Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ビジネスモデルの崩壊

アメリカの地方裁判所におけるアップルとサムソンの訴訟は、現時点でアップルの勝利となった。判決により権利侵害の代償としてサムソンは10億ドルの賠償金を支払うことが求められた(http://online.wsj.com/article/SB10000872396390444358404577609810658082898.html?mod=WSJAsia_hpp_LEFTTopStories)が、既にサムソンは異議申し立てをしているようであるし今後も上級審にて争われることになる模様だ。ただこうした裁判は世界中で提訴されており、アメリカのみでは収まらないだけに影響は小さくないし、操作性や意匠面の権利侵害であるために上告があったとしても今後のサムソンのスマホタブレットの販売に莫大な影響を与える事は間違いないだろう。

そもそもサムソンのビジネスモデルは、先行した企業の模倣により賄うものであった。一般に世界的企業の多くは技術・デザインの独自性をもって地位を築き上げてきた。先行開発企業は自社のブランドを確立することで、オンリーワンとして生き残るのが一般的であった。大手企業では全く他者の模倣をするというような方法は知的財産の侵害となることもあるし、そもそも企業としてのプライドが許さないこともあっただろう。確かに日本がまだ十分な工業国となる前の時代には、アメリカの模倣製品を作っていたのも事実である。ただ、当時は品質的にも及ばずに単なる劣化コピーであった。
なお、電機業界は技術革新が早いため先行者のメリットはいえどもそれほど長く続くわけではなく、少々の革新的技術ではどんどんと新しいものが生み出されるのが常であった。また、先行者と言ってもその地位に胡座をかいていれば、より安い同等以上の品質の製品を別メーカーにより販売されれば大きくシェアを落とす。
サムソンは、先行企業を事細かに調査してキャッチアップ(韓国ではベンチ-マーキングと言うらしいが)することで開発費用の大幅な削減を図ると共に、コストダウンやローカライズによるにより先行企業を出し抜くというのがビジネスモデルであった。
実際、日本メーカーの技術を真似ることで多少品質は落ちても安価な製品を普及させることで世界的にシェアを広げていき、最終的には日本の技術者ごと雇用して品質面などでもほとんど遜色ないレベルにまで達した。折りしも韓国の国策としてのウォン安も手伝って日本企業を絶望の淵に追い込むことができたのだが、それは国策会社とも言えるサムソン(=韓国)の戦略でもあったと言えるだろう。安値販売で同業者を駆逐してシェアを奪うという方法である。

以前より工業所有権侵害に関して数多くの訴訟を起こされ、しかもその大部分で敗訴してきたサムソンではあるが、足の速い電機製品の業界では一時的なロイヤリティは規模拡大の陰に隠れて足枷にまではなっていなかったというのが事実であろうし、それを含めてのビジネスモデルであったと言えなくもない。
日本企業は品質面で欧米に追いついた時からオリジナルの技術やデザインに足を踏み出したが、品質面で追いついた後も模倣のスタイルを手放さなかったのがサムソンである。そして、それが現状のアップルとの泥沼に近いような訴訟合戦に至っている。最も泥沼とは言っても基本的にはアップルの攻勢に防戦一方というのが現実である。
特に今回は単純な技術面と言うよりはデザインや操作性という、技術ほど変化が大きくない部分での訴訟なので、サムソンが受けるダメージは今までより間違いなく大きくなる。加えて、今回の訴訟の結果がサムソンにもたらしかねないのはこれまでの成功ビジネスモデルの終焉なのだ。
もっとも、それは訴訟とは別にしてサムソン自体が自分で舞台を整えたという面がある。すなわち、ライバルの真似することにより成功し成長してきた企業が、日本企業の凋落によりライバル企業が少なくなってしまった。ライバルがほとんどいないと言うことは勝ち組企業と言えるはずだが、それはイコール真似るべき企業も失ってしまったのでもある。それはあたかも致死率の高い病原体が、保菌者をすぐに殺してしまうが故に広がることができないのと似ている。
ライバル企業が多かった時には、一企業の技術を真似ても業界全体に占める問題の大きさは非常に小さかったかも知れない。ただ、それが少なくなった故にアップルとの訴訟はまるでハルマゲドンのごとき争いとなっている。
また、ライバル企業だった日本の電機メーカーについても完全に駆逐されてしまったわけではない。未だ、サムソンの凋落あればいつでも取って代われるだけの能力は保有している。完全なる一人勝ちによるシェア独占が成し得ているわけではない。

この苦境を抜け出すためには、基本的にオリジナルな製品を作っていくという先行者としての苦しみや多大な努力を払うようにビジネスモデルを変えなければならないしおそらくそれは重々承知であるだろうが、私から見れば現時点でもサムソンがその方向に動き出しているようには感じられない。
だからこそ、iPhoneとのデザインに関する訴訟が問題となっているのである。
サムソンが世界的なシェアを確保したのは紛れもない事実である。ただ、その地位を今後も継続させていくためにはおそらく相当の苦難を乗り越えなければならないであろう。それができるかどうかは全く持ってわからない。