Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ドルに首根っこを掴まれた欧州と中国

ユーロ危機は見かけ上小康状態をたもってはいるものの、正直言えば安心できる状況では全くないと思っている。現状では、とりあえずFRBや日銀などによる協力を受けてなんとかドルを確保しているに過ぎない。ユーロであれば、ユーロ内の国債をECBが引き受けることにより供給することは比較的容易ではあるが、それについてもドイツは一定以上の国債買い取りには否定的だ。
そして基軸国際決済通貨であるドルが各国の金融機関で不足している。欧州の金融機関は、自力で市場からお金を集めきれないためECBから50兆円近いお金を新たにECBから借りた。現状、お金はジャブジャブだがドルは不足している。穴の開いたコップにお金を注ぎ続けているのが現状だと言えるだろう。
そもそも、ユーロ危機という言葉は現状を正確に表していないと私は思う。現状は、レバレッジという魔法により未来の富を先食いしてきたツケを払う時代に突入したのではないかと考えている。すなわち、未来の利益の先食いの代償をこれから払おうかという時代である。

日本において未だに財務省や日銀の大きなトラウマとなっているバブル崩壊があったのは、もはや20年以上前のことだ。日本の特殊性なのか、あるいは大きなバブルが崩壊すれば地道に立ち直ろうと考えたならこれだけの時間がかかってしまうのかはなかなか判断しがたいところではあるが、バブルというものは大きく言えば未来の先食いである。未来の利益を得ることを見込んで多くの借金をして投資をする。だからそのツケを長い期間返済し続けなければならないのだ。
まだ、日本は政府がこの期間に大きく負債を増やしてくれたおかげで、国民経済が致命的な落ち込みをすることはなかったが、欧州のバブル崩壊においては政府の緊縮が大原則とされているが故、普通で行けば日本以上のペナルティボックス期間を必要とするであろう。
現実には欧州に都合の良いルール改正を画策して来るであろうが、おそらく小細工をすればするほどユーロの価値が下落して結果的にあまり効果が出ないことになるのではないだろうか。兎にも角にも、ユーロはドルから国際決済通貨としての地位を十分奪えなかった。今後のユーロは今以上にドルと比較しての国際決済通貨としての価値を喪失すると見ている。それは、未だにユーロ間以外での多くの地域間ではドル決済が行われていることにある。ユーロのみであれば最終的にはユーロをすればインフレにはなるものの決済はできる。しかし、ドルとなればその流通を最終的にはアメリカに握られているのだ。

もちろん、アメリカとしてもユーロ圏の多大なる混乱を願っているわけではない。それは巡り巡って自国の金融機関に致命的な損害を与える。だから、FRBとすれば自国の金融機関が大きなダメージを受けない範囲でのドル支援となるだろう。すなわち、欧州は実質的にドルの供給と言うことにおいてアメリカに依存する体制になっている。

同様のことが中国にも言える。中国は実質的に固定為替制度を取っている(徐々には操作しているが)。この為替の固定制度は、流入するドルを新たに発行した人民元に置き換えることで成立している。だからこそ、中国にはどんどんと外貨としてのドルが積み上がっているのである。そのドルの大部分は放って置いても意味がないので米国債などに投資される。今や、世界一の米国債保有国である。それをもって、アメリカに大きな発言力を有するようになったとの意見もあるが、逆に言えば中国はドルが国内に持ち込まれなければ人民元を十分に発行できない状態にあると言うことでもある。中国国内の資金はドルに裏打ちされていると言うことだ。現状でも徐々に逃げ出し始めている資金が大きく逃避を始めれば、おそらく人民元は大きく下がり輸出競争力はつくかもしれないが、国内のインフレを抑制しきれなくなる可能性は高い。
TPPについて中国が敏感に反応しているのは、仮に人民元が安くなっても貿易協定で枠外に置かれたとき輸出で食べられなくなる可能性を危惧してのことだと思う。

すなわち、実質的にドルは世界の血液となっている。日本など一部の国家はそれを実感することなく過ごせているが、欧州・中国などはまずその影響の大きさに神経をとがらせているであろう。そして、新興国諸国もその先には同じ問題が控えている。欧州危機が深まれば、欧州の金融機関は自国内よりは海外の貸出先の資金を引き揚げ始める。その時、新興国に新たに資金を誰が投入してくれるのか。

世界経済が安定していたときには、ドルの価値は相対的に低下した。そして、戦争になれば有事のドルとしてその価値が高まったのも事実である。今、経済危機が世界的に深まったとき、戦時と同様にドルが大きく価値を上げ始めている。それは表だって振り回されることはないものの、アメリカの外交において大きな価値を持っていると言えるだろう。

「日本円は場合によってはドルに信用を付加する役割を課せられるかもしれない。円暴落を騒ぐ人は多いが、世界中が今や安全資産として日本国債を買っている。すなわち、日本の円を買っているにも等しい。それをヘッジファンドの仕掛けのための買いなどと言う馬鹿げた理屈を付けるのは止めてもらいたい。」