Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

金余りの行き着く先

ものが動かず金のみが動く世界(http://d.hatena.ne.jp/job_joy/20120207/1328540463
リ・バブル(http://d.hatena.ne.jp/job_joy/20120711/1341932623

 2年ほど前にこれらエントリを書いたが、当時と比較しても世界の株式市場は大きく上昇した。アメリカの株価指数の一つであるダウ工業株価指数は少し前まで連日最高値を更新していたが、別にアメリカの景気が抜群に良い訳ではないことを知る人も多い。確かに欧州と比較すればアメリカの方が良いだろうが、この比較はあくまで相対的なものであり好景気時のアメリカと比較して社会が活気にあふれている状況にはない。株価は必ずしも景気の動向を表すわけではないと言うことである。
 そういえば日本でもガソリンの価格がじわじわと上昇しているのを多くの人が苦い思いで感じているところでもあろう。為替の影響があるために、現在の日本における物価変動が全て世界中の物資価格上昇とリンクしているわけではないが、徐々にではあるが物価の上昇が始まりつつあるのであろう。
 しかし、現状続いている株価の上昇は私からすれば非常に危ういものにも見える。一部の報道では、ここからさらに株価が上昇するという説も出ているようである。株価の天井は誰にもわからないが、個人的な感覚で言えばそれほど大きな株価上昇に至るとは思っていない。だから、いつかはわからないものの株価の大きな下落が生じるであろうことも何度か触れてきた。

 かつて書いたエントリにあるバブル的な状況は、超金融緩和という状況で生じている。経済活動が不活発になったものをお金をばらまくことで無理矢理刺激するという策である。もちろん、その施策が何が何でも悪い訳ではない。必要な刺激を与えることについてはやぶさかではないし、数年前の日本は間違いなくそれを必要としていた。金融緩和が必ずしも最善の策とは思わないが、何らかの刺激策は今も必要としていると私は考える。
 ただ、世界の状況と日本の状況が同じであるはずもなく、日本に必要な施策が世界でも同じように求められているわけではない(欧州などでは一部に日本を見習おうという声も上がっているが)。だから、世界経済が日本と同じように動く訳でもない。仮に日本が正しい施策をとっていても、世界経済が大きく壊れればその濁流に必ず巻き込まれる。そしてその可能性はこれまた徐々に高まりつつあるように思う。
 間違いなくやってくるであろう乱高下や突発的な下落がいつ生じるのかは誰にもわからないが、今もそのエネルギーが蓄積され続けている。ウクライナイスラエルにイランとイラク東シナ海南シナ海よりも深刻な状況がある中で世界経済が享楽に耽っていられると思えるほどお気楽ではいられない。

 上述のような政治的な不安定さはあるものの、他方で現代社会は(少なくとも先進国においては)モノもお金も余っている時代である。もちろん一般庶民はお金の余剰を感じることは難しいだろうが、社会の全てを見渡せば間違いなくお金は十分すぎるほどにある。そして現代社会では現実に流通する貨幣の何倍・何十倍もの決済用の信用通貨が存在し、途方もなく大きなうねりを作り上げている。
 仮に、モノが不足していたならば極端なインフレが生じて社会は混乱に巻き込まれる。お金が不足していれば流通が麻痺して社会はまた混乱するであろうが、こちらは政府が発行すれば収束可能である。両方が不足していれば経済は小さな範囲でしか回らないが、両者が余っている場合に社会がどこに行きつくのかを知るものはまだいない。
 日本において、モノ余り(生産能力の余剰がある状態)はデフレを引き起こした。消費が低迷し(とは言えども世界レベルでは安定している方だと思うが)、失われた20年という言葉(最初は10年であった)も何度も用いられてきた。アベノミクスのおかげかどうかはわからないが、デフレが多少緩和され失われた○○年という呼称よりは、「景気回復が思うようには進んでいない」という報道が目立つようになってきたが、それ自身が長期の低迷より脱し始めているという心理的な受け止め方の変化だということに気づく人もいるであろう。

 さて、金余りによるバブルは物価の高騰を招くのかについて考えてみたい。インフレというのはあくまでおおざっぱに言えば物の量よりお金の量が多い場合に生じる。著しいインフレが生じた事例は、ほとんどの場合において大幅な物資の不足が引き起こしている(戦後や一部の発展途上国における政策の失敗)。
 逆に、十分物がある時にお金が溢れていても容易にはインフレが生じないというのは、ここ十年の日本やリーマンショック後の欧米を見ていても良くわかる。信じられないほどの金融緩和が行われたが、世界中の長期金利は大きく低下している。
 一部の識者は初期から金利の暴騰を警告してきたが、少なくとも現在の状況で言えばその警告は的を射ていない。無論こうした金融緩和が永遠に続けられる訳ではなく、それを続けた先には金利の信じられないような上昇が待っているかもしれないが、それでもここ数年で状況が根本的に変わるとは思えない。
 すなわち、少なくとも当面は物資の流通に問題がない限りにおいて著しいインフレが生じる訳ではない。もちろん、輸入物資がじわじわと上昇している現実もあって、その動向に神経を配らなければならないのは言うまでもない。今上昇しているのは、有り余った資金がその収益性を求めて動き回っていることの余波を受けている結果である。
 すなわち、世界の投資(投機)資金が動き回る範囲においてはインフレが生じ始めているが、それはまだ生活圏のインフレを大きく引き起こすレベルにまでは達していないということでもあろう。


 現在は一面でバブルでありながら、それが全ての分野に広がるのではなく特定のもののみが価格上昇するという状況にある。往々にしてバブルは特定の分野を舞台にする(チューリップ、IT、不動産、etc.)が、現状のそれは株式および資源と言えるようにも思う。ただ、特定の分野と言いながら庶民生活から少し離れており、その上で広がりは意外と広い。バブルの源泉は金余りであり、明確に言えば「貨幣バブル」と言う言葉が適切なのかも知れない。
 しかし、この地味なバブルも広がり続けることで社会的格差が開いていく可能性は低くない。大企業のボーナスが増額される一方で、中小企業ではむしろ消費増税を転嫁できずに利益を減らしているところもあるようだ。現状では社会のバランスに配慮している(あるいは国家がそうし向けている)故に比較的ゆっくりとした動きではあるが、こうした配慮をしなくなった時が分水嶺ではないだろうか。
 そして、崩れる時はおそらく早い。突然死(株式市場、国債市場等)が見られることになると思う。それがどの程度の国家に広がり、またどのレベルまで墜落するかについてもやはりわからない。地震で蓄えられるエネルギーが正確に読めないように、こちらもまた大まかな予測はできても精密な分析はできない。

 今、溢れた資金は常により利率の高い場所を探し続け、場合によっては自らそれを生み出そうとしている。ヘッジファンド投資銀行の動きはリーマンショック後の規制により抑えられているが、気がつけば抜け道が生まれていると言うことにもなるだろう。
 先進国ではモノも余っている(生産能力に余裕がある)だけに、考えたくもないが最後の引き金は争いにより引き起こされるかも知れない。