Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

イラン問題

 年始早々、アメリカとイランの間で緊張が高まっている。一部では、第三次世界大戦が始まる(「第三次世界大戦」各国で相次ぎトレンド入り でも日本1位は「ムック」だった : J-CASTニュース)なんて声も聞こえるが、アメリカとイランの間での紛争がそこまでの広がりを見せることはない。イランの戦力はアメリカと比べると非常に小さなもので、行える有効な攻撃はテロ的なものに限られる。イランは、核開発のペナルティで国際的な貿易制限を受けており、経済的に厳しい状況にある。軍事整備を図れるほどの余裕はない。また、イラン国内でもアメリカとの協調を図るグループと、徹底抗戦を叫ぶグループが存在し、双方が自由に別の行動をとってきた。

 ただ、今回のことで反米方向での意識は統一されるだろう。また、このような状況になったのはアメリカ(トランプ大統領)は口では強いことを言っても決して実際の攻撃をしないという見込みが外れたことを示唆する。原油価格は昨年後半より徐々に上昇していたが、ニュースを受けてさらに上昇した。アメリカの株式は、これまでの上昇分からすれば微々たるものではあるが下落した。

 

 さて、ではこのアメリアの行動を世界が非難しているかと言えば、必ずしもそうではない。今回殺害されたとするソレイマニ司令官はアメリカへの対立姿勢を見せてきたイラン革命防衛隊の中心的な人物である(イラン革命防衛隊の司令官、米軍の空爆で死亡 バグダッド到着後 - BBCニュース【解説】 イランのソレイマニ司令官殺害 なぜ今でこれからどうなるのか - BBCニュース)。だが、イランの意見が二分されてきたことからもわかるように、全てのイラン国民が彼を支持してきたわけではない(イラン各地のデモ、流血の鎮圧 映像流出でネット遮断 - BBCニュース)。彼が指導するような闘争を肯定する人たちは、声こそを大きくてもそれほど多くはないとみている。シリアにおけるアサド大統領のブレーンでもあったみられ、ある意味ではシリアでの虐殺の立役者でもあるとされる。

 すなわち、国外でも彼のことを好ましく思わない人は決して少なくない。その上で、彼はイラクで殺害されたが、そもそもイラン制裁により彼は国外への渡航は認められていなかった。だからと言って、殺人が許容されてよいかどうかの議論はここでは行わない。ただ、超法規的な戦争に至る最初のステップが踏み出されたのは、今回のことから見て間違いないだろう。

 

 では、日本はこの問題に対しどのように関与すべきか。イランとは歴史的な友好関係があり、同時に西側諸国としての役割を担う。それ以上に、中東に石油を依存している以上、エネルギー防衛の側面から航路の安全を確保することは必須である。ただ、直接的な戦闘には参加できないので、結果として航路安全確保の船舶を派遣することで落ち着くだろう(もちろん、マスコミや野党の反対はあるだろうが)。危険性がゼロと言うことはあり得ない。しかし、原子力を自粛している以上、それ以外の石油石炭系のエネルギーは日本の根幹である。

 

 さて、今後のアメリカとイランの関係は準戦争状態へ移行する。イランの穏健派の人たちも反米方向にかじを切るだろう。中東の緊張状態は間違いなく高まる。ただ全面的な戦争に移行することは、イラン・アメリカ共に想定していない(ナンバー2暗殺されたイランの「報復」とは何か | アジア諸国 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)。アメリカにとっては以前にも触れたが大統領選挙への期待が垣間見える(アメリカとイラン - Alternative Issue)。全面的な戦闘状態は望まないものの、アメリカの敵を作ることは排除していないとみる。その上で、イスラエルの敵であるイランを抑え込むことは、ユダヤ人の支持を取り付ける意味でもマイナスにはならない。加えて、北朝鮮への警告も含まれる。いざとなれば、アメリカは躊躇しないという内容である。

 一方でイランが行うのは、誰が行ったのかがわからないような形でのアメリカに対するサイバー攻撃も含めたテロであろう(イランの対米報復、中東各地に広がるおそれ :日本経済新聞)。だが、イランとて全面戦争には入りたくはない。今最も重要なのは、メンツの問題(イラクの米大使館付近などにロケット弾 親イラン組織が警告:時事ドットコム)なのだ。アメリカにやられた状態では国内の強硬派を抑えられない。

 

 今、世界は分断が進行している。その最大の原因は、世界がお互いに関わり合いを深め、相手のことを知り関心を持つようになったことがある。富を求め、平和を求め、平等を求める。それは理想であるが、そこに対立の火種が存在する。ただ、同様の諍いはこれまでもあらゆる場所で起きている。シリアでのことやIS問題など、世界には暴力が支配する醜い構造がいくらでも存在する。今回は、その当事者の一方がアメリカになったため報道がなされているに過ぎない。

 私は今回の問題が世界的な広がりに発展するとは思わないが、関連しないが同様の問題が連鎖的に世界で広がる可能性はあるのではないかと見る。北朝鮮しかり、中国しかり。遠因ではあるが、現在の資本主義経済の行き詰まりが端を発しているとみるのは、間違いであろうか。