Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

過剰流動性の行き着く先

 私の予測は現時点で外れ、アメリカの株価は最高値を更新している。米中貿易協議の部分合意に近づいていることを理由とした報道(ニューヨーク ダウ平均株価 最高値を更新 米中交渉への期待感 | NHKニュース)が少なくないが、それは後付けの理由に過ぎない。仮に合意しても、アメリカと中国の根本的な対立が解消するはずもなく、トラプ大統領の選挙対策的な側面が表出したものに過ぎない。さらに、香港問題で中国がとる対抗策もまだ見えてこない。中国も対応措置を取るとの声もあるが、最終的には貿易合意を優先するのではないだろうか(中国、香港人権法への報復措置策定に苦慮か-自国への跳ね返り必至で - Bloomberg)。結局、中国も韓国も自国内の政治闘争が外交に大きな影響を与える体制のため、中国国内の面子がこうした交渉の行く末を決める。

 ところで、今年のアメリカ株価のパフォーマンスは20%近い上昇とされるが、なぜ現状において株価が上昇するのかが気になるところ。理由として、確かに一つにはアメリカの景気が非常に良いことがある。失業率は過去最低レベル(低失業率、犯歴ある人の雇用進むか (写真=ロイター) :日本経済新聞)であり、更に短期的には国民の平均収入も増えているらしい。企業の売り上げも上昇しており、ネットのみならず実在店舗の売り上げも好調が予想されている。

 

 このような状況に至っている理由は非常に単純で、金融緩和や減税が好循環を生み出しているためであるが、言い換えれば過剰流動性が生み出す恩恵をアメリカが最も受けている(米国、貿易戦争で中国より優位に-少なくとも金融市場で - Bloomberg)とも考えられる。日本や欧州の株価も比較的高いが、これはアメリカ好調の余波を恩恵として受けての結果であると考えたほうが良いだろう。とは言え、経済が好調であることは空売り主体のヘッジファンド以外の誰にとってもメリットのあることであり、それを歓迎しない人はあまりいないはずだ。

 ただ、私が危惧するのは景気とは本来循環するもの(近年の「米景気循環の法則」 2018年以降の経済リスク展望 | ZUU online)であり、低迷期を経て好調期に移るという原則である。ずっと好調機を続けること自体、日本の高度成長期のように内的要因と外的要因がマッチすれば起こり得るが、それが世界中で永遠に続くことはあり得ない。現在の好景気がトランプと言う極めて個性的な政治家により維持されているのは間違いないが、それにもどこかの段階で限界が存在する。また、株価が好調だからと言って潜在的な所得格差が解消されているわけでもない(アメリカの低所得層、苦境深まる UBS調査 世帯40%が与信上に問題 - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト)。それはアメリカで民主党大統領候補者に多くの社会主義的主張をする人物が立候補していることからもわかる。

 

 過剰流動性過剰流動性(かじょうりゅうどうせい)とは - コトバンク)というある意味経済ドーピング的な政策により、リーマンショック後の経済は何とか立て直すことができた。その一翼は中国が大々的に担い、一時期は世界経済の牽引車となってきた。ただ、このように資金供給が常態化したときに来るのは通常であればインフレである。本来インフレは、需要と供給のバランスが崩れ供給が不足したときに生じるが、現在世界の生産能力は需要を上回っており、どちらかと言えばデフレが進行する可能性の方が高い。かつては一国の中で生じていた問題が、経済のフレームが一国に留まらず世界的な広がりになったために容易には崩れなくなったとみることができるが、却って一度崩れた時には致命的な破壊力を持つに至ったと考えることもできる。

 一般的に、デフレは十分な供給能力(生産能力+購入する力)を有する先進国において発生することがあり、現状では先行して日本と欧州においてみられる。ただ、こうした流れは、一部社会主義的な政策を推し進めた国(韓国やメキシコ)にまで広がり始めた。所得がまだ十分高くない国(特に経常収支が黒字でない国)におけるデフレは、スタグフレーションスタグフレーション - Wikipedia)に至る可能性が低くないと私は考えている。お金を得るために輸出しなければならないが、それが国内供給量を侵食するとインフレと収入の下落が同時に引き起こされるからである。このような物価の上昇と所得の低下が重なれば、社会は大きな混乱を招くだろう。

 

 一方でアメリカにおいてどのような影響が表れるかだが、シェールガス革命により原油の自給が可能になった結果、農業国でもあるアメリカは極端なことを言えば鎖国をしてもやっていける国になっている。すなわち、つながってしまった世界から自国を切り離すことが可能なのだ。そこが、現状を守らなければならない日本とは大きく異なる。とは言え、アメリカも好んで鎖国する必要はない。他国との取引により大きな利益を得られる限り、世界的な貿易は継続される。

  そして、株価は世界的な景気拡大にBETしたままで、アメリカが世界貿易の枠組みを離れるような状況を好まない。現状において、ほぼ一人勝ちの状況を呈しているアメリカではあるが、特にそれをけん引しているのはNASDAQを中心とするITやソフト関係の企業である。製造業の復権を目指すアメリカではあるが、稼ぎ頭はソフトや仕組み産業である。これらは、旧来の産業をITにより一気に拡大させるモノであり、その市場拡大効果により独占的な力を持ち利益を上げてきた。

 だが、世界的に広がり切った企業の収益はそれ以上伸びなくなる。IT化による旧来ビジネスの置き換えにもどこかで限界が来る。その限界に既に到達したのか、まだまだ未来があるのかを判断するのは容易ではないが、そろそろ進展速度が衰え始めているのではないかと思う。新興国の経済拡大とITを使ったビジネスモデルの転換が相まって、ここまで経済拡大が続いてきたが、実のところ新興国の拡大には消費の増加という実態はあるが、ITによる既存ビジネスの置き換えには経済拡大の実態はそれほど大きくない。そもそもかつてあったビジネスをより効率的なそれが駆逐しただけのこと。結局、拡大部分はGDPの伸びに伴う範囲であるが、新興国経済の発展に頭打ちがみられる現在、それほど多くは期待できない。

 

 まだ、明確にバブルが崩壊したとは言い難い側面があるのは事実かもしれないが、経済ドーピングを使ってこの状態を維持しようとしている国が多い(アメリカも中国も)ことは、その先の問題をより大きくしてしまうのではないだろうか。世界経済は、バブルとその崩壊の連続であった。それらを繰り返しながら、徐々に拡大してきた。ITにより社会が大きく変わるとしても、結果的に経済の拡大には一定の制限値がある。爆発的には向上しえない。

 現在の世界各国における所得格差の広がりは、経済をフォーカスする範囲を限定することにより、より好調な状況を演出する土台となっているのではないかと感じている。一部の企業、一部の所得層、そうした人たちの経済圏。だが、経済の好調さを高く演出するほどに実体経済が歩める伸びとの差異が広がっていく。私にはそれが致命的な問題を引き起こすのではないかとの危惧を捨て去ることができない。アメリカはポジティブすぎ、日本は悲観的過ぎる。そうした国民マインドの違いはあるにしても、そんな中で一番怖いのは懸命に外面を整えている中国かもしれない。中国の実態と建前の乖離は、実情が正確に分からないせいもあるがどこの国よりも大きいのではないか。過剰流動性により猶予を与えられているこの国のコントロールをどこまで取り切れるのか(それは中国政府という意味と、アメリカという意味がある)。そここそがすべてなのかもしれない。