Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

香港問題

 日本メディアは欧米ほど大きく取り上げはしないが、ネットでの情報の広がりもあり関心の高い人々は良く知っているのではないかと思う。先日行われた区長選挙(実質的な権力はない)では香港の市民の民意が大きく示された(香港民主派圧勝、北京惨敗、そして日本は? | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)。投票以前には、過激デモに多くの香港市民は反対であるような報道も日本メディアからなされていた(市民の支持失う恐れ=反対派、一部が過激化-逃亡犯条例の改正・香港:時事ドットコム)が、投票結果を見る限りそれは中国側のプロパガンダの垂れ流し(あるいは影響を受けている)あることが読み取れる。

 

 先日、中国の工作員がオーストラリアに亡命申請した(中国から亡命希望の元スパイ、豪に膨大な情報を提供 報道 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News)。中国政府はでっち上げであると反論しているが、今回のケースが本当にそれかはまだ確定できないものの、中国による工作員が世界中に浸透していることは間違いない。一般にパンダハガー「パンダハガー」とは? – 『Money1』)と呼ばれる中国から資金を得て親中国的な活動を行う政治家や識者は、今後徐々にあぶりだされてくるのだろうと思う。オーストラリアでは、その活動の程度が目に余るようになり、一時の中国との蜜月関係が全く逆転してしまった(中国が豪政治の「乗っ取り」企図、保安機関元トップが警告 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News)。

 こうした現象は何もオーストラリアだけには限らず、アメリカでも日本でもすでに起こっていると考えるのが妥当であり、アメリカはオーストラリアに続きその排除に乗り出し始めた。現在の米中貿易戦争よりも以前に、孔子学院の排除(米国がおびえる孔子学院、次々と閉鎖「中国の支配下に」:朝日新聞デジタル)が話題になった時期から進んでいるものと考えるのが妥当だろう。本格的な排除は今進んでいるが、アメリカ議会で話題になったのは1年以上前の話(米FBI、孔子学院をスパイ容疑などで捜査対象「米国社会の脅威」 - ロイター)である。逆に言えば現状に至るまでに相当の時間を要している。

 

 香港問題は、何も香港独自の状況のみにより広がった訳ではない。きっかけとして中国送致問題があった(【解説】 なぜ香港でデモが? 知っておくべき背景 - BBCニュース)が、その背景には中国の強引ともいえる侵略に対する反発が世界的にも高まっており、そうした空気が事態を引き起こした。

 だが、中国の経済状況は米中貿易戦争を抜きにしても、相当の陰りを見せていた。一対一路などは、中国国内の経済問題を解決するための苦肉の策であり、実質的には国内で処理しきれない素材等を輸出するための方便である。また、中国が世界中にばらまいた資金は相当に不良債権化しており、それを理由に途上国の港湾等インフラの入手を図ってきたが、これを軍事拠点化するだけの体力が中国から徐々に失われている現実もある。

 個人的な感想で恐縮だが、中国に余裕がなくなったからこそ、香港問題が大きく燃え上がり、ウイグル問題なども広がりを見せていると考えるのが妥当ではないか。同じような状況は、これまでマスコミが報じなかったジャニーズ事務所等の不祥事がどんどんと明らかになる状況に似ている。傍証的ではあるが、中国がそれを抑えきれなくなっている、あるいは中国が提供できる旨味がなくなりつつあるために、このような状況が広がっていると考えられるのだ。

 

 では、そんな状況にも関わらずなぜ中国経済がまだ保たれているかと言えば、これも個人的な判断で申し訳ないが、世界的な過剰流動性による資金が行き場所を失っているからだと思う。世界経済がそれほど会長とは言えないにも関わらす、トランプ大統領の株価第一主義的な施策により世界の株価はいまだ上昇している。要するに、世界経済はもはや一蓮托生の状況になっている。中国の経済失速は、すなわちアメリカを含む世界中の経済失速にもつながる。

 その意識が中国の現在を支えている。ただ間違ってはならないのは、中国ほどの大国であり独裁国家はそう容易には崩れない。既にほとんどの格付けで投機級とされるソフトバンクソフトバンクG:格付け会社は納得せず-「財務リスク大きい」とS&P - Bloomberg)ですら、資金を追加供与する金融機関がある(ソフトバンクGに3000億円 みずほ銀行など融資へ協議 :日本経済新聞)ように、大きくて壊せないという状況に追い込まれているし、そうなるように中国自身が持って行った(結果的にそうなった)。

 アメリカはまだ開拓市場があるとみるIT系を除き徐々に中国離れを推し進めているように見えるが、日本は地理的な関係や歴史的経緯から中国との関係性を絶つよりは、中国を再生させることでメリットを得る方向に流れているように見える。だが、韓国との関係がそうであるように、中国もおそらくは日本が望む方向に価値観が大きく変化することはないだろう。もし仮にそれが起こるとすれば、中国がいくつかに分裂したときではないかと思う。相当に気の長い話として。

 

 さて、香港問題は中国の政策的な行き詰まりが表出した問題である。香港に十分な金を流せていたとすれば、このような事態を引き起こすことには至らなかった(あるいは妥協点を見いだせた)。だが、その力が中国に無くなったとすれば、今後中国を見限る国際資本はどんどんと増えていく。直接的に語られる言葉は人権問題かもしれないが、そんなことは建前に過ぎない。中国から将来的に得られる利益が期待できなくなれば、去っていくのは当たり前ではないか。

 香港でのデモは、今後ゲリラ的にならざるを得ない。圧倒的な武力や人員を中国本土から投入できる中国政府と異なり、香港デモを主導している市民には継続戦闘能力が欠けているのだから。特に拠点であった大学を抑えられては、一気に状況が進む可能性も秘めている。そして、デモ活動が弱体化すればアメリカも容易には踏み込めなくなる。短期的には中国政府側が主導権を握る形になるのではないかと予想する。

 だが、その背景には中国の資金力の枯渇(資金を引き付ける力の衰退)があり、長期的に考えると徐々にではあるが中国が力を振りえなくなっていく。それを逆転する方法は容易には見つからない。体制維持を目的に中国共産党政府が暴発しないことを強く願っている。