Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

山本太郎

 れいわ新選組に、朝日新聞などのリベラル系メディアが熱視線を送っている(大躍進し損ねた山本太郎・れいわ新選組に必要な事 - 米山隆一|論座 - 朝日新聞社の言論サイト悩みかかえ…れいわ支持 「彼だけ、勇気づけてくれた」 生活苦、貯金5万円から1万円寄付:朝日新聞デジタル)。これは無理もないことで、これまで実質的に自民党政権を引きずり降ろすために応援してきた「民主党民進党立憲民主党」が、不甲斐ないことが最大の理由である。一向に安倍一強を崩すことができず、むしろ野党第一党に安住するがごとき行動を取っているのだから、一時的な現象とはいえ大きな得票を得て時の人になった山本太郎氏に期待するのはやむを得ないことだろう。

 だが、私は正直なところ山本太郎氏は政治家としてはさして注目に値しないと考えている。れいわ新選組は左派ポピュリズム政党と呼称した方が良いだろうが、分かりやすいテーマを掲げて役者仕込みの真剣なパフォーマンスを見せつけるという点で独特である。それはほぼすべて山本太郎氏の能力に依存している。しかし、そのパフォーマンスは確かにイメージとしてわかったような気になるが、よく考えると彼の政策テーマは何を目指しているのかが理解しづらい。つまみ食い的に耳触りの良い言葉を発し、あるいは弱者保護を前面に押し出している(候補者選定が典型)が、それのみでは政権に届くとは思えないのである。というのも、インターネットの発達により政治に興味がある有権者たちは、政治家の資質や中身を良く見るようになっている。一時的には興味本位でもてはやされることがあっても、時間が経過するほどに中身のない候補者は見透かされてしまう。雰囲気で多くの人を誤魔化せるのは最初の一回であり、その特典を参議院選挙で彼は既に使ってしまった。

 

 次の衆議院選挙では、れいわ新選組で大量に候補擁立をした上で、大量当選を目指している(れいわ・山本代表「次期衆院選では100人規模で擁立」 - 毎日新聞)ようではあるが、おそらくそれほど目覚ましい躍進はないだろう(多少の票は集まり数名の当選者は出すし、彼自身も当選するだろうが)。実際、今回の選挙で彼の政党が切り崩したのは、保守系の票でもなく、あるいは浮動票でもなく、大部分が既存左派野党に期待しながらも不満を持っている票だと見られるからである。そういう意味で、左派におけるライジングスターではあっても、政治の舞台全体を見た時には特筆するような存在ではないのである。

 逆に、左派(自称リベラル系)メディアが山本太郎氏に深く入れ込まなければならないのは、論理的な政策ではなく感情的な扇動を推すという意味で、メディアの自殺行為ではないかと思う。今、なんとなく人気があるからそれを応援するというのでは、かつて何度も現れては消えていった芸能人候補と何も変わらない。それに期待せざるを得ないとは末期的症状ではないか。

 

 現在、左派(自称リベラル)系メディアにとどまらず関連する識者たちは、多くの国民の心を揺さぶれるような言葉を発せなくなっている。同じ政治思考(指向)の持ち主である内輪に向かってしか自分たちの正当性を主張できていない。彼らは言葉を駆使するものでありながら、説得力ある言葉を失っている。

 山本太郎氏は、その言葉では不足する分を持ち前の野性的な勘により理解し、彼独特のパフォーマンス力で補った。そして、国会に確固たる一歩を築き上げた。それは確かに彼の能力である。既存左派(自称リベラル)政党にはできなかったこと。だが、その多くは縮小しつつある左派マインドを持つ人たちから流れてきた票であり、新しい異なる考え方を持つ層にはあまり影響を与えていない。だから、私は彼の主張の広がりやその政党の躍進はないと踏んでいる。

 

 現代は無党派層が政治的な勢力図を決定づける。そして民主党の失敗に懲りた無党派層は、その経験により知恵をつけて容易に心地よい言葉にはなびかなくなった。もちろん、あと20年もすればその経験は薄まっていくだろう。しかし、少なくともこの数年の選挙においては無党派層の大部分は山本太郎氏のパフォーマンスには動かされない。今回の参議院選挙において動かされた人たちも、次には考えを改めていくと思う。面白さのみで選ぶことの無意味さを理解しているのだから(そういう意味では「NHKから国民を守る党」も同様ではある)。

 朝日新聞などは、それでも山本太郎氏に期待せざるを得ない。そういう道に追い込まれてしまったということは、日本が大きく変わったということでもあろう。それに気づいていない(あるいは事実から目をそらす)うちには、彼らの望みがかなうことは決してないだろう。