Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中国共産党宗教化

 中国株の暴落が大きなニュースとなり始めている(http://www.asahi.com/articles/ASH785HWMH78ULFA01X.htmlhttp://www.bloomberg.co.jp/bb/newsarchive/NR5C0G6JTSE901.html)

 一部ネット上では「中国オワタ」の雰囲気が充満しているが、政府がおそらく裏で主導していた株高の演出は失敗したものの、この株価の下落によりいきなり中国の勢いが低迷するということにはつながらない。いずれそういう方向に向かうとは思うが、まだもう少し時間が必要である。今回の出来事はその前哨戦だと考えておいた方がよいだろう。
 正直言えば、パニック心理を抑えるための手法として裏から手をまわし大企業に株式取引停止をさせるなど、見事な悪手を取ったものだと思うがこれも中国の民主化に向かう細やかな試練だと思えば致し方あるまい。日本もバブル崩壊後に政府が様々なミスをしているので、他人のことを言えるほどのものでもないのだし。
 どちらにしても、株式は取引が自由にできるからこそ意味があるのであって、それが無くなる可能性があるとすれば手を出そうとする人は極端に減る。すなわち、当面の間は株式市場に手を出そうとする人は大きく減少するだろうことは容易に想像がつく。

 さて、それでは株式市場をここまで急騰させなければならない理由は何だったのかが気になるところである。その正確な理由を窺い知ることはできないが、不動産投資中心の歪な投資状態を改善することと、景気後退により経済成長率が低下した分をカバーしようという邪な狙いがあったのではないかと考えている。
 加えて、国営企業やその他政府が関連する様々な利益(土地建物取引等)の付け替えを行うためではないかと邪推したりもしている。
 それでも確かに、徐々にではあるが中国の市場は資本主義経済のシステムに近づいてきている。もちろん私たちから見れば信頼に値するものではないが、共産主義というには現在の状況は正直言えば開かれ過ぎている。共産主義における計画経済的手法が、思いもかけず株価下落に伴い顔を出してしまったというのが実際なのだろう。

 さて、経済的なカバーという面もあるのだが、同時に中国共産党の権威を維持するというのも大きなミッションとして存在する。むしろ、実を言えばそれの方が大切なのだろうと私は考えている。株価上昇の演出も裏側では政府が本気だから株価は上がるという雰囲気と、だからこそ下がらないという幻想が醸し出した急上昇であった(上海総合株価指数は2000強から一気に5000まで駆けあがった)。
 金融界や証券界からはバリエーション(PER)的にはまだ高すぎないという声も聞こえるが、国家としても政府としても出してくる情報の信頼性が低い社会のため、それを素直に信じろと言うのは酷であろう。
 でも、私は冒頭でも書いたようにこれが中国社会体制の崩壊に至るとは考えていない。実際、大部分の人も傍観者が見るイベントとして面白おかしく意見を言っているだけで、これが短期的に中国の崩壊に結び付くとは考えていないだろう(そうであればよいなと考える人はいるだろうが)。

 この共産党の権威を維持するという点において、ほとんどの中国の行動は理解できる。強い中国を演出し、発展する中国で夢を与え、寛大な中国で自負心を国民に知らしめる。もちろんそれを可能とするのが共産党政府という筋書きである。資本主義経済の導入も諸刃の剣ではあるがそのために導入し、一面では成功をおさめ、他方では共産党政府の威厳を貶める。
 現状は、そのためのバランス維持に四苦八苦しているというのが事実であろう。今後も成長し強くなる中国を演出するためには、経済的発展だけでなく科学技術・文化においても大きく発展し続けなければならない。これは他の民主主義国家からすればかなり高いハードルが課せられている(自ら課している)と考えることができる。
 このように中国の発展のためには、人民が高い能力と技術力を習得しなければらない。しかし、高い教育を受けるほどに現在の統治体制の矛盾を認識することになり、共産党独裁の根幹を揺るがすことになる。今の中国は対外的な軋轢以上に、この問題に対処することに手一杯というのが実際なのだと思う。
 だから、外交において相手とのバランスを図った方が有利だという考えはあったとしても、そこにまで手を回す余裕はない。むしろ強引とも言えるロビー活動を手に入れた資金を基に行う方が容易なのだ。

 ここで問題となるのが、いつまで人民はこの幻想を抱き続けてくれるかということである。世界を知り、状況を知るほどに、いくら幼いころから教育で教え込んでも幻想は容易に剥げていく。そして抱くのは体制への疑問と不満。今その行動を起こされて困るのは都市域に住む数億の人民だが、彼らは徐々に中国から逃げるという方向を取り始めている。お金さえあれば、変えるのではなく逃げるという選択肢が取れる。
 株価対策も、都市域の住民の不満を低減するという意味も込められていると私は考えている。しかし、経済では人の心を懐柔できても支配することはできない。すなわち、従順でかつ高い能力を有する人民を育てるためには、共産党は宗教でなければならない。
 毛沢東再評価もその文脈の中にある。こちらは、農民の心をつかむためのものである可能性が高いが。

 以前より、文化こそがそれを為し得ると考えている節があり、「共産党宗教化」という言葉こそは使わないが、プロパガンダに利用する術は常に研究しているように見える。もっとも、文化について言えば10年やそこらで何とかなるものではない。
 さて、中国共産党は自らを神格化することができるのか。そういう視点で見てみるのも面白いのではないだろうか。