Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ドイツがユーロを去る日

ギリシャの総選挙が緊縮財政派の勝利となり、一時的とは言えギリシャのユーロ存続が決まったものの、世界経済の視点はすでにギリシャにはない。本丸であるスペインに焦点は移り、スペインの10年国債は救済レベルと言われる7%を超えてしまった。
以前にも書いたが、ギリシャは最後までユーロにしがみつこうとするし、その流れはスペインもイタリアも同じであろう。お金はドイツにあり、結局のところドイツがこれまでのユーロシステムを活用して儲けてきた利益を投入しなければ、現状の打破はできないのだ。
もちろん、ドイツはそれを嫌がっておりユーロ圏の財政統合を目指そうとしているが、実質的なドイツによる財政支配させるのであれば下手するとユーロという植民地制度と変わらなくなってしまう。理念としてのそれはあっても、余裕の無くなった今それをゆっくりと制度設計している暇はないし、実験するほどのゆとりもない。

PIIGS問題というかギリシャ問題が噴出した折より,、ユーロ圏を出るのはギリシャかドイツかという考え方は存在した。ギリシャの場合は追い立てられドイツの場合は勝ち逃げという違いはあるが、ドイツもユーロから離脱すればこれまでのユーロ建て債券は急落する可能性も高く、加えて復活したマルクは日本の円以上に高くなってもおかしくない。すなわち、現状の為替ボーナスを全てはき出す覚悟が必要となる。
ユーロ圏離脱は、勝ち抜けとされるであろうドイツにとっても決して平坦な道のりではないのだ。加えて、ユーロ崩壊の直接的な引き金を引いたと戦犯扱いされるとすれば、現状においてはそれ以上のメリット(あるいはデメリットを防ぐこと)がなければ踏み出せない。

それでも、ギリシャの離脱は別としてドイツがユーロを抜ける方向に動くのではないかという気がしてならないのは、それだけ現状のユーロ危機が深刻であるという傍証でもあるかもしれない。現状ドイツによる経済支配(一部には『第四帝国』とまで言われているが)が意図的なものかと言われれば、私はそれは必ずしもそうではないと思う。ドイツ自身が自分たちに有利なポジションを追い続けたのは事実であろうが、一時はギリシャやスペインもそうだった。産業競争力のあるドイツは輸出でメリットを享受し、競争力のないギリシャは資金流入で良い思いをした。短期間ではあるもののWIN-WINの関係だったのだが、それでも歪んだ関係はいつかは修正される。現在の危機は歪みの修整でもあるのである。
そして、歪みの修整とはすなわち儲けすぎたドイツはそれを修正され、無駄遣いが過ぎたギリシャはそれを修正されるのだ。ギリシャはデフォルトという返済をチャラにする裏技を行使できるが、それもあくまで一時しのぎに過ぎずその後に茨の道が待ち構えているが故に、少しでもユーロという大樹にもたれかかろうとしている。もっとも、それが許されるのはユーロの寛容性(+離脱の方法論未整備というシステムの欠損)があって初めて成立する。
スペインなどはギリシャほど公務員数が多いわけではないが、ユーロバブルによる資金流入が国内に不動産バブルを引き起こした。すなわち、原因の一端はお金を貸しすぎたドイツやフランスの金融機関にもあるのだが、現状ではドイツなどはそこには目をつぶっている。

現状、ドイツにしてもユーロを維持した方がまだマシであるのは間違いない。ただ、PIIGS諸国などへの融通を最小限にしておきたいという思惑はあるし、現実にユーロ共同債の発行に最も頑迷に反対しているのは当のドイツである。ある意味、自分たちが最も不利を被る仕組みには賛成できないと意言う自己利益の最大化を図っているに過ぎないが、それはユーロという仕組みの最適化ではない。
ドイツが自己犠牲精神(というか歪みを利用して儲けた利益を拠出すること)を発揮しない限り、現状あるユーロを覆う揺らぎは落ち着かないし状況は悪化し続ける。
ドイツという国家はユーロを守る重要性をある程度考えたとしても、ドイツ国民が同じ判断をするとは限らない。むしろこういった場合国民の方が先鋭的ですらある。すなわち、ドイツ国民がユーロ離脱の方がメリットがあると考えるようになれば、それは国家にも強烈なプレッシャーを与えることになるだろう。そのきっかけは、意外と現状低下を続けているドイツ国債金利が反転上昇し始めることにあるかもしれない。それは国の財政の問題と言うよりは、単純に国内金利の上昇を嫌だと感じることであると同時に国債で運用している財産の目減りでもあるのだ。そうなるのはドイツが国債を発行して救済にお金を拠出する・・・と市場が見なすことでもある。
ユーロの安定のためにはドイツの資金拠出が必要ではあるが、それが故にドイツ国民はそこに強く反対する。どこまで金利が上昇すれば国民に嫌気が蔓延するかはわからないが、国債金利の上昇には着目したい。そして、だからこそドイツ政府は自国のみではなくIMFの資金を使いたいわけでもある。

「いつのことになるかはわからないが、もしあるとすれば政府の方針ではなく国民の不満がユーロ離脱を後押しするだろう。」