Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

正常化

 ニューヨーク株式市場がここにきて小さな下落を演じている。もちろん、株価などというものは上がることもあれば下がることもあり変動は織り込み済みのことだし、既にかなりの上昇を演じている現状を考えれば多少の下落など取り立てて騒ぐべきことではないだろう。現実にリーマンショックのような衝撃的な状況にある訳ではない。もちろん、そうならないように最大限の対策が打たれている結果でもあるが、それでも様々な不安要素が囁かれている。
 ただ、今回の動きは不安とは別の意味で少々面白い。その理由は単純明快である。一部の指標では景気が良くなったので、あるいは政党間での合意が得られ財政上の不安が取り除かれそうなので下げたというのである。株価は景気の先行指標でもある。良くなりそうだから上がる。そして良くなれば達成感から下げる。だから、仮に現状景気が良くなっているのであれば下げるのもある程度納得できなくはないが、現状の世界の景気が良いとは誰も思わないだろう。
 日本でもアベノミクスにより一部業種では業務が忙しくなりつつあり、人材不足や材料製品不足が徐々に問題になりつつある。だからと言って庶民の所得が急激に回復するはずなどないが、それでも一部大企業がベースアップに対して前向きな発言をしていることは必ずしも悪い傾向ではあるまい。
 しかし、だからと言って現状の日本が好景気であるというのはあまりに厳しすぎる。私自身、低成長時代の好況感はバブルのそれと比較することなど愚かしいものだと思っており、世間で軽く不況だと言っている程度が契機としての可もなく不可も無くではないかと考えているが、これも企業の受け止めと社会の受け止めが異なることによるギャップが大きく存在する。

 現状はリーマンショック後から継続している欧米のある意味狂ったような積極的な金融緩和が景況感と株価の不整合を生み出しているが、仮に株価を大きく下げることになったとしても景気回復による金融緩和の縮小(引き締めではない)は正常化への道筋だと考えることができる。もっとも、現状においてそれが本当に可能かはわからない。バーナンキは最後まで引き締め(Tapering)には動かないかもしれないと私は思う。ただ、水道の蛇口を閉めようとする動きはどこかでは必ず必要になる。問題は時期のみの話なのである。
 そして、正常化の道筋においては必ずこれまで放出された資金の絞り込みが行われる。それはマネーゲームに勤しむための元手が失われると言うことでもあり、結果としておそらく株価が下げる。現状の株式市場は経済の不安定化を防止する余録として金融業界が得たおまけなのだ。
 現実に、アメリカではボルカー・ルール(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9B909520131210?sp=true)の導入がほぼ決まり、ウォール街への締め付けが強化されようとしている。要するに宴はそろそろ規模の縮小を迫られる時期に到達しつつある。現実には、株式市場に入っている資金は欧米の金融機関のもののみではない。オイルマネーや中国マネーが所狭しと暴れ回ってはいるが、制度が決まればこれらの資金も野放図に動き回れなくなっていく。

 正常化とは言っても、建前が常に正しい訳ではないように正常な姿が世界や経済や国民に優しいとは限らない。それは日本における財政健全化と同類でもある。正常化や健全化が究極の目的であるならばいざ知らず、国民の幸せの追求が目的であるならばこれらは手段に過ぎない。
 だから国民の生活を無視して正常化を急がなければならない理由はどこにもない。ただ、これらは国民生活と経済の安定という両天秤の下でバランスを図り続けなければならないものである。

 これから、株式市場は金融緩和の動向にこれまで以上に一喜一憂することが増えるであろうし、その流れは株式市場の下落という方向に向かうことが増えるかもしれない。ただ、それは経済の不健全さに伴うショックではなく正常化に向かう流れだとすれば、動向について納得できなくもない。
 それをもって不安を煽るものも現れるだろうが、株式が下落したからと言って世界が終わる訳でもない。バブルが膨らみすぎたからと言って全ての国民が呼吸困難に陥る訳でもない。急激な変動は国民に痛みを与えるので政府当局はそれをなるべく避けるべく努力するであろう。ギャンブラーたちの一部は結果において大きな痛手を被るかも知れないが、それが経済の終わりを意味するのではないことは理解しておいた方が良い。