Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

検査精度問題とスペイン風邪との比較

 新型コロナウイルスの検査数が少ないとの話が日本ではある。一方で、症状があるのに一度の検査では陽性反応が出ない人がいるという話も出ている(新型ウイルス検査には欠陥があるのか? 7回目で初めて陽性の例も - BBCニュース)。実際、クルーズ船内では陰性の結果が出ていたのに、下船後に陽性になった人が問題となっている(陰性から陽性、2つの可能性 厚労省を揺るがす事態にも(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース)。当初の検査で陰性時はまだ感染しておらずに、その後新たに感染した可能性もあるが、検査制度が十分ではない可能性も否定できない。中国では検査による検出率が50%以下であるという情報もあり、一時期CDCの検査キットも不具合があるとの情報が出ていた(CNN.co.jp : 新型肺炎の検査キットに不具合、作り直しへ 米CDC)。未知のウイルスだけに、当初から完璧なものができているとは考えない方が良いのではないか。

 ここで言われている検査にはいくつかの種類がある。今話題になっているのはPCR検査(【JML】微生物検査のPCR法とは - 遺伝子検査・PCR法・微生物検査 -)と呼ばれるもので、ウイルスの中で変異しないと思われる部分に遺伝子レベルで取り付くことのできるプライマーを用意して、目的の遺伝子を持つウイルス(別のものでも可能)を増殖(染める)させることで感染を確認するものである。ウイルスがいれば増殖するし、いなければ現れない。ということで、比較的精度の高い検査法とされる。そのため、一定以上の時間が必要でもある(一般的に6時間程度がかかると言われるのは、増殖や確認のために必要な時間である:その短期化に向けて動き出している:新型肺炎 ロシュや栄研化学、迅速検査体制確立へ | 化学工業日報)。だが、この検査法も万能ではない(新型コロナウイルス感染をPCRで判定しても、様々な問題が発生する可能性があります。 | 五本木クリニック)。一定数は偽陰性として見逃されることは事実として知っておく必要がある。また、感染早期で症状が明確に出ていないような体内のウイルス数が少ない場合には、増殖できずに見逃される可能性も高まる。

 次に、数多くの患者の状態を簡易に検査するためには、そのためのキットが必要となる。現在世界中でその作成が急がれている(新型コロナウイルス、迅速診断キット開発までの流れや要する期間は?:日経バイオテクONLINE)が、こちらの精度は当然精密診断と比べて落ちることになる。開発期間を考えれば、こちらはウイルスが世界中に定着してからの適用となるだろう。

 

 それ以上に無症状感染者(あるいは極軽度の感染者)の存在が最も問題であろう。今回の症例報告でも、概ね80%以上の人たちは軽度の症状で収まっているとされる。こういう人たちが広げる感染については正直現在のところ手の打ちようがない。

 ネット上では、もっと検査数を増やせという声が少なくない(:医療機関たらい回しも 疑い受診、断られ―「検査基準あいまい」・新型肺炎:時事ドットコム)が、検査数を増やすことで何が変わるのかは感染を疑う本人(あるいは周囲)の満足感が最も大きい。韓国との比較も行われるが、日本のカウントには都道府県の検査数がどの程度含まれているか不明なこと、単純に数を増やしても受け入れ態勢が構築できずに却って混乱を招くことがあることについては知っておくべきだろう。また、PCR法には相当に時間がかかり韓国が言うほどの量をこなせない(【読者投稿】PCRは本当に大変!地方衛生研に感謝を | 新宿会計士の政治経済評論)し、検査者への罹患に注意が必要であり、実際韓国がどうやっているのかは不思議なくらいである。どちらにしても重要なのは、重篤な状況に至る人や死亡してしまう人を減らすことが最大の目的である。韓国の措置は下手すれば医療崩壊を招きかねない( 病床・人手不足の大邱・慶尚北道「今週までが限界」(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース韓国政府、深刻段階に合わせ大邱市民に「2週間移動制限」勧告-Chosun online 朝鮮日報)。

