Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

単独為替介入の罪

政府は、先月末に約7〜10兆円規模の為替介入を行ったと言われている。
介入のおかげで、1ドル75円台前半だったドル円為替は、1ドル79円前後まで安くなった。
この時、安住財務大臣円高傾向が続くことについて「我が国の実体経済を反映しない投機的動き」と発言していたが、正直知っていながら嘘を言っているとしか思えない。
現状の円高は投機筋の無茶な仕掛けなどではあり得ない。通貨の発行量に従った当然の動きだからである。

仮に世界経済の大きな流れが円高に振れているとすれば、過去最大の為替介入であろうがたかだか10兆円程度の介入など何の効果かも示さない。現実、介入後には再びジリジリと円高傾向が続いている。
現状では、1ドル77円を切るラインまで戻ってきた。再度の介入を警戒してここから円高が急加速する可能性は少ないだろうが、介入による円高防止効果はほとんど無かったと言って良い。

為替介入が、日本の財政に影響を及ぼさないのであればそれもまたよいだろう。
しかし、現実には為替介入は借金により行われる。
wikihttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E5%9B%BD%E7%82%BA%E6%9B%BF%E5%B9%B3%E8%A1%A1%E6%93%8D%E4%BD%9C
すなわち、10兆円の介入をするためには10兆円の借金を増やしているのである。
8月にも約4.5兆円の為替介入をしているわけであるから、今年に入ってすでに12〜15兆円くらいの借金を増やしたのである。
さて、東日本大震災の復興資金10兆円ほどの捻出に増税だの、償還期間だの喧々がくがくの議論を行って、復興資金の拠出が送れたことは記憶に新しい。それを考えると為替介入のためこんなに容易に費用を捻出できるのであれば、なぜ不幸資金を容易に捻出できないのだ。

ちなみに、79円で約10兆円のドル買いをしたとすれば、77円を切っている現在約2500億円以上の為替損を既に受けている。買い上げられたドルはすぐには使えないため通常は米国債を購入してその金利が補填に使われるが、これは借金の金利と相殺されると考えても良いだろう。
さて、円高が輸出企業の競争力を奪っているのは事実である。だから、輸出企業は海外移転により関税や為替のリスク回避を行っている。企業が海外に出るのは円高が悪いということになる。ただ、世間で喧伝されるほど円高は今の大手輸出企業には影響は与えない。
理由は、海外移転を既に大きく進めていること、今の輸出は対アメリカより対アジアの方が大きく、対アジア向け輸出で円建て取引がある程度広まっていること(これは為替リスクを相手側に押しつける方法)、既に為替リスクヘッジ手法をいろいろと持っていることなどがあるからだ。もちろんそれでも全く為替差益がないと言うつもりはない。
ただ、為替差損で大きな影響があるのは、海外で生産・販売しても、日本に利益を持ち込む段階で円が高いため利益が目減りすることであろう。

実を言えば、円高を抑制する非常に簡単な方法がある。
単純に言えば、円を刷ってばらまくのである。私のエントリでも何度か書いた。
しかも、単純にばらまくのでは効果が薄い。それを資金として公共事業により日本国中に効果を広げるのがよい。
ただ、それを日銀は通貨の信用が保てないとして決して認めようとしない。ジリジリと緩和はしているのも事実ではあるが、その程度は欧米と比べても非常に小さい。
アメリカも、欧州も、そして金融危機の折にはアジア諸国もたっぷりとばらまいているのにである。
円が高くなるのはある意味当然のことなのだ。

だから、為替介入などしても効果などあろうはずもない。
一時しのぎでしか無く、持続性はない。単純に容易には換金しがたい米国債を増やすだけである。
そして、増えた米国債同じだけの借金を積み上げている。

そんなことは、政府の当局者も当然わかっているであろう。
ただ、言い訳のように為替介入を行うくらいであれば、お金を刷って震災復興に回せばよい。
その方が、円も安くなるし復興需要により景気も向上する。
景気が良くなれば、世界の企業も日本に進出してきてくれるであろう。

現時点における為替介入とは、大きな罪だと思う。
震災という喫緊の問題を後回しにして行うようなものではない。
円高を気にしていますよと言うポーズのために行う介入など、害の方がむしろ大きい。

「まさか、こんなことすら財務大臣が理解していないとは思いたくないが。」