Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

深海エレベータ

脱原発の運動が力を持つ最も大きな理由の一つとして、現状において放射性物質の処理方法が存在しないというものがある。それは現状の技術力が放射性物質を安全に扱うには不十分であると言うことである。それでも、原発の経済的側面に魅力を見出した人たちはかつて処理は将来的な課題と先送りして現在に至った。もちろん、それだけではなくプルサーマルなどのより経済的な方法も検討されてきたし、将来的な核融合の夢も追い続けられた。
ただ、残念ながら技術は少なくとも現時点において解決方法を見付けてはいない。未来永劫それを見付けられないかどうかは知れないが、だからこそ「トイレなきマンション」などという称号を与えられもしている。

状況は日本のみならず世界中でも同じである。フランスでは安定した深い地下(300m以上の深さの粘土層等)に封じ込めようと計画が進められている。砂や礫の地盤では地下水などを通じて拡散される可能性があることを考慮したものである。さらに、ガラスにより固化することで逸散を防ごうと考えられている。
ただし、日本の場合は果たして十分に安定した地盤と言える場所が存在するかを考えると少々心許ない。一部にはモンゴルなどの地下に処理施設をという案もあるようだが、国外に廃棄物持ち出すことについてはおそらく問題も多い(環境と原子力の話:http://homepage3.nifty.com/ksueda/waste0000.html)。
そこで処理方法として考えられる手法の一つに、日本海溝に封じ込めることはできないのかというものがある。もちろん現状ではそれを行うことができない。廃棄物投棄に係わる海洋汚染防止条約(ロンドン条約)により1975年より原則として海洋投棄が禁止されている。これは、かつての核実験の廃棄物を海洋投棄し続けたという問題から結ばれたものである。ただし、海溝などへの投棄を想定したものではない。
日本海溝は10000m近い程度の深さを持つ海底の谷底であって、海流もないため基本的にそこから流れ出ることはない。また、非常にゆっくりとマントル内に落ち込んでいると考えられるので、時間が経過すれば地球の内部に入っていくことになる。もちろんマントルは高温であり、その時には放射性物質を封じた容器も溶けてしまうだろうが、プレートの移動速度はおおよそ年間10cm以下と考えられるので、マントル内に入り込むのを地殻厚さ10km分と想定しても10万年かかることになる。放射性物質が火山を巡って噴出されるまでに放射能を失っていると考えても良いかと思う。

海溝の底に大きな潮流がないことはわかる(http://www.data.kishou.go.jp/db/climate/knowledge/glb_warm/deep.html)が、それでも深層流という動きはあり海水はおおよそ2000年ほどかけて循環しているとされる(wikihttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B7%B1%E6%B5%B7#.E6.B7.B1.E5.B1.A4.E6.B5.81)。実際には海溝の底は超深海と呼ばれ溜まりのような部分であるので、どの程度の水の動きがあるかは調査も必要であろう。どちらにしても放射性廃棄物が自由に動ける状況は望ましくない。十分に固化して比重を上げておく必要がある。また、海底の熱水噴出口などがあれば大きな対流が生じることだけでなく、熱及び噴出物によって容器などの劣化が早まることも想定される。これらにも十分な対応は必要である。
また、地震時に当該場所が大きく動くことで容器の破壊が生じないように配慮も必要であろう。

ただ、上記のような問題は現代の技術でも全て対応できるものであると個人的には考える。
問題は、それをどうやって確実に深海に届けるのかという問題ではないだろうか。海上からの投棄は単純でかつコストも安いが海溝に確実に落とせるという信頼性は低い。超深海と呼ばれる6000m以上の深海は海の2%ほどの面積しかないし、海流によって投棄した廃棄物が流されたり、途中で引っかかって止まってしまうと言うことも考えられる。クレーンなどで下ろすことも考えられるが、これも途中で地盤の段差などに引っかかった時に対応策が少ない。
では毎回深海艇で投棄するのかというと、これも積載量なども含めて容易ではない。何より乗務員が深海に降りるまで常に放射線による危険にさらされ続けること自体が問題となるだろう。もちろん無人のそれも考えられるだろうが、確実に深海に到達できるという信頼性が何処まで確保できるかという問題となる。

そこで、深海エレベーターといったものを作れないかと思うのだ。既に、軌道(宇宙)エレベータ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8C%E9%81%93%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF)のアイデアは出されており、静止軌道上の宇宙空間へのエレベータの計画は存在する(実現性はまだだが)。そのコストには様々な試算があるが、数兆〜数十兆と言われている。10兆円であればペイするのではないかと言われているようだ。大林組では、2050年までに実現させるとプレス発表がなされている(http://www.obayashi.co.jp/press/news20120220)。
深さは8000mとして、海流に対する抵抗を考慮しなければならないし、腐食についての問題もあるだろう。そして内部に海水を入れなければ巨大な水圧に抵抗しなければならない。おそらくは側だけ作って内部は海水が入ったものにする方がいいのだろう。安定のために海底地盤へのアンカーも必要となる。あるいは姿勢制御機構も必要だろう。
その結果として軌道エレベータとコストが同じ程度になるかどうかはわからないのだが、軌道エレベータが10万kmを想定していることを考えれば単純には長さは1/10である。仮に1/5の2兆円で可能となればこれは半恒久的な放射性物質の投棄場所を確保するコストとしては悪くないかも知れない。
ちなみに、もっとも大きな問題は深海まで下ろした放射性物質を詰めたカプセルをどのようにして海中に押し出すのかである。内部に海水を入れていなければものすごい水圧による抵抗があるのでそのままでは非常に大きな圧力を必要とする。一番下部に封じて、そこを破壊するなどの方法が必要かも知れない。その分は上部に継ぎ足して再度無くなった分深く沈めればよい。側のみでエレベーターそのものだけを沈めるのならその手間も省ける。

このエレベータの開発は他の面にも貢献する。日本付近の深海の状況をより詳細に調べることによる学術的価値は大きいし、同様に技術の進歩による日本領海の鉱物資源を安価に採掘する方法の開発に様々な技術面からの情報を提供できる可能性があるだろう(そのものは高価なので採掘には不向きだろうが)。まだまだ解決すべき点は少なくないが、それでも一考の価値は十分あるように思う。素人の思いつきに過ぎないが、海洋国家たる日本だからこその可能性として考えてみた。