Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

中国が世界貿易の不公正さを訴える時

ちょっとした思考実験をしてみたい。
最近はあまり聞かれなくなったが、少し前までは中国が為替を不当に安く設定しているとアメリカ議会で激論が交わされていた。現実、多くの議員がそれを主張しており、中国もこれらの声に押されてジリジリとではあるが元高を操作してきた(http://finance.yahoo.com/echarts?s=USDCNY%3DX+Interactive#symbol=;range=5y;compare=;indicator=volume;charttype=area;crosshair=on;ohlcvalues=0;logscale=off;source=undefined;)。実質的に中国は為替をドルに固定している。ドルペッグと呼ばれるこれらの方法は、小さな国であればいくつか見かけるものではあるが、GDP世界2位の国が行うのは確かに異例のことではある。

さて、世界を席巻している経済危機の嵐は見かけ上沈静化しているように見えていたが、現実は全くそんなことはない。ここ2ヶ月ほど世界の株価が上昇しているが、それはスペインの銀行債務に対してほぼ無制限に融資をするというマリオ・ドラギ総裁の方針を受けてのものであったのだが、数日前にそれはドイツをはじめとする数カ国により実質的にぶち壊された(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE88R07J20120928)。ただし、日本ではまだそれほど報道されている訳でもなさそうだ(http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE88R06S20120928?sp=true)。
この動きを受けて欧州の株価は急落し、スペイン国債金利は再び上昇を始めている。それでも、楽観論が浸透したこともあって一時ほどの状況にはまだ至っていない。こうした状況下、スペインではカタルーニャバスク独立運動は勢いを増し、政府の緊縮財政方針も徐々に神通力を失い始めている。そして、緊縮財政では何も解決しないと訴える識者の数も増え始めているように感じる。要するに、欧州危機は実質的に何も解決していない。欧州内での勝ち組であるドイツや北欧諸国などが腐った蜜柑を押しやっているに過ぎない。

欧州の経済危機が長引くほどに、欧州の金融機関が世界に投資した資金は引き揚げられていく。中国しかり、韓国しかり。世界からの余剰投資資金の流入を背景に大きな成長を果たしてきたところは、それの停滞により経済に急ブレーキがかかる。日本との紛争は、それのみではないもののこうした状況の目くらましに使われてる可能性も高い。
さて欧州からの投資資金は減少し、日本企業は撤退し、世界的な不景気から輸出にも大きなかげりが見え始めれば、当然国内景気刺激策と言うことで財政出動(若しくは銀行に資金貸し出し命令)を行うことで対応しようとすることになる。それは新たな不況債権を増加させ、資金をジャブジャブにすることもであるから、結果的に言えば国の通貨を下落させる因子である。それを中国に当てはめれば元安を招くと言うことになる。リーマンショック後にも大規模な財政政策を行ったにも関わらず、元高が続いている一番の理由は為替操作であるが、同時に高成長の期待がそれを下支えしてきたとも言える。さて、中国は今からも元高を続けることができるものであろうか。

一方で世界的な不景気は、輸出により稼ぎたいがために通貨安戦争の様相を帯びてくることになる。一方的なそれを行う国を排除するためには、特定の貿易圏を作って保護貿易を図るのが手の一つである。TPPも今のようなラディカルな仕組みではなく、主義主張を共にする国々の貿易協定であれば大きな意味を持つのだが、同じ様なグルーピングは今後も生じるであろう。アメリカのような一つの国で全て賄える国はほとんど無いのだから。
さて、中国は世界の工場であるが世界景気が停滞して需要が落ち込めば、当然工場の売り上げは落ちることになる。そこで実情に従い通貨を安くして売ろうと正当な努力をするようになるはずだと私は思うのだが、そのころには世界は保護貿易圏により中国を閉め出す可能性は低くないように感じている。それは、結局の所先進諸国に利用されただけという感じもしなくはないが、グループに入ることができないとすればそれは経済拡大時の中国の行いが一番の理由でもあろう。実際、大きくなった経済をバックに実態以上に肥大化した自尊心が、今後も容易に適正なものに収斂するとは思えないのである。

あくまで想像の結果に過ぎないが、中国が世界の貿易圏から疎外された時には世界貿易の不公正さを中国が切々と訴える時が来るのかも知れないと考えてくすっと笑ってしまったのだが、あながちあり得ない未来とも思えなくてちょっと怖くもなった。中国は、それを言葉のみでは抑えきれないであろうから。