Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

物価上昇とスタグフレーション

 新型コロナの影響は、中国の本格的な都市封鎖開始から1か月を経て、世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼし始めた(ベトナム、新型ウィルスで供給網に打撃 サムスンの生産に影響も - ロイター)。感染の広がりが収束の気配を見せなければこうなることは予想できたが、株価は楽観論による早期の収束を見込み大きく上げていた。ここにきて軌道修正の動きが本格的に出始める(NY株終値、1031ドル安 | 共同通信)だろう。ただ、有り余った資金が行き先を探しているのは何も変わらないこともあり、当面はどこかで下げ渋る。アメリカ大統領選挙への思惑もある。本格的な下落はアジア(中国・韓国)から始まる不動産バブル崩壊を待ってからではないかと予想する。

 現在は、中国からの部品や製品が出てこないことが問題とされているが、今後の感染拡大により中国に限らず流通が停滞していくことが予想される。以前にも書いたが、船便においては一旦感染が広がると対応が非常に難しい。また、多くの船員が途上国の人たちに占められており、そこでの拡大があれば船員不足も生じ始めるだろう。既にイランでは死亡者が増加し始めた(Coronavirus Update (Live): 79,640 Cases and 2,625 Deaths from COVID-19 Wuhan China Virus Outbreak - Worldometer)。同じことはどの途上国で生じてもおかしくない。イラクや他の中東やアフリカにある国々での広がりも懸念されている(新型肺炎、原油価格暴落の兆候…無政府状態のイラクやイエメンで感染者か、最悪の事態も)。何よりも船内感染の危険性を考えた上で引き受けるとなれば、人件費が上昇することになるのは間違いない。流通量が減ることでバルチック海運指数は現在大きく下げているが、今後は輸送費の上昇ではなく製品の不足(輸送される量の減少)による物価上昇が懸念される。

 

 中国では最近工場再開を必死に準備しており、今回は武漢の一部の封鎖を解除すると報道し、その後すぐに撤回した( 武漢市が一部封鎖解除を「撤回」 指導部の同意を得ておらず(AbemaTIMES) - Yahoo!ニュース )。今回は準備が整わなかったのか撤回したが、再開したいという意思は明々白々と表れている(中国政府、工場の操業再開を推し進める-ウイルスの死者数は増加も - Bloomberg)。ただ、この動きをどんどん拡大できるかと考えると、一部の封鎖解除はできても容易に全面的な再開はできないと見ている。仮に一時的に再開しても、再度の感染広がり(例えば次の秋以降)により再封鎖ということも十分に考えられるからだ。再封鎖時のダメージは、想像以上に大きくなるだろう。治療法の広まり等を総合的に考えても、2~3年はこの問題が尾を引くのではないか。

  経済的影響はそれだけではない。感染を防ぐために、各種イベントの中止(セリエAインテル戦など3試合を延期、新型ウイルス流行を懸念(AFP=時事) - Yahoo!ニュース)や多くの人が集まる場所に出入りしないことが自主的かつ徐々に広がっていく。これは内需に対する大きなボディーブローとなるだろう。観光地は、中国人がいなくなったからチャンスとの声もあるが、やはり感染を恐れて自粛が当面続く。実際札幌雪まつりでは感染が拡大した(感染の30代男性はさっぽろ雪まつり訪問 | 共同通信)。喫緊では、大学入試がどのようになるかは大きな注目点である。マスコミもセンシティブすぎる内容なので、現時点で話題にするのが躊躇われるかもしれないが、そこに感染者がいれば感染が広がっていく可能性は低くない。

 もちろん、それ以上に満員電車の方が伝染効果は高いだろうが、それを止めることは日本政府にできるはずもない。また、幼稚園などでも感染者が一人出れば一時休園の措置が取られている。大学のみならず小中高校でもインフルエンザよりも過剰気味な対策が当面は打たれるだろう。これ以上人が集まる場所での感染拡大が見られれば、全ての人が集まる場所で、自主的な出社・登校停止が連鎖していくなんて話が出てもおかしくはない。

 

 この状態が解消されるためには二つの解決策がある。一つは根治する方法が見つかること(流行がなくなること)。もう一つはインフルエンザのように生活の一部となってしまうこと(一定の死者が出ることを受け入れること)である。後者の方が可能性が高いと思うが、感染率と致死率が一定以上に下がらなければ自粛ムードは容易には消えないのではないか。私のイメージとしては、致死率が0.5%以下程度にまで低下することが考えられる(現在のインフルエンザよりやや高い程度が狙いどころだろうか)。現状の致死率はそれより高そう(約1~2%でインフルエンザの10倍から20倍)であって、このままでは社会不安が解消しきれない。

 結局のところ、社会がこのウイルスとの共存を受け入れるまで、様々な形で自粛ムードは続くと思う。仮に、政府が主導して安全宣言を出したとしてもである。もちろん、一定の経済活動をしないわけにはいかないので、リスクを負いながらも海外の渡航や会議・その他のイベントは開催されていく。さが、収縮した心理を無理やり動かすことは容易ではない。

 

 モノが減少すれば発生するのはインフレだが、一方で観光やサービス業を中心に需要も同時に減少するため、そこで発生するのは不況時のインフレであるスタグフレーションになる。この状態がどの程度で終了するかはわからないが、ひょっとすると社会構造そのものを変えていくかもしれない。取引さえできれば、テレワークでも十分可能なだけのインフラ基盤は揃っている企業も多い。実際には意思疎通が直接でないと難しいという問題もあるが、今回の件がそれを一気に後押しするかもしれない。