Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

尖閣問題とシナリオ

今後もいろいろと情報が出てくるであろう事を想定すれば、現時点でいろいろと推論を重ねてみてもあまり効果はないし賞味期限の極端に短い内容となってしまうのは重々承知の上で、それでも政府購入の情報が飛び交っている現時点で少し考えてみたい。
基本的には尖閣購入が大きな議論となっているが、正直言えば都が買おうが国が買おうが事実関係にそれほど大きな違いはない。というのも、日本国内で土地の売買が成立し滞りなくそれが遂行されたとすれば、国際社会に対するアピールとしては主体が都であれ国であれ然したる違いはない。加えて領土防衛の本来的な主体は国であり、通常の国であれば(中国などの一方的な主張ながら)紛争を抱える島の所有権は国にあった方が何かと有利である。
石原都知事尖閣購入を言っているのも、売買実績ではなく日本の領土であることを対外的にもっと明確に主張(実効支配を進捗させる)ための方法論として、何某かの構造物を尖閣諸島に造ると言うことがなされるのであれば国に渡しても良いとしている。

ただ、問題がここまでこじれているのは政府が領土防衛についてどこまで真剣に考えているかについて疑念を抱かれているところが大きい。現在の報道でも、国有化後に一切手を付けずに現状維持をする方針と見られている。
これは、中国政府側からのメッセージにも添うものだが問題を大きくさせたくない両国政府の思惑と一致する。要するに、民意や石原知事の狙いは曖昧なものを明確化せよであり、一方の政府は現状維持を続けたいというものだ。果たしてどちらの方が日本のためにより有利なのかは感情論を排して考えなければならない。それには、実質的に中国側が提示する落としどころに日本が乗ると言うことの国家イメージの低下も考える必要がある。
まず、中国政府が非公式に物事を穏便に処理しようと伝えてきていたとしても、中国政府内や人民解放軍は決して一枚岩ではなく政争の具として尖閣が利用される可能性は非常に高いのは間違いない。すなわち、中国政府からの打診はどれだけ穏便なものであっても非公式なものは(表向きはともかく実質的に)信用に値しない。それは韓国政府のそれとあまり変わるものではない。もちろん日本政府側や親中派の国会議員の中にも揉め事を増やして経済的な停滞を招きたくないという人は山ほどいるであろうことを考えれば、そんな値にしない情報も立派な力にはなり得る。

中国側としても尖閣を紛争地域として言い出している手前、日本側がハードルを上げれば対抗して必ずハードルを上げざるを得ない。要するに海上保安丁の船への体当たりの時と同じように関係ない内容かもしくは直接的に武力による威嚇をもって圧力をかけざるを得ない。ただ、それをすれば日本に益々自衛隊による領土防衛に走る明確な理由を与える事になるため、どちらかと言えばここでの戦力増強合戦には持ち込みたくないであろう。もちろん正攻法ではなく一部の暴走により似たようなことは起こりうるから、政府の方針に反してそれが進む可能性はある。その上で、機会があればという領土的野心があるのも事実だから、あくまで「現時点における」という前提付きのものでしかない。
日本側としても、中国側の領海侵犯などのちょっかいがないのであれば現状のままでも何の問題もない。結果的に、当面の政府間の水面下合意は現状維持となりやすい。
まあ、それを一般的には「問題の先送り」と呼ぶのもその通りである。

さて日本が長期的な戦略を立てるとすれば、本当は小さな摩擦は起こしても韓国の竹島施設整備のように少しずつ実行支配的な動きを続けた方が良いのも事実であろう。小さな積み重ねが何より重要であり、双方の意見が食い違う場合には事実の積み重ねが何より重い。中国側は、民間の暴走としてこっそり政府の意思を含めた暴走を繰り返し続ければよい。それも中国側の事実の積み重ねである。
竹島問題でもそうだが、相手国が小さな事実の積み重ねを続けるに対して日本側は原則論や事実関係の正当性を訴えるのみと言うのは正直少々分が悪い。小さいながらも相手側のアドバンテージを積み重ねさせているのだから。
ただ、ここ数年のロシア、韓国、中国の動きは平和ボケの日本国民の心の中に領土を守るというイメージを植え付けたのも事実であり、ここから先は容易に侵食させないという心構えができたとすれば、それは時間が多少かかっても政権運営にも反映される。

最初の部分に戻るが、現在の地権者として領有権を守るという意志がどれだけあるのかはわからないが、石原都知事が話している一時的な波よけの波戸や無線設備あるいは灯台などの施設整備がなされることを条件として国と交渉しているとすれば、それは長期的な国益に叶う。それが為されるのなら、買うのが都である必然性はほとんど無いのだから。
加えて民主党政権が次の選挙では間違いなく政権の座から落ちるであろう事を考えれば、仮に現在の政府が購入したとしても整備は次の政権に委ねられる。もちろん中国と裏で変な約束をしていないという前提があってのことではある。
また、先送りが必ずしも悪いわけでもないと考えることもできる。今の政権がそれを考えているとは思えないが、以前から別のエントリでも書いているように中国の経済状況は決して良くないし、今後は巨大バブル崩壊の危険性が高い。もちろん共産主義国家であり強引な政策で対応できるかも知れないが、それでも今溜めている歪みを強制的に取り除くことはできない。
そして、いつか中国が混乱している時に無駄なやりとり無しに日本の支配を強化するという方法もあるだろう。中国の国力が混乱により低下すれば、暴発の危険性もあるにはあるがそれこそ軍事力できたものには明確に抵抗できる。加えて接する国の多い中国であり更に国内にも独立運動をいくつも抱えていることを考えれば、尖閣にかまけていることなどおそらくできまい。
日本としてはしっかりとその時を待ち、適切な時点に適切に行動する。それができるならばそれの方が良い。

どちらにしても、現状では日本という国が将来的な中国衰退を含めた領土防衛のシナリオを十分描けていないのではないかということが問題である。複数のシナリオが必要だろうが、その構築無しに場当たりに対処しているのが混乱の元凶であるのは間違いないであろう。