Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

QE3のそのあと

 FRBバーナンキ議長が金融緩和の出口戦略を示唆した発言をしたことから、世界中の株式市場は大きく下げることとなった。そもそも出口戦略を検討し始めると言うことは、アメリカ国内景気が一定の回復を見せた(というか見かけ上は好調である)ということの証拠でもある。株式の相場観的に言えば、金融相場(期待感先行の相場)が業績相場(企業業績の向上を受けた現実的な相場)への移行が語られる時期と言うことになる。本来であれば、期待が実態に移行する間の多少の混乱としての株式下落であるはずだが、現状においては見通しは必ずしも明るいものと言いきれない。それは、流動性の極度の高まりがこれまでの概念を越えるレベルに達していることが関係している。そもそも、一種の不動産バブル景気であったリーマンショック前に株価を、アメリカは既に期待感(というか、緩和された大量のマネー)により超えてしまっている。いくら実績が多少は向上してきたとはいえども、今後の景気がバブル状態を超えることは想定しがたい。
 だとすれば、景気回復に基づく金融引き締めであっても株価は軟調に移行することが予想される。有り余るマネーを基にそれに希望は食い尽くしたと言っても良い。むろん、緩和のテンポを緩めるのみであり本格的な引き締めに入るという訳ではなく、イコール世界中に有り余ったマネーが消失してしまう訳ではない。それでも、マネーは一定の指標を見失い漂う可能性が低くない。マネーの極端な異動は、世界経済に混乱を招くことになる。

 現在の世界の金融事情はこの溢れるマネーが規準となっている。だから、新興国では今後の更なる緩和がないという予想から成長の速度が鈍るとの考えに至り、資金が逃避を始めている。おそらく、資金待逃避の充填をこれらの国々は行っているのだろうが、その規模は世界を駆け回る資金と比べていかにも小さなものでしかない。
 要するに、新興国一カ国では現実的にはどうしようもないと言うことだ。だから、様々な連携の枠組みが準備されているのだが、現在の肥大したマネーはその枠組みで保証できるレベルをおそらくは大きく越えている。もし、マネーが一つの意志をもって暴れまわったとすれば、世界中の国々が従来型の体制安定方策を発動したとしても防ぎきれるものではない。
 ただし、マネーの意志は非常に数多くの思惑の相互作用として決定される。すなわち、よほどのショック的な出来事がない限り同じ方向に一度に流れ出すことはない。すなわち、口先介入であっても無理やりのこじつけであったとしても、国家を守るという意志が明確に示されている限りにおいて、通常では暴走することはない。
 逆に言えば、「よほど」のショックがあるならば国家がどれだけ意志を示したとしても、マネーはそれを顧みることはない。むしろ中にはチャンスとばかりに畳み掛ける動くを取るものもいる。アジア通貨危機も、リーマンショック後の変動も、そのきっかけが何であったかは別として一度動き出したものは留めることができない。
 小中学校の理科の実験ではないが、モノが静止している時には静止摩擦力と言う動き出すを抑制する力が存在するが、一度動き始めてしまえば摩擦力は小さくなってしまう。そして、溢れたマネーが多く存在するということは、潜在的なきっかけとなる要因が多数潜んでいるということでもある。マネーの増加は、経済の変動を非常にセンシティブに変えてしまっている。私たちは、常にそれに怯え翻弄される状況に置かれていると考えても良い。

 これが落ち着くためには、肥大したマネーの存在を縮小する方向に動くことが必要だが、大きな痛みを伴う政策決定を世界中で協調して行うことなど現実には不可能である。何しろ、世界が緊縮に動いたとき自国のみが緩和すれば一人勝ちになるのだから。
 だから、紆余曲折はあっても世界に有り余るマネーを現状の価値のまま減じるということは、おそらくできないであろう。だとすれば、自然調整弁としてはインフレしか対処がないことになる。理想を言えば緩やかなインフレが世界中で続けば問題はないのだが、これについても世界各所では必ず濃淡が生じる。そして、緩やかなインフレの国はバランスの取れた政策運営が可能であるが、厳しいインフレでは国民の不満がどんどんと溜まりいつか何らかの形で爆発する。

 アメリカは緩やかなインフレを目指せる国家であり、日本もおそらくそれに該当する。EUの中の一部の国はそれが可能であるが、世界中の多くの国は緩やかなそれを甘受できないであろう。要するに世界の経済というか政治が荒れることとなる。
 しかし、利害関係が絡み国家同士で勝敗を競っている現状においては、世界が協調して緩やかなインフレを目指す政策を取ることなどできはしない。日本は緩やかなインフレが可能な国だと書いたが、これも一歩間違えればその地位を失ってしまうこともあるだろう。
 アメリカの動きにより世界経済が先送りの現状から動き出したことは、必然であり当然である。問題は、この荒波を日本という国が上手く乗り切ってほしいと思う限りである。