Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ECBの国債無制限買い入れ

マリオドラギ総裁はECBによる実質的な国債無制限買い入れを宣言した(http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0606H_W2A900C1MM8000/)。一時期、ギリシャやスペインの国債を買い入れ続けていたが、ドイツなどの反発を受けて停止していたものを再びかつ今度は大胆に復活させるものである。もちろんドイツは猛反発している(http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M9XPHO6TTDTL01.html)。
これまでは、実質的な金主であるドイツや北欧諸国に配慮して、一部の国家に肩入れすることをあまり露骨に推し進められなかったのだが、ここにきてスペインの地方政府(イタリアも増加している)が次々と破綻に瀕する現状から思い切ったものだと考えられる。ユーロはギリシャポルトガルの破綻で大きく傷つくことはないが、スペインやイタリアの破綻はユーロ全体の瓦解に結びつきかねないからである。
ある意味、欧州安定メカニズム(ESM)がなかなか実施に移すことができずスペインの10年債が7%を超えるような現状の膠着状態を打破するには、これしか有効な手が取り得無かったという面があるだろう。これにより一時的にスペインなど南欧諸国の国債金利は大きく下がり、南欧諸国が現在できなくなっている市場からの調達が再び可能になることは予想できるが、もちろんあくまで時間稼ぎに過ぎない。これにより時間を稼いでいる間に南欧の経済危機を立て直して景気回復が成し遂げられなければ、ECBが大きな負債を抱えることになってしまう。それは中央銀行の資産劣化であり、今以上のユーロ価値低下を生じさせる遅効性の毒と変わらない。

もっとも、それではドイツなどが主張するように厳しい財政支出縮小とセットの資金貸し出しが有効に機能するかと言えば、そちらの方がもっと難しい道でもある。実際、ここ数ヶ月その道を探り始めていたが何のことはないすぐに南欧諸国のGDPは大幅な低下を始めた(http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201208280122.html?ref=recahttp://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201207120018.html)。要するに、財政支出は国家の経済的な活力に大きく寄与するものであり、その削減は景気回復とは相反する行為である。
一部には、ラトビアエストニアなどのバルト諸国が厳しい緊縮財政でGDPの大幅な落ち込みから立ち直った例を持ち出し南欧諸国にも同様の対処を迫る意見もあるが、わずか200万人ほどの人口など経済規模が大きく違うことや輸出主導により立て直すことが可能であったなど環境の違いを無視して同じ議論を行うのは暴挙に過ぎる。ちなみにラトビアが経済的に立ち直ったかと言えば、GDPは20%落ち込みそこから5%ほど持ち直したに過ぎない。アジア金融危機の時にも東南アジア諸国GDPが20〜30%落ち込むような状況に陥ったが、その後は国際的な資金援助体制も整い回復したように一定の落ち込み後には経済の若干のリバウンドは生じるものなのかも知れない。もちろんその後の持続的な回復はその国の努力のみではなく、国家を取り巻く世界的な環境が大きく左右する。
ラトビアエストニアなどの小国では規模が小さい故に世界経済に影響を与えにくいし、元々資金の貸し主だったスウェーデンの強力なバックアップがあった事が何よりの大きな理由である。さて、スペインに同じ様なことができるのは誰なのだろうか。

結局のところ、スペインを救う動きができるのはそこに資金を供給できるものであり、ドイツなどの個別の国が動けなければECBが動くしかないということであろう。ただ、今回の処置にドイツや北欧諸国が反発するのも間違いないであろうと思う。感情的な反発が、遅ればせながらも議論が続いてきたESMの実行にも大きな障害となるかも知れない。
ただ、今のところ国債買い入れにより一時の時間稼ぎができたのは間違いないものの、その後の展望についてはまだ何も見えてきていない。世界経済に暗雲が垂れ込める中、結局輸出主導でユーロ圏が立て直しを図ろうとするならば、再び世界的な通貨安競争を引き起こすことに繋がるかも知れないし、それはインフレへの序章でもある。
結局、インフレによる痛みに耐えながら立て直すしかないのだと私は思うが、果たしてどのような方向に向かうのであろうか。