Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

EUコロナ瓦解

 一昨日あたりに、一旦のセリクラ(セリング・クライマックス|証券用語解説集|野村證券)が来たかと思ったが、まだそれではなかったみたいだ。さすがに、今回のコロナウイルス問題が社会に与える影響度の深刻さに対する理解が徐々に深まっている感じがしている。実際、日本以上にアメリカもただ事ではない状況に陥りつつある(米政権、450億ドルの追加予算要求 新型コロナで政府機関強化 - ロイター)。おそらくは数か月間、国際貿易や渡航がほぼ完全にストップし、既にEUでも見られるように国内(州をまたぐ)移動すらが封じられるかもしれない。それが与える経済ダメージは、リーマンショックを余裕で超えそうだ。今後(今週末か来週かそれ以降かはわからないが)、アメリカ政府とFRBや世界中の狂ったような金融・財政政策(UPDATE 1-ECBは「何でもする」、市場混乱で理事強調 伊国債買入増観測も - ロイター)により株価が一旦浮上することはあるだろう。ただ、一度壊れてしまった経済に対してはカンフル剤にしかならない。果たして壊れずに保てるであろうか。そして、日本経済がこの環境の中でどれだけ踏ん張れるかには非常に興味がある。

 ニュースで、早速東大がコロナウイルスに効果のある既存薬剤の同定に成功したと発表した(東大、新型コロナウイルス感染阻止が期待できる既存薬剤を同定 | 東大新聞オンライン)。既に中国が一定の成果を出したアビガン(中国政府 「アビガン」に治療効果 診療指針に正式採用へ | NHKニュース)も含め、今後こうした薬剤が国内で優先的に利用されていくだろう。これは日本にとって心強い情報だと思う。ただ、世界経済が壊れればその影響は間違いなく大きなものになる。

 

 さて、今回の話はEU欧州連合 - Wikipedia)の状況について。現在EUコロナウイルス禍の激震の真っただ中にある(コロナ大流行「欧州が中心地」、死者5千人超は「悲惨」=WHO - ロイター)。各国が続々と国境封鎖(EU、「共同体」揺らぐ 相次ぐ国境封鎖、協調に苦慮―感染急拡大、「震源地」に:時事ドットコム)を行い、欧州全体が感染の広がりを恐れてパニック状態になりつつある(感染拡大で欧州各国が続々対策 国境封鎖も)。感染拡大を抑止する上で都市や国家の封鎖は確かに有効ではあるが、同時に劇薬でもある。逆に言えば、それをせざるを得ないところまで追い込まれているということ。ただ、仮にいつかの時点で封鎖を解いたとしても、世界中で広がりつつある2週間程度の経過観察措置(NZ、入国者全員に14日間の自主隔離義務付け 新型コロナ対応で - ロイター)は世界各地で当分の間続くだろう(シンガポール、日本からの入国者を2週間の自宅待機に :日本経済新聞)。この措置は実質的に「来るな」と言っているに等しい。実は、現段階で韓国が打ち出そうとしている施策(韓国政府 全入国者の特別入国手続き施行を準備=コロナ対策で(聯合ニュース) - Yahoo!ニュース)の方が経済のことだけを考えれば正しい。

 経済と安心という異なるベクトルの、ウエイトをどのように考えるのかは各国次第である。ちなみに言えば、韓国は当初、新天地協会による感染爆発で医療崩壊に陥りつつあったが、その後は日本と同じように重症者のみを入院させる方向で、かなり落ち着いたように見える。その余裕もあるのかもしれないが、貿易依存国である韓国は取引をしないと経済が立ち行かないという切羽詰まった理由が裏側にある。既に、ウォンは対ドルレートを切り下げ(韓経:ウォン相場、10年ぶりの安値水準(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース)始めた。政府による買い支えも困難になってきたのかもしれない。

