日本のバブル崩壊がそうであったように、一度転がり始めると対処のしようがないモンスターと化す。すなわち、予防的措置が何よりも重要であるということを日本から学んだはずだ。繰り返しになるが、それもいつかは破綻する。ただ、少なくとも延命させるために市場と会話したり、あるいは強権を発動させたりしながら安定化の努力を続けている。それだけ、重要視し神経を使っているといってよい。

 だが、世界にはそのことを理解しない指導者も存在する。私は、韓国の文大統領がその一人ではないかと思う。そもそも、経済的にも外交的にも素人政権なのはこれまでの実績から明らかではあるが、今回も不動産市場を壊しかねない施策を打ち出した(住宅売買も政府の許諾が必要? 青瓦台の超憲法的発想 | Joongang Ilbo | 中央日報)。一定以上の不動産を持っている国民は、追加の不動産購入資金を借りられないというものだ。あたかも財産そのものを憎むかのように、執拗に不動産規制を立て続けに打ち出している。もちろん、過度な不動産投機が良いというつもりはない。だが、社会の経済活動を阻害すればするほどに、市場は硬直化し容易に崩壊する。

 

 韓国の株価は世界景気のカナリアという説(世界経済にとっての「炭鉱のカナリア」は韓国だ・・・・韓国経済が世界に警告=中国-サーチナ)がある。炭鉱のカナリア炭鉱のカナリアとは|金融経済用語集)と同じように、世界景気が不調に陥るときいち早く反応するという考え方である。日本をはるかに凌駕する貿易立国であり、GDPにおける貿易依存率が非常に高い。すなわち、一定規模以上の国の中で世界景気悪化のダメージをどこよりも早く受けるという存在である(シンガポールの方が適しているという意見もある)。

 リーマンショックの引き金を韓国が引いたのではないかという説(リーマンショックの引き金は韓国にあった?本当の原因とは? | オルタナティブ投資の大学)があるが、韓国の行動が完全な引き金というのは難しいと思う。ただ、それでも世界に一定の影響力を持つ国にしては、行動が軽率(自分勝手)であると考えることはできるだろう。

 

 文大統領の不動産規制策がいつ爆発するかはわからないが、この方法は日本のバブル崩壊の引き金を引いた悪名高き総量規制(総量規制 - Wikipedia)と非常に似ている。間違いなく取引量を大きく落とすものであり、その結果として売り先がなくなり、売るためには価格を下げるしかないという状況に行き着く。日本の失敗を真面目に分析していれば取る事を躊躇われる施策であることは間違いない。だが、北朝鮮との統一に向けた各種改革の強い意志を持ち、自分が決めたことを決して曲げない文大統領のことだから、不動産バブル崩壊による景気悪化にすぐさま反応するとは思えない。なにせ、そういった専門家はほとんどいないだろうし、仮にいても耳を傾ける可能性は高くないと思える。

 現状、年始より韓国の株価は上昇している。景気は決して良くないし、就職市場も停滞したままである(高齢者や役に立たない短期就業が見かけ上の失業率は押し上げているが)。経済的な頼みの綱のアメリカや日本との関係は冷え込んだまま。要するに、先が見えない状況での株価上昇はあまり良い傾向とは言えない。アメリカの株価に追随する形で出遅れとして買われている可能性がある。そこにきて、この不動産規制強化。これでは、まるで不景気に突入してくれと後押しをしているようなものではないか。

 

 もちろん、バブル崩壊が韓国一国の問題で終われば言うことはない。だが、世界が複雑に絡み合っている現状、一部の破綻が大きな破綻に連鎖していく可能性は低くない。特に、現在やっとの思いで抑え込んでいる中国の不動産バブル崩壊に飛び火連鎖したときには、超ド級の世界的なリセッションを引き起こす可能性すらある。

 もちろん、飛び火するとは限らないし、韓国自体の問題がいつ爆発するかはわからない。ただ、現状は過剰流動性が常態化した先にある根拠なき好景気がどんどんと歪を貯めているように見えるのだ。それらを繰り返しながら発展してきたアメリカという国があり、その恩恵を最大限享受して発展した中国という国がある。その双方が容易に崩れるとは考えにくいが、不動産という禁断に引金を韓国が引いた場合にどのようになるかは、恐ろしい一面があるものの興味がある。