Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

FRBの利下げは万能薬か?

 アメリカの追加関税10%(トランプ氏、9月からまた中国に追加関税とツイッターで発表 貿易戦争悪化へ - BBCニュース)に対抗して中国は元安誘導(中国人民銀、人民元の大幅な下落続かない-外国企業の不安払拭 - Bloomberg)と農作物輸入停止(中国企業が米農産物の輸入停止 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News)の対抗策を打ち出した。中国の強気な行動に対し、アメリカは早速為替操作国に認定(米財務省、中国を為替操作国に認定-人民銀は声明で反論 - Bloomberg)し、両者の対立は激しさを増している。一方、ピーターナバロ補佐官は、FRBに75-100BPの利下げを要求(ナバロ米大統領補佐官、FRBに年内75─100bpの利下げ要求 - ロイター)し、米中貿易戦争の激化を懸念して大きく下げた株価がいくらか戻したりもした。

 

 米中の貿易戦争は実質的に両国による覇権をかけた争いであり、お互いに小さな妥協はあっても根本的な解決の余地はない。特に、押されている側の中国としては不利な状況ではあるが、アメリカの狙いが中国共産党支配体制の打倒である以上、最終的な受け入れは困難となる。だからこそ、共産党支配体制を守ろうとすれば中国は最終的にはアメリカと対立得ざるを得ない。決定的な対立に通るルートや経過時間にはいろいろとあるだろうが、行きつく先は変わらない。

 また、最終的な結論を出さずに先送りを続けるという方法もある。対立構造は明らかだが、それを見ないふりをしながら致命的なところに至らない範囲でさや当てをする。実際、総合的にはアメリカ有利とは言え、中国と異なり弱点も数多く存在する。大統領選挙があること、株価や失業率などに世論の支持が左右されること。中国は強権(武力)でそれを抑え込むことが出来るが、アメリカでは反論も許されること。

 あるいは、アメリカは自分たちの作ったルール(例えば人権や貿易制度等)を守ろうとする傾向が高い。だが、中国にとってはルールは利用するものであり守るものではない。要するに中国の方が耐えようと思えば粘れるのだ。アメリカの方が国家としては痛みに弱い。

 

 リーマンショック後の金融政策について、アメリカは日本と異なり幾度かの利上げを行うことができた。それ故に、再度の利下げ余地を残している。政府とFRBの睨み合いはそこにおいて起きている。実際、失業率は過去最低レベルであり、各種の経済指標も悪くない。本来、利上げ局面であってもおかしくないが、政府からのプレッシャーにより予防的利下げという新たな方策を取った。だからこそ、今後中国との貿易戦争が経済的に負の側面を与えても、こうした利下げ効果による景気維持が可能だと市場が判断している。そのため、世界中の株価の内でアメリカが最も下落が小さくなっている。

 だが、本当にそうなのだろうか。本当に大丈夫なのだろうか。

 

  私は、この貿易戦争の結果は世界経済の優等生であるアメリカですらも、景気後退に引きずり込むものであると考えている。もちろん、そうならないようにアメリカ政府は打てる手をすべて打ってくるだろうが、それでも止めきれない。FRBの利下げがあってもである。

 アメリカの戦略は、中国がどこで折れてくるかを見定めながら、最大限の圧力をかけている方法である。もちろんそれが急激すぎるとアメリカ企業も大きな痛手を受けるため、少しずつ少しずつ歩みを進めている。問題は、中国の妥協レベルがどこにあるかを見定めること。少しずつ締めていくことで際限なき圧力の継続を目指す。

 だが、中国は焦土戦略にも近い国内締め付けによる長期戦に向かうことを決意したようだ。それが、元安誘導などの対応に見て取れる。アメリカの様子をうかがうことを、徐々にやめ始めた。それこそが、米中の全面戦争(とはいえ、武器を使わない)に踏み出すためのアクセルとなる。

 

 お互いに、もう後ろには引けない。こうした場面では、現在FRB保有する利下げ余地は特効薬にはなりえない。そのためには、中国以外にもアメリカ国民の目を向ける場所が必要になる。中国はじっくりと真綿で首を絞める様に。そして、別のトラブル対処を短期的な発火材として。

 場合によっては日本もその圧力対象にはなろうが、個人的にはアメリカは日本をそこまで追い込まないと考える。露骨な優遇はしないだろうが、アメリカもすべてを敵に回してはやっていけないのだから。