Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

思想戦争

 米中がグレイウォー(灰色戦争:「Gray War(灰色戦争)」に入った米国と中国 米日豪印の4本柱に英仏を加えた4+2体制の構築が不可欠に(1/5) | JBpress(日本ビジネスプレス))と呼ばれる新たな冷戦(経済・情報戦争)に突入したとする認識が広がりつつある。現状、武力こそ用いないがそれ以外の全てを用いて行われている覇権闘争であるが、メディアでも紹介される経済戦争、情報戦争、プロパガンダ、などの他に、これは一種の宗教戦争でありそして価値観・思想闘争であるとも見ている。

 日本人はアメリカ中心の現在の世界システムに適合して現在の地位を築いた。それ故に、中国を異端(あるいは現状体制改変勢力)と考えるのが主流ではあるが、日本国内でルサンチマンを抱えている人たちは、高い所得の人たちであっても自分たちの(言論的な)地位を引き上げてくれる神風と期待する向きもあるだろう。こうした様々な価値観を有する人たちの存在が許されることこそが、日本が世界中でも有数のハイレベルで自由かつ住みやすい場所であることの証拠である。以前より情報は出ていたが、アメリカ政府が本格的に問題とし始めたために中国政府のチベットチベット問題 - Wikipedia)やウイグルウイグル問題とは - コトバンク)あるいは内モンゴル内モンゴル独立運動 - Wikipedia)における暴政を知る人も増えたのではないだろうか。結局、共産党指導体制を維持するためには不満分子を強制的に排除・屈服させなければならないことが最大の理由であるが、大きすぎ多様すぎる国だからこそまとめるのに暴力が必要であるのも冷徹な現実である。本来ならば、中国は適度なサイズの複数の国家に分離した方が、国際的には安全でかつ健全だと思う。ただ、漢民族の夢ということで大きな領土を望む気持ち(一種の思想)が、現状の共産党独裁体制存続と各種民族弾圧という歪さを引き起こしている。これは、中国の夢(中国の夢 - Wikipedia)という一つの宗教的な思想であると私は考えている。宗教の定義をどうとらえるかは様々な考え方もあろうが、往々にして原理主義と呼ばれる排他的な宗教活動は、排他的な国としての思想に近しいものがある。

 現在チベットウイグルで行われているのは占領地における人権蹂躙政策であるが、これは仮に共産党政権が消え去った時にはアウシュビッツアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所 - Wikipedia)以上の圧政(場合によればジェノサイド)として歴史に残る様な暴挙と認定されるであろう。これまでも含めてそれを止められない国際社会は問題だと思うが、全く取り上げないマスコミやリベラル勢力の欺瞞も極まってる。人権派やリベラルを自認する人たちの行動を見ていると、人権や自由は方便に過ぎないとつくづく感じさせられる。だが、そんな状況こそが残念ながら国際政治の真実である。経済的にメリットがあれば他国内の人権は無視できるし、メディアは商売のためなら正義を売り払うのもためらわない。GoogleFacebookが情報提供をしても中国共産党にすり寄ろうとしているのは、まさにより大きな利益を得るためであるのだから。

 しかし、Huawei(華為:ファーウェイ - Wikipedia)に関する報道では怪しいハードウエアが取り上げられているが、それはプロパガンダに過ぎず実際にはハード的盗聴機構が組み込まれている可能性は低い(一部特別なものはあるかもしれないが)。他方、AppleGoogleの機種であってもファームウエアを変更すれば、現在問題とされている情報漏えいを発生させることは可能である。要するに、情報を流出・入手するためのシステムは、どこの製品でもプラットフォーム提供者はできるということ。こうした問題は「Huaweiのみが盗聴するから悪い」という一企業のセキュリティ上の問題ではなく、欧米を中心とした民主主義の考え方と中国がこれから組み上げようとしている中国式の世界標準思想が相容れない点にある。さらに、最も問題なのは5Gにおける基地局こそが情報入手のために重要であり、個別の機器の問題は中心ではない。さて、中国の体制に対する考え方は中国共産党中国共産党 - Wikipedia)が全ての上に立って平等になるよう差配する、すなわち中国共産党を神のポジションに置くという体系で構築されている。これは明確な国家としての思想である。それを例えば私たち日本人は受け入れられるであろうか。

 日本の様々な情報がアメリカに吸い上げられている(エシュロン - Wikipedia)というのも一面の真実である。属国という表現も、あたかもそう言える側面もあるかもしれない。だから、それが中国に変わるだけではないかと考える人もいる。だが、現状でも完全な属国だと認める人はいないであろう。属国という表現はあくまで比喩的なもので、その国の影響に左右される程度を示す言葉と考えられる。防衛面では、日本は自衛隊以外を保持していないのでアメリカに依存しているが、これは第二次世界大戦後の歪んだ名残である。一方で、日本が両者に組み込まれずに独立した存在でありたいという気持ちもわからなくはないが、現在世界はかなり融合しており独立というのもあくまで程度問題である。極論を言えば、全くの独立した国家とは北朝鮮とすら言える(それでも中国と結びついている)。むしろ、如何に多くの協調国を作り多数派を形成する(さらにそのリーダーの一つとなる)ことが重要である。

 一方で、現在の国連を中心とする国際機関のように参加国数が多すぎると、無関係な国家を巻き込んだ数の論理手法によるプロパガンダがまかり通りはじめた。IWC問題もそれにあたるが、こうした多国間の体制をお金等による支配により利用してきたのが中国である。NAFTA北米自由貿易協定 - Wikipedia)の見直しもそうだが、国連でも生じている状況に対しトランプ政権はルールの抜け道を利用されている状況に反旗を翻した(国連軽視はトランプ以前から始まっているが)。多数国家での調整について、ルールを守るべく調整を図ってきたが、それが困難になったと認識したからである。世界戦争を経て国際協調が重要であるという認識が広がったのは事実だが、その根本精神を理解せずにルールの悪用が行われている現状を看過できないような状況が問題視されている。本来、思想や価値観は国や民族、地域により異なっている。かつて相手の考え方を全く認めないことも含め、多くの場合には戦争等の荒っぽい解決手法により強引に抑え込んできた。

 ルールには、その具体内容を記した規則(文書)とルールを定めるに至った背景が存在する。一般的に、法律は文面で解釈するものの、それでは不十分な場合は背景に遡り判断を行う。ところが、法律を悪用したければ法文にない抜け道を探したり、あるいは罰則の低さを利用したりと様々な手が打てる。日本でもそのようにアウトロー的な活動をする人たちは存在している。もちろん、ルールはルールを決める者たちが最大の利益を受ける訳で、その立場になるために各国が様々な思惑を巡らせ行動している。日本はルールを作る側に行かに回るかを努力し、中国はルールを如何に上手く掻い潜るかに知恵を絞ってきた。これも、物事に対する考え方そのものの違いであり、歴史や文化を背景にした思想の違いであると言える。そして、日本の受け入れやすい思想体系は、中国や韓国のそれとは異なり欧米に近い。地理的条件とは別に、日本がアメリカと共同行動を取る最も重要なポイントがそこにあると私は思う。

 中国の現在の目的は共産党指導体制の維持であり、そのために拡大政策をやめることができない。それを達成するためには、日本などが認められないありとあらゆる方法を用いても突き進む。現在のアメリカが、中国共産党政権をどこまで弱体化することを想定しているかは読み切れないが、おそらく中途半端に終われば同じような対立構造が繰り返されるであろう。そして、その時アメリカに中国を抑え込めるだけの力があるかどうかはわからない。今回の争いは覇権闘争のように見えるが、世界を貫く思想の問題のような気がしてならない。