Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

斜面崩落

 広島県での痛ましい災害の被害に遭われ亡くなられた方々のご冥福をお祈りすると共に、避難を余儀なくされあるいは負傷された方々の少しでも早い回復を願ってやみません。

 さて、日本は山地が国土の大部分を占め平野が非常に少ない(国土の約14%)国家である(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%9C%B0%E7%90%86)。平野についても、低地では洪水や高潮(時には津波)などの被害を受けるため、最も理想的な土地は緩やかな丘陵の上と言うことになる。無論地震や噴火を考えればそこも安全だと言いきることはできないが、昔から山の手(と言うよりは若干の高台)が比較的高級住宅地になるのは災害の経験が大きく影響しているのであろう。古都が京や奈良であるのも身近な災害を考えての立地ではないだろうか(それでも遷都の大きな理由として災害が考えられるという説もある:http://www12.plala.or.jp/rekisi/heiankyou.html)
 ただ、現在よりもずっと人口が少なかった時代においては、山の際に住む人はそれほど多くはなかった(あっても特定の職業に集中)。農業にしても工業や商業にしても、基本的には平地が望まれる(貿易を考えれば海に面することも望まれる)。そのためか中世以降の政治の中心(都)は海に面した場所がほとんどである。

 日本も人口増に伴い、徐々に災害の被害を受けやすい場所が開発されるようになった。沼地や傾斜地、あるいは海際の土地(埋立地)などがそれに当たる。もちろん開発に当たっては一定の知見や技術に基づき工事が行われるのが原則ではあるが、安全性を顧みない乱開発もあるだろうし、その時点での知見が不十分で危険な場所が規制されていないケースもあるだろう。
 そして、土砂災害については安全と言い切れる場所は今でも現実にはほとんど存在しない。土木構造物については、基本的に公共事業でもあり最大限の調査と設計上の注意が払われるものではあるが、それでも毎年どこかの道路は土砂災害により崩れている。 ましてや民間企業が実施する住宅地開発のための土地造成の場合は、大手企業が対応しているからと言ってもおそらく道路などの開発と比べれば対策に掛けている費用は小さいのは明白であろう。営利企業である限り、コストパフォーマンスを上げようとするのは至極当然の行為でもある。

 では行政的な規制が全く行われていないのかと言えばそうでもない。一つには住宅関連(宅地開発や、住宅の立地に関するもの)の規制があり、もう一つは土砂災害を想定したより広範囲なものである。

急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(http://www.mlit.go.jp/river/hourei_tsutatsu/sabo/gaiyou/houritu/kyukeihou.html
地すべり等防止法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S33/S33HO030.html

 全国の土砂災害危険箇所のマップ(http://www.mlit.go.jp/river/sabo/link_dosya_kiken.html)があるが、斜面地が近ければほとんどの場所が該当すると考えても良い。

 こうした土砂災害は地震時などにも発生するが、その大部分は大雨によりもたらされる。雨が地盤に浸透し、溜まり大きな流れとなって移動するときに発生しやすい。そのため、尾根筋よりは谷筋において生じることが多いが、水道(みずみち)などがある場合には目に見える地形状況のみでは想像できない場所で生じることもある。
 確かに地盤が軟弱であれば生じやすいが、逆に言えば生じないのは岩盤くらいしかなく雨の程度によればどこに発生するかを予測するのは難しい。事前に音や匂いにより気配を察することができる(http://www.kendoseibi.pref.gunma.jp/section/sabo/hp/main_page_0402.htm)と言われているが、これも完全ではないだろう。
 水の力は非常に大きく、その圧力により地盤を構成する土の結合力が弱まり傾斜地が突如として崩れ出す。崩れる地面の深さもケースバイケースであり、雨の降り方や地盤内への浸透状況により変わることが予想される。要するに、どのように崩れるかを大まかに予想することはできても、どこがいつどの程度崩れるかを予測することは地震予知と同様に困難である(あるいは多大な費用が掛かりすぎて現実的ではない)。

 急傾斜地の崩壊危険性については、先ほども触れたように土質(地層の構成)や雨の降り方・地盤内の水の流れ方などにより千差万別であるため、現時点では傾斜が30°を超えるかどうかが判断の基準とされている(http://www.mlit.go.jp/river/hourei_tsutatsu/sabo/gaiyou/houritu/kyukeihou.html)。これは住宅建設に適するか否かという意味ではなく、土砂災害が生じやすい場所といての非常に大雑把な分類にすぎない。
 また、30°以下では崩壊が生じないかと言えば根拠も特に何もない。単純に傾斜がきつい場所の方が生じやすいと言うだけである。ちなみに30°というのは「安息角(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E6%81%AF%E8%A7%92)」と呼ばれ、土が重力により自然に崩れ始める角度を示すが、水圧が加わればその限界は意味をなさない(気休めに過ぎない)。また、斜面上部で30°を超える場所があり、そこで大きな崩壊が生じれば一気になだらかな斜面までその崩壊が押し寄せる。広島の事例でもわかるように一度崩れ始めた土砂は、何百トンという土砂の流れとなって平地まで大きく押し寄せる。

 一部では植林が土砂災害を押しとどめるという話もあるが、現実には針葉樹による植林は今回のような集中豪雨により引き起こされる土砂災害に対しては大して役には立たない(はげ山よりはマシではあるのは言うまでもないが)。雑木林などの広葉樹林の方が針葉樹林よりは地盤が安定するが、こちらも必ずしも安全を保証する鍵とはならない。
 山の樹木が有する保水能力は、日常的な雨については機能するが集中豪雨に対して万能であるわけではないのだ。ちなみに、正確な統計がわるわけではないが竹林がある場所は地下水位が高く、土砂崩れが生じやすいという話もある(ただし、河川の堤防などに竹を用いると逆に決壊に対しての効果がある:http://www.d1.dion.ne.jp/~sentaka/kawademituketa019.htm)

 「災害は忘れたことにやってくる」ではないが、日本ではそういう可能性のある場所は非常に多い。そして科学も技術も決して万能ではなく、全ての土砂災害を防止できるということはおそらくないだろう(私たちの生きている間に成し遂げられるレベルではない)。
 危険な場所にすまないというのが最も良い答えではあるものの、どうしようもない場合(経済面も含めて)は間違いなく存在し、危機回避は意識により成し遂げざるを得ないと肝に命じた方が良いだろう。