Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

新型コロナウイルス狂騒曲

 連日、新型コロナウイルスの話題で持ちきりで、アメリカの株式市場も敏感に乱高下している(米株、新型肺炎巡る下げから反発 アップルが高い - ロイター)。日本でも人から人の感染が見つかり(日本人で初感染 国内で人から人へ感染か バス運転手 東京 - 大阪往復)、更に感染時期が半月以上前であろうと想像されていることから感染拡大が懸念される。中国の発表する罹患数と死者数も安定的に伸びており、習近平主席が「新型コロナウイルスは悪魔だ」と述べるまでに至ったことが報じられている(China's Xi says coronavirus is a 'devil' - Reuters)。

 ここまでの言及は、少なくとも現時点でコントロールできていないこと図らずも示している。エピデミックからパンデミックに広がった(パンデミック - Wikipedia)と考えてもよいだろう。ただ、海外での死者がまだ出ていないことは、致死率がそれほど高くない(3%程度と言われている)と考えるに値する可能性はある。ただ、患者を再生産する数(何人に移すか)はこれまでの想定より高い可能性が濃厚である(<新型肺炎>米専門家「熱核反応のようなパンデミック」 2月に感染者25万人と推定)。

 

 この前にも書いたが、今回の新型コロナウイルスの最大の特徴は、長い潜伏期間と発症前や無自覚発症者からの感染であろう。気づかないうちに他人に移すとすれば、正直なところ隔離対策がほとんどとれない。人口1100万人とされる武漢から、既に500万人以上が脱出したとの噂もある(衝撃!武漢から出た人は500万人以上―中国|レコードチャイナ)。ここまで広がってしまえば、少なくとも空港ではすべての中国人の詳細な保菌状況調査をしなければ収まらないだろう。経済的な理由で二の足を踏んでいた日本政府ではあるが、そのことを全く検討をしていなかったわけではあるまい。中国国内で収まってくれればという淡い望みが消えたとすれば、他国の状況を見ながら実質的な行動に移らざるを得ない。主体性がないと言えばそれまでだが、地震予知と同じように確度をもって予測を実行に移すことは難しい。徐々にそれらは動き出す。

 

 前回のエントリでも書いたが、今回のパンデミックの最大の脅威は、感染の世界的広がりからくる死者数の増加だけではなく、それによる移動の制限である。一時的な移動制限であれば対処できようが、継続的かつ大規模なそれは世界経済に大きなストレスを与える。スプレッダーが見た目(や体温調査)のみで分からないからこそ、全てを検査しなければならない状況が発生する。これは、自由な渡航が常識となった現代社会においては大いなる脅威と言えよう。

 一般的な話として、有効なワクチンが作り出される(新型ウイルスワクチン、実用化まで時間かかる公算-開発に期待感でも - Bloomberg)には数年が必要と言われる。既存ワクチンに効果があれば問題ないが、それまでのあいだ人やモノの移動に大きな制限が出れば、いったいどれだけの経済的損失が生じるであろうか。2003年のSARSでの経済損失が約4兆円と言われている。ただ、今回の新型コロナウイルスが世界的に蔓延した場合にはそれではとてもではないが収まらない(アングル:新型ウイルスが経済・市場に与える影響 - ロイター)。試算の前提がわからないので、それよりも大きくなるかどうかを容易に言及できないが、上記記事では600兆円程度の損失(年間60兆円程度)が挙げられている。

 だが、SARSの時には中国経済は今ほど大きくなく、また完全に崩れたわけではなかった。リーマンショックにおける経済損失を明確に計算するのは難しいが、ある想定によると500~600兆円ではないかとされる。中国経済が混乱に巻き込まれた場合、個人的にはその程度で収まると考えるのは甘いようにも感じる。ただ、一個人とすれば100兆円の損失も1000兆円の損失も差異はないが。

 

 また、中国では武漢出身者へのいじめが問題(新型肺炎で中国全土がパニックに「武漢人狩り」も広がる - ライブドアニュース)となっており、イタリアでは中国人少年がいじめにあったとされる(中国のサッカー少年、イタリアで「新型肺炎いじめ」に遭う - ライブドアニュース)。日本でも政府が進めている武漢からの帰国者に対するバッシングに懸念の声がある。法的な根拠がないため、隔離が難しい(新型肺炎、政府チャーター機で武漢からの帰国者「隔離せず」:日経ビジネス電子版)ことが背景にある。要するに疑心暗鬼であるが、この問題もなかなかに侮れない。先ほどの経済的問題の多くは、こうした感情が起因となって広がっていく。経済問題以上に気になるのが、国家間の紛争のタネにならないかという懸念である。世界中が中国を拒絶し始めた時、それがどのような方向で働くであろうか。

 今回の発生原因にも様々なデマが飛び交っている。ただ、自然発生的な災害に対して日本では慣れから諦め的な境地に容易に至れるが、世界では悪者を探すことが行われやすい。パニック時はそこまででなくとも、ある程度落ち着いたときに世界は中国を非難するだろう。特に世界中で死者が増え始めると、その流れに拍車がかかる。こうした状況に対し中国がどのように反応するか。

 また今回は、現状を見る限りSARSの時ほど封じ込めが容易ではない。そして中国国内での短期収束はほぼ難しくなったとみる。だが長引くほどに中国経済への波及は大きくなる。特に中国政府は、通常の手のみで放置できなくなっていく。となると、世界と中国という構図よりも中国国内における問題の方が大きくなるだろう。どちらが先になるかはわからないが、共産党政府による人権を無視した政策の執行と、それに反発する暴動の可能性は低くない。既に死者数は100名を超えた。患者数の広がりから考えると、SARSの死者数を超えるのは必然だと考える。日本としても、あまり甘く考えない方がよさそうだ。