Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ギリシャ問題斜め読み

ギリシャの国家破綻をドイツやフランスが防ごうとしているが、ギリシャという国家が暴走している。
そんな雰囲気の報道が中心ではあるが、実際には全く逆ではないだろうか。
ギリシャという国家がその実態にふさわしく破綻する(あるいはユーロを離脱する)という自然の流れに、ドイツやフランスがストップをかけている。すなわち、ギリシャが破綻して困るのはギリシャ国民以上にドイツやフランスだということの裏返しでもある。

元々、ユーロの統一は民族的なしがらみを超えてより大きな共同体を作るという建前とは別に、ドルという基軸通貨をいつまでものさばらせるわけにはいかないといった目的があった。ドルという基軸通貨に替わるユーロを政治的・財政的統一を後回しにして進めたのは、まさにユーロ決済を行うためのアメリカに対して仕掛けられた対抗措置である。
というのも、原油を買うための決済は基本的にはドルしかなかった。そのため、ヨーロッパ諸国はわざわざドルを手に入れてそれで石油を買わなければならなかったのだ。ヨーロッパ諸国は個別では巨大なアメリカには対抗できない。
それ故のEEC→ECであり、さらには自由に世界中でものを買う権利を得ようとする流れであったのだ。
イラク戦争は、アメリカによる石油権益の確保が主眼であったとも言われているが、フセインが石油のユーロ決済を認めようとしていたことは多く知られている。下手すれば産油国がドル決済からユーロ決済にシフトしかねない。その畏れが、アメリカを戦争に駆り立てた大きな要因ではないかと考えている(もちろんそれだけではないが)。現実、イラクは戦後ドル決済に戻している。
湾岸戦争時にはクエート侵攻で多国籍軍が構成されたが、イラク戦争(第2次湾岸戦争とも言われる)にはフランスやドイツが強硬に反対していたのは記憶にも新しい。ちなみに、賛成していたイギリスはユーロには参加していない。

とにもかくにも、ユーロの権利を強くすためには参加国家を少しでも増やす必要があった。原則としてユーロ加盟には厳しい制限がある。それでも、ユーロ加盟国を早く増やしたいという欲求は、多少の粉飾があるだろうことは予測していただろうがそれでもギリシャの加盟を認めるに至った。
現実、リーマンショックの少し前まではユーロはその価値を高め続けていたのである。ユーロの価値が高まれば、為替高で対外輸出は難しくなる。実際、輸出国のドイツなどは困ってしまう。そこで行われたのがユーロ域内の輸出である。ユーロ圏内では為替の影響を考慮しなくても良い。そして、域内へ輸出するためには域内の貧しい地域には購買力を高めて貰わなければならない。ギリシャなどはまさにぴったりの相手だと言うことだ。
ドイツやフランスの銀行は、ギリシャにセッセとお金を貸してそのお金でドイツ製品などを買わせていた。

もちろん、ギリシャに問題がないわけではない。報道で言われているように公務員数はべらぼうだし、まともに税金をすら納めない。観光と海運以外にさしたる産業がないギリシャが贅沢できるとすれば、結局はそこにお金を貸し続けてきた国があったと言うことである。それこそがユーロ内の大国と言われる国々の金融機関であった。
お金を貸してものを買わせる。見事なマッチポンプと言うしかない。もちろん、それでも正当な商売であるのだからドイツやフランスの銀行が悪いことをしていたわけではない。ただ、そういう泥沼に自らも入り込んでいたと言うだけである。
リーマンショック以後は、今度ユーロが大きく安くなってユーロ域外への輸出が可能なドイツは問題がない。
要するに別の場所で稼げるというわけだ。かつての通貨であるマルクのままであれば日本の円と同じように大幅高になっていただろうが、ギリシャなどのおかげで通貨が安くて済むのである。さしたる財政支出無しに通貨安が得られるのであれば、輸出立国としては最高の恩恵と言えるだろう。