 いずれの国も経済面を考えれば早々に封鎖を撤回したいだろうが、現在のパニックになっている世論を考えるとなかなか難しい。ただ、この状況が長く続くほどに経済はどんどんと痛めつけられていく(ECB総裁「EU経済5%縮小も」、外出禁止継続なら=独紙 - ロイター)。中国も1月~2月の経済状況は総崩れ(中国、消費・生産に打撃 主要統計、初の前年割れ 1~2月 - 毎日新聞)であるが、この状況は最低でもあと数か月は続く。また、一度壊れてしまった生産能力や流通機構は完全には元の状態には戻らない。それがわかっていても、安全のために実施した封鎖施策は取りやめる時期が非常に難しい。それが民主主義でもある。政府としても、再感染爆発を考えると二の足を踏むのだ。極論を言えば中国のような独裁国家でも、都市封鎖は徐々に緩めれらているものの、新規感染者数がほとんどゼロに近づいた今でも、全面的に解除できない。もちろん、感染者数や死亡者数の数字自体も誰も信用していないが(新型コロナ:中国で終息の嘘と2次感染の危険性 パンデミック招いた中国共産党の情報隠蔽と独裁維持至上主義(1/9) | JBpress(Japan Business Press))。

 

 元々、EUアメリカに対抗できる連合国家を目指したものであり、その枠組みを押し進めるために通貨統合をし、さらにはEU統合政府まで作り出した。だが、ゼロから新しく作られた国家であるアメリカと異なり、各国が昔からの綿々たる歴史を持っているためそもそも完全統合というのは困難な目標であった。だからこそ、巨大な社会実験と揶揄されたりもした。私はもっと早く瓦解してもおかしくないと思っていただけに、個人的には予想以上にしぶとかったと認識している。最大のポイントは、EUの盟主の一人を自認するフランスの忍耐と調整力があっての話ではないかと思う。だが、イギリスは離脱した(イギリスの欧州連合離脱 - Wikipedia)。

  さて、新型コロナウイルスEUに致命的ともいえる損害を与えているのは間違いない(世界の国債が急落、各国の新型コロナ対策で供給急増を織り込む動き - Bloomberg)が、それのみによりEUが瓦解するかと言えばそんなことはない。私は、引き続き生じるであろう経済低迷が原因となると睨む。PIGSギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルPIIGS - Wikipedia)という呼称は、ギリシャ危機の時によく用いられたが最近はあまり耳にしなくなった。だが、これら諸国の経済事情は別に大きく改善したわけではない。過剰流動性によりリスク志向が高まったため、運よく一息ついていたものである。今回引き起こされるであろうコロナ恐慌により、間違いなく経済問題が再燃するだろう。それをEUとして救いきれるかについてはネガティブなイメージを持っている。

  フランス以上に存在感のあるドイツも、自国企業や銀行は救うだろうが他国の財政にまで手を指し延べる余裕はない。加えて、まずい時期にトルコが再度の移民問題を提起(トルコが国境開放、移民数百万人が欧州に流入も 受け入れめぐり対立 | JBpress | kinora(キノーラ))しているのが響いてくる(アングル:トルコが切った「難民カード」、憤る欧州との摩擦激化 - ロイター)。当面は目の前のコロナ対策に追われ、一旦棚上げにあるだろうが、いずれ感染が落ち着きを見せたころには経済爆弾と移民爆弾が絶望的な課題となって立ちふさがる。トルコから移民が入るのはギリシャ。だが、ギリシャにはそれを受け入れる余裕はない。経済的な余裕がないほどに、医療体制の不備も発生しやすいし、移民に対する配慮も難しい。現状はウイルスとの戦争に直面している状況である。EU各国は自国のことで精一杯で、ギリシャの面倒を見ることまで手が回らない。現状、ECB(欧州中央銀行 - Wikipedia)はイタリア市場に介入を行う(ECB、イタリア市場に介入-ラジオコル - Bloomberg)と報じられているが、状況がスペイン、ポルトガルギリシャと広がった時に、どれだけの手を打てるかは未知数である。

 

 私は、以前ドイツがEUから出ていくのではないかと考えたことがあったが、もう一つの可能性としてEUの南北分断も考えられる。南側諸国が自分たちを救ってくれないEUに愛想を尽かし出ていく形である。それはコロナウイルスと戦っている間は表面化しない。だが、戦いが厳しいほどにその可能性は高まっていくと予想している。