Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

縮小均衡は衰退への序章

視聴率は低下し、スポンサー収入も減少の一途をたどっているTV業界ではあるが、出演者や下請けへのコストカットだけではなく本業以外での多角経営が功を奏して、黒字を積み上げているらしい。(参考:ポストセブン:http://www.news-postseven.com/archives/20120321_96167.html
TVという宣伝媒体を最大限利用して、稼ぎに精を出していると言うことである。それを否定するつもりはさらさら無い。企業としては持てる能力を最大限生かして利益を上げるのは当然だ。ただ、この路線を突き進む先には衰退の道が見えてくると思う。

そもそも、TVを見てくれるのはコンテンツが興味引くものであることが大原則である。TVがつまらないと言われて久しいが、ネットが普及するまでは大きなライバルが業界外には存在しなかった。それ故、業界内における視聴率の奪い合いを行えば良かった訳だ。ところが現状では、業界内ではなく外部のコンテンツとの競争に晒されている。その競争に打ち勝ってこその成長ではあるのだが、現状では競争よりは視聴者の囲い込みに精を出している姿が上記から読み取れる。
韓流推しについてもかつて言及したように、基本的には囲い込み戦略である。企業が苦しく広告収入が容易に確保できない時代だからこそ、一部の確実に支出してくれる消費者を取り込もうというものである。広告収入といういわゆる間接的な収益体系から、グッズ収入などの直接的な収益体系への軸足の変更とも言える。
それは、多くの支持を受けなければ成立しない構造から、特定の熱狂的な支持を受ければ成立する構造への移行でもある。全体的な支持を得られなくても利益が上がるようになるならば、現状の韓流推しに対する反発などは経営上あまり問題にならない。あくまでコアなファンが収益に貢献してくれればいいのだから。これは多角経営だと言えなくはないが、同時に放送という力を特定の分野に注ぎ込むという意味で縮小均衡を目指そうというものでもある。方法としては必ずしも間違っている訳ではない。メディアミックス戦略とはTVメディアを中心にしながらも、様々なコンテンツでの露出を通じて広告効果の最大化を図り売り上げを伸ばそうというものであるが、特定の熱狂的なものを生み出そうと言うニッチ戦略とは少し違うように思う。

このような傾向が何もかも全て悪いと言うつもりはない。少なくとも短期的には利益に貢献しているのだから。ただ、問題があるとすれば過度にそこに依存し始めると泥沼に陥るのではないかということである。そもそもニッチは、力のないものが新たに市場に参入するための方法論である。大きな企業が小回りに対応できない隙間を目指すものである。逆に既に大企業であるとことは体質的にコストが高いため、ニッチは必ずしも大きな利益が得られる市場ではない。
一時的なブームによってそこから大きな利益を得たとしても、急速に吸い上げれば吸い上げるほど市場の疲弊も早い。そして次のニッチ市場を探すことになる。本来最も必要なことはTVを巡る総合的な市場の拡大や成長であって、局部的なブームに依存することではないはずである。

そもそも、成長はそこに関わるものが多ければ多いほど、そこに夢を抱くものが多いほど加速し洗練されていく。ただ、縮小均衡に至った分野では人を惹きつける魅力も夢も拡大していくことはない。何らかの規制により縮小を押し止める方向しか取ることはできないであろう。
それでも縮小止む無しというのであれば、おそらくTV業界の将来的な衰退を本格的に検討していると言うことでもある。それはそれで生き延びるための戦略の一つであろう。事実、私も新聞業界はその方向性が適していると思う。
ただ個人的にはまだTVには可能性がありそうに思うのだが、さて規模縮小的な動きが吉と出るか凶と出るか。

「国家も同じことが言える。国家全体を縮小させるのではなく、産業の循環を常に図らなければならない。」