Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

インフレ政策に舵を切ったユーロ

日米欧の中央銀行が、欧州の金融危機に対応してドル資金の供給に踏み切った。
これがポジティブサプライズであったことは、世界中の株式市場の評価が明確に示している。
欧州金融危機は、マクロに見ればユーロ参加各国のソブリン危機(国家信用の危機)であるが、ミクロで言えばユーロ諸国のそれぞれの金融機関の資金調達危機でもある。
要するに、危機と言われているのはどこかの銀行が資金繰りに行き詰まれば、連鎖的に複数の銀行が倒産しかねないという懸念である。まさに、リーマンショックと同じ構図なのだ。
特に、決算資金としてのドル不足が欧州では顕著となっている。
皮肉な話ではあるが、アメリカが実質的にドルを刷りまくって世界に輸出しているにも関わらず、欧州の銀行はドル不足であえいでいるというのだから笑えない冗談のようなものである。

なぜそんなことになっているのか?

現在、ギリシャが実質的に国家破綻状態であるのはもはや明白だ。ヘアカットと呼ばれる借金棒引き策を50%(要するに借金の半分をチャラにする)提示し、しかもそれを各金融機関が自主的に行う。。。なんて苦しい政策を行っているのだ。
ギリシャ国債を買っている(=ギリシャにお金を貸している)金融機関とすれば、とんでもない損失を計上させられようとしている訳だ。しかも、ギリシャは50%どころか75%近くも棒引きしろと言う要求を暗に示したりしている。
さて、どの銀行がギリシャ関連にいくら貸しているかは大雑把にはわかるものの、各国の金融当局以外には正確に知るものはない。だから、危ない銀行にはお金を貸したくないというのが心情なのは容易に理解できる。
すると、銀行間でお金を短期的に融通するときの金利が上昇し始める。これが、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)と呼ばれる金利である。リーマンショック時期ほどではないものの、現在欧州のみ銀行間金利の上昇が止まらない事態になっていた。

だとすれば、いつどこかの国の銀行の決済ができなくなるかわからないという疑心暗鬼が広がっていたことになる。
今回のドル資金供給は、その疑心暗鬼の高まりを一時的に解消することを狙った対処と言えるであろう。

また、現時点での報道ではあまり触れられていないが、話は中国にも波及していると見る方が良いと思う。
日米欧6中央銀行が共同でドル資金供給を発表する少し前に、中国も預金準備率の引き下げを発表している。
これは、欧州危機を受けて資金が中国から引き揚げられているが、その影響が無視できないほどになっていることを受けての対応であろう。
中国は、8%以上の成長が継続することが社会安定の最低条件と言われているが、同時に余剰資金過多によるインフレの上昇の高まりにも手を焼いていた。それ故、預金準備率等を上げることでインフレ対策を講じていたが、その結果として不動産価格の大幅な下落が顕著化し始めていた。
これが実質的に公営不動産業を営んでいた地方政府の経営を大きく痛めつけていた。まあ、バブル経営のツケと言えば全くその通りなのだが、それ故地方債発行の緩和などで当面のパッチワークを行っていたが、さらに欧州資金逃避に対応して再度の緩和に動き始めていると見て良いと思う。

欧州金融危機は、中国だけでなく世界中の新興国のお金を吸い上げ始めているのだ。

ECBだけでなく、日米欧の中央銀行がドル資金供給に協調対応したのは、まさに欧州のみならず世界的な問題に広がることを阻止する意味もあったのではないかと考える。

さて、ではこれで当面の危機は回避されるのか?
これについては日銀総裁も記者会見で触れているが、あくまで「時間を買う政策」としている。
危機の構図自体は何も解決している訳ではない。あくまで、お金(決済資金であるドル)が詰まって銀行が突然死することを防ぐために、お金の流通を増やしましょう、銀行がお金を借りやすくしましょうというものである。
お金が借りやすくなれば、突然死の可能性はやや低くなる。
だから、最近急激に高まっていた危機感が緩和されたことは間違いない。
しかし、それは銀行が保有する負債が減ったことと同じではないのである。
根本的には何も変わらない。先延ばし策の一つと言えるだろう。世界共同での先延ばし策なので、大きなインパクトがあることは間違いないのだが。

では、この施策の副作用はないのか?
それは、すぐに影響が出るわけではないもののインフレである。
基本的にはドルを借りやすくする=お金を市中にばらまくことを厭わないということだと思う。
ドイツなどは基本的にインフレを大きく嫌っている。だから、ドイツは腹の中ではあまり積極的に賛同したくないかもしれない。
日本はデフレまっただ中であり、資金問題は欧州の問題だから少々のことでインフレを怖がる必要はない。また、アメリカもドルが基軸通貨と言うこともあってその影響を受けにくい。
欧州はインフレが広がることの懸念は認めながらも、その副作用は甘んじて受けるつもりなのだと思う。

放って置いても、金融危機に対する不安感によってイタリアやスペインだけでなく欧州各国の市中金利の上昇が止まらなくなりつつあった。だとすれば、多少インフレに向かう政策ではあっても、安心感で金利を引き下げることができたならそれで良いではないかと言うことであろう。
ただ、それも長く続けばボディーブローのように経済を蝕むであろう。
おそらく、ユーロ諸国内での対応ではドイツの強硬な態度が覆らないということもあって、日米欧の中央銀行による金融緩和という道を選択したのではないかと思う。
しかし、その次は結局のところユーロ内での対応が進むかどうかが鍵になる。
現状では、次の対策は見えていない。