Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

アングラ化する欧州

ECBのドラギ総裁が、欧州危機に際してあらゆる手段を執ると発言した(http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK817154420120727)ことを受けて、欧州の株価は一気に大きな上昇をした。現実には、ギリシャ問題には触れずにスペインやイタリアの救済をするという意味に取れる内容ではあるが、市場の反応は少し問題を甘く見すぎているように思う。内容的には具体論は一切無く、またこれまでECBの支出に抵抗してきたドイツや北欧の国々を納得させられるのかどうかについても疑念は大きい。
加えて下世話な話ではあるが、ユーロ諸国の首脳はこの問題が差し迫った状況下であるにも関わらず、休暇を楽しんでいるというのを聞くにつけ、ユーロ諸国首脳の認識の甘さと心構えにも相当に問題があるように思う。

スペインで地方政府に破綻懸念が広がっているが、同じ問題はイタリアも抱えている。スペインで一部地方自治体で公務員などの給与の遅配があることは昨年から既に伝えられていた。それが、今はもっと大きく広がったと考えて良い。地方自治体の破綻は、国がその救済を行いうる間は内政的な混乱はあるものの、国家としての形態は維持できる。問題は、スペインにしてもイタリアにしても短期の国債金利すらが7%を超えるような水準になっており、実質的に国債の発行が不可能になっているということろがある。これでは国家が地方を救済することができまい。
ECB総裁の発表は、スペインやイタリアといった国家が地方から崩れていくことを阻止するための最大限のリップサービスではあるが、そもそもECBがスペインやイタリアを本格的に救済することなどはできやしない。そもそも、ギリシャ自体をECBは救えているのだろうか。ギリシャは建前上厳しい歳出制限を一旦受け入れてECBなどからの支援を受けた。それはギリシャという国家をデフォルトさせないギリギリ(というか反則技)の方法を取って為されたものではあるが、ほんの数ヶ月前に認めた財政削減を既に反故にしようとしているのが現状だ。それはある意味当然のことで、歳出削減によりギリシャの財政や銀行の有する負債を救うことなどできるはずがないのは、当然分かりきった事実なのである。

ユーロ危機を救えるのは、結局のところバブル的な状況において生じた負債を如何に処理するかであり、その一つの方法は日本のように長い時間をかけて徐々にそれを消化する方法と、ちょっと喩えは極端だがアメリカのようにコントロールされたバブルを繰り返すことにより景気を押し上げることである。ただし、それらの方法を採用できる前提があるためにどの国でも同じことができるわけではない。
現状ユーロにおいて採られているのは日本よりも急進的な負債処理であって、それをユーロオリジナルの処理方法と考えることもできなくはないものの、現状で見る限りは日本やアメリカのように上手く対応できているとは思えない。強いて言えば、先送りを延々と続けているだけのように感じられるのだ。一見すれば、負債処理を行おうとしているのだから先送りではないように感じられるが、実現性の低い処理など机上の空論に過ぎない。結果的にそれらは実現せずに、延命のための資金を満たし続けることが続けられることになるのは目に見えているし、急進派が資金を出し渋ればユーロ崩壊への道を歩むことになる。
ギリシャを先頭に問題のある国々は、突如うち捨てられるわけでもなく、根本的な救済が為されるわけでもなく、その合間の曖昧な状態におかれ続けている。その合間に自然に景気が回復すれば、今抱えている問題は急速に重要性を失うことになるのであるが、果たして現状のユーロが自然な景気回復まで現状維持を続けられるのであろうかと考えると未来は暗い。

ギリシャをはじめスペインやイタリアの国民達はまさに当事者であり、自らの国家が国民を救う手立てを持てなくなっていることを既に十分感じ取っているであろう。だからこそ、実質的な資金出し手でもあるドイツに対するクレームは強く「第四帝国」などのと揶揄が出ている。
こんな状況下では、国民が国家を信じることはできなくなるわけだから、これら諸国の経済は急速にアングラ化を深めていくことになるであろう。自分たちの身は自らで守ると言うことである。経済のアングラ化とは国家が補足できないお金が増えると言うことであり、それが益々国家の裁量を狭めてしまい回復不能な状態に進んでしまうことになるわけだが、イニシアティブを個々の国家ではなくユーロという総体が取り厳しい政策が伝えられるほどに進行するだろう。
結局、上手く保身できた人たちは生き残り、それができない人たちは国家と命運を共にする。国家経済のアングラ化が大きくなるほどに表向きの政策は効果を為さなくなり、混迷は深まっていく。

欧州の混乱は多少の上下動はあるだろうが今後も続くことは間違いない。