Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

金融危機は今もじりじり進行している

本日、ギリシャとフランスの選挙が注目されている。それはユーロを維持し得るかという意味で、今後に大きな影響を引き起こすかも知れない。

もう随分昔のような気すらするが、リーマンショックはショックと言われるように急激なパニックにより引き起こされた。それは、金融関連会社が連鎖倒産するのではないかという疑心暗鬼を生み出して、世界中で株が売られて経済を大きく揺さぶった。しかし、逆に言えばその疑心暗鬼さえなんとか払拭できれば、世界は落ち着きを取り戻すことができるわけである。実際FRBは巨大な金融緩和を行って金融機関の連鎖倒産を防ぎ、世界はその後順調とは言えないものの落ち着きを取り戻した。特に、リーマンショックの発信源であったアメリカが最も順調に株価を上昇させている。

現在の金融危機は、欧州のソブリン危機と言われている。リーマンショック後に、アメリカの金融機関は自己資本の増強に必死になって取り組んだが、欧州は会計基準の変更でお茶を濁した。もちろん、ある程度の資本増強は行ったもののアメリカと比べれば著しく不十分である。それでも、時価会計を簿価会計に変更するだけでも大幅な時間稼ぎは可能であった。加えて、資本増強は国家資金などを投入することでカバーし続けてきた。要するに、金融機関が抱えた不良債権を実質的に国が引き受けたのである。
かつての日本も公的資金投入と言うことで金融機関の不良債権を一時的に国に移し替え、最終的には国が損しない形でカバーすることができたのだが、今回の欧州危機ではIMF国際通貨基金)にまで援助を申し入れている。日本の場合は、一部の酷い金融機関を倒産させたり外資に二束三文でたたき売ってでも自国での処理を行ったが、欧州は処理のための資金を外国に頼ろうとしている。

マスコミなどを見ると、ドイツの記者が世界の危機を日本が救ったなど(ポトマック通信 世界経済の救世主:http://sankei.jp.msn.com/world/news/120502/amr12050203160001-n1.htm)とまるで喜んでいるようである。ホントめでたいというか何というか、それはATMの用に利用されて半分バカにされていると思うのだが。日本の金融危機の時に欧州が何をしたか覚えていないのだろうか。
日本が世界の危機を救ったのではなく、日本が欧州の危機を救うために利用されたのだと言うことがわからないのだから悲しくなってしまう。もちろん、欧州の危機が広がることが世界経済に悪い影響を与えることは間違いない。その上で、日本の使い道が少ない外貨を有効に利用するという意味に置いても、IMFへの貸し付け(出資ではない)はきちんと返済されるのであれば意義はあるであろう。
ただ、さすがに日本等によるこの度の拠出(約4000億ドル・・約32兆円)程度で全てが上手く行くなどとお花畑のように考えてはいないだろう。これはまだ始まりに過ぎないのだとわかっているなら、ドイツの記者からおべっかを使われた程度で鼻を高くするのはちゃんちゃらおかしい。ましてやそれを記事にするとは言わずもがなである。

さて、欧州の状況は日本では実感が湧かないであろうが、ドイツなど一部の良いところを除けば結構悲惨である。今危機が叫ばれ始めているスペインでも失業率が24.1%になったそうだ(若年失業率は50%を超える:朝日新聞http://www.asahi.com/business/update/0502/TKY201205020405.html)。その上で、金融機関の不良債権が増えるのは今からが本番なのだ。まだ、景気悪化は序の口である。しかも、景気悪化時には景気刺激対策を取るのが当然なのだが、財政支出の抑制をドイツ等の一部の国が主張しているために、景気を刺激するどころか財政支出の抑制もこれから本格化する。
すなわち景気は今から悪化するのである。そして、それに反抗する声がPIIGS以外のオランダやフランスからですら聞こえてきている。ドイツの孤立は今後もっと深まっていくだろう。
ただ、建前上無制限の財政支出もできないため、不良債権を先延ばしするためのあらゆる方策が今後も採られるであろう。いつか自律的な景気回復があると期待し続ける形で。単純な景気循環であるなら放置しておけば景気が回復するのは事実であろう。しかし、今回のものは増大したマネーが生み出したバブルの崩壊である。同じようなレベルに復帰するためには同じようなバブルが発生しなければならない。さて、欧州に再びバブルを発生させても良いと腹をくくれるものはどの程度存在するのだろうか。

欧州は、日本が経た失われた20年以上の景気低迷期に今後入る。時期はわからないが、株価もリーマンショック時を下回る国もどんどんと出てくると思う。ただ、ハードランディングが生じることだけはどんな手を使っても防ぐであろうから、中国など(BRICs)の突発的な混乱でもない限りは金融危機は一進一退を繰り返しながら悪化を続ける。現状のままの社会体制においてそれを抜け出す有効な手はおそらく存在しない。唯一の方法は大幅なインフレをコントロールする事であるが、その恐怖を骨身に沁みて知っているドイツがそのトラウマ故に最後まで抵抗を続けるであろう。
逆に言えば、現状のアメリカダウ平均株価の方が異常に下がらないと感じられるほどである。その恣意性についてはなんとも言い難いが、下げたくない人がかなりいるのではないか。
行動を見る限りアメリカは欧州の経済危機進行とは一定の距離を取り始めているようにも思う。もっともアメリカとて欧州の危機が深まることを手放しで喜べるわけではない。

とは言え、ユーロ諸国のインフレ率は目標の2%を超えた位置に今もある。それは、憎むべきものではなく最後に逃げ込む駆け込み寺のようなものかもしれない。

リーマンショックのような急激な変化はそうそう生じない。仮に可能性があっても先延ばしの方法は利用可能だろう。しかし、それは金融危機が今後もじりじりと続く事の裏返しでもある。」