ところが、通貨安や信用不安が高まると困るのはこれまでお金を借りてやってきたギリシャである。
そして現状のデフォルト危機に至る。
さて、ギリシャなど破綻させればいいのだが、以前からお金を貸し込んでいるドイツやフランスの銀行はそう簡単にお金を返してもらえない。放っておけばデフォルトで貸し金が無に帰するなるだけでなく、銀行そのものが倒産しかねない。ってなわけで、ドイツとフランスが牛耳るECBを通じてギリシャを生かさず殺さずという状況に封じ込めようとする。要するに先送りである。破綻しそうなら最低限のお金を貸す(援助)。しかし、もう無駄遣いは辞めてもらう。そんなことをしていたら、ギリシャではデモが多発して実質的にはお金を返せるわけはないという状況が明らかになってしまった。
やむを得ないので少しでも返して貰おうと、債券の一部は諦めた、、というか銀行に諦めろと脅しをかけ始めた。
それでも、ギリシャ以外にも不安が膨らみ始めているので、他を救出する資金も集めなければならない。
ギリシャだけにかかっているわけには行かないのだ。。。と実質ギリシャ抜きでこれなら債券の半分を諦めてやると上から目線で勝手に救済条件を押しつけたのが少し前。さらに、倒産の連鎖を防ぐために債券カットはデフォルトに当たらない。。。なんて、普通では考えられない理屈まで押しつけている。CDSについては、その理屈で認めさせた。ギリシャ国債CDSを売っていた金融機関は丸儲けである。
何にしても、自国の銀行に倒産の連鎖が続くのは避けたいのだ。自国を少しでも混乱させずに収めたい。

ギリシャ側からすれば、これから何十年も債券の半分を返せと言われても国が成り立たない。
もちろん今まで甘えすぎたのは事実だけど、好き放題貸してきたのはドイツやフランスの方だろう。。ってな感じ。
偉そうに言っているけど、ギリシャ国民がNOと言えば困るのはお前らの方だぞ。もっと条件を緩くしろ。。。
まるで北朝鮮のような瀬戸際外交であるが、いざとなればデフォルトした方がギリシャにとってメリットがあるのであれば、ドイツやフランスから最大限の譲歩を勝ち取った上でそれに及べばいいのである。
もっとも、デフォルトをせずにユーロからの離脱をするメリットはギリシャにはないし、デフォルト→ユーロ離脱しても今度は海外からモノが買えなくなるので、正直言えばギリシャにとっては進むも退くも茨の道である。

ドイツやフランスは、もっと早くにギリシャをユーロから離脱させていればよかったのだが、時間稼ぎのために既にECBが山ほどギリシャ債券を買っている。ギリシャがデフォルトすればこのECBが出す損失をユーロ参加国が応分の負担で補填しなければならない。さて、、、だからギリシャを容易にはユーロから抜けさせることができないしデフォルトもさせられない。

ギリシャは適当だと思うけど、そこにお金を貸し続けて儲けてきたドイツやフランスも、サブプライムローンを買ってきた金融機関と実質的には同じ構図である。そして、現状維持を続けるためにレバレッジをかけて少ない資金を救済資金として運用しようとしている。
毒を制するのに毒を使う状況だが、そこに手を出したと言うことはおそらくほぼ最終手段なのだ。
最終手段を出してしまった以上、その先は、、、、、

サブプライム危機やリーマンショックがなければ、おそらく現状はもっとマシであっただろう。
そう考えると、ユーロ崩壊の危機を演出したのがアメリカであるというのが、喜劇のようにも見えてくる。
実際、アメリカ経済も低迷を続けているが、それでもドルの価値が上昇している。
円に対してはドルは弱いのだが、それ以外の通貨に対してはそろそろ強くなり始めているのである。
刷っても刷っても強いドルとは、アメリカにとっては最高の状況かも知れない。

「残念ながら、崇高な理念だけでは物事は成功しない。好景気なら仲間になれる存在も、不況ではいがみ合うのだから。」