 政府の国民とのコミュニケーション能力が低い点については既に何度も書いてきた。特に、厚生労働大臣の発言や行動は壊滅的なレベルだと思う。ただ現在は、重症であれば検査は間違いなく行われるように指導されているはず(一部、従わないところや混乱はあるかもしれない)で、それ以前の段階では一般の肺炎であるかどうかを通常の診断で判断していると思う(また、病院の都合で新型コロナに対応できない病院はある)。体制が整わないうちに、大量の検査希望者が殺到して医療機関が崩壊することが何より恐ろしい。簡易検査キットができれば多くの診断も可能だが、現在厚生労働省が各地の拠点病院に対応法の周知を行っている段階である。多少の混乱はあるだろうが、徐々にきちんとした体制が整っていくと考えてよい。その前にパニックによる医療崩壊を発生させないのが最も重要である(新型コロナウイルス感染症との闘い ー 知っておくべき検査の能力と限界 | キヤノングローバル戦略研究所(CIGS))。

 

 それよりも、今回の新型コロナウイルススペイン風邪スペインかぜ - Wikipedia)相当の影響があること(「新型コロナウイルス」関連コメント〜【識者の眼】より〜|電子コンテンツ|日本医事新報社)を周知する声が出始めた。軽症率が80%以上としてもおおよそ5~6人に1人が入院等の重い症状になることを意味しており、30人に1人が重篤ICUに入るなど)となる病気は簡単に考えてはいけない。一方で、感染率の高さよりこれを防ぐことが現状容易ではないのも何度も書いてきたことである。

 スペイン風邪の流行源はアメリカとされるが、感染者は5億人以上で死者も5000万人以上ではないかと推測されている。日本でも40万人近くが亡くなったとされる。数年にわたり繰り返し流行したこと、医療崩壊が進行して死者が増えたことが教訓として残っている。ただ、現在の公衆衛生・医療技術があれば医療崩壊さえしなければ致死率は抑えられると考えてよい。それでも未知のウイルスの蔓延なのだから、行動に注意が必要なのは間違いない。ここで最も重要なポイントは、社会としての公衆衛生状況(体制、認識、行動)の高さである。

 これは根拠のない最悪を想定した計算だが、仮に世界中の20億人に感染し致死率が1%であったとして2000万人が亡くなることになる。医療崩壊により致死率が上がれば、その分死者の数は多くなる。特に、途上国や貧困層の死者数が多くなるだろう。日本ではパニックが起こらない限り、世界平均と比べてかなり低い値(1/10~1/3)程度に収まると見込んでいる。

 

 一方で、現在富士フィルムの子会社である富山化学工業富山大学が共同で開発したアビガン(ファビピラビル - Wikipedia)が効果を発揮するという情報(中国政府 新型コロナ対策 既存薬の成分で製薬 - FNN.jpプライムオンライン)も中国から出ている。日本でも治験が始まったとされる(新型コロナ 政府がアビガン投与の方針 - FNN.jpプライムオンライン新型インフル薬「アビガン」活用も、新型肺炎の治療薬に-加藤厚労相 - Bloomberg)が、この薬にはウイルスの増殖そのものを抑える効果があり、インフルエンザからエボラまですべてのウイルスに効果があるとされる。根治を図るのではなく、重症化を防ぐものでだが、効果があれば志望者を大きく減らせるだろう。ただ、妊娠時に使用すると奇形の子供が生まれる可能性が高く、これは男性の精子にも影響を与えるため男性女性ともに注意が必要とされる。その他、ウイルスが既に増殖した後では効果が低く、また一定の副作用(アビガン錠200mg)があるため注意は必要である。

 効果が明確になれば、感染が確認された段階での早期投与により症状の悪化する人が激減し、致死率の低下に寄与できる。期待していきたい。