Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

IMFへの拠出

安住財務大臣IMFで600億ドルの拠出を表明した(毎日jphttp://mainichi.jp/select/news/20120417k0000e020224000c.htmlBloomberghttp://www.bloomberg.co.jp/news/123-M2LPLA6K50Y401.html)。しかし、今回のIMFへの資金拠出は日本にとって本当にメリットがあるのであろうか。
基本的にこの拠出資金はIMFへの貸し出しであって、それに応じた利息を受け取ることができる。
原資は、為替介入などで積み上がっている国内のドル(または米国債)であって、日本国内ではそのまま使えず円に替えると円高を促進してしまう、すなわち死蔵している資金である(ただし、その元をたどると政府の借金)。
だから、浮いている資金を活用するという意味では効果は高い。特に、金融危機時に不足するのはドルであって、その面からもドルの供出は大きな意味を持つ。

リーマンショック時にも、当時の麻生政権は同じように1000億ドルの資金をIMFに貸し出した。その資金は、当時の世界経済の安定のために大いに役立った。マスコミはほとんど持ち上げないが、これは日本の世界的なプレゼンスを打ち立てる上でも偉業であったと私は評価している。だから今回も意義があるという意見もあろうが、今回は必ずしも当時と同じではないことに注意が必要であろう。
そもそも、IMFのトップは慣例的に欧州の人間が務めることになっている。これは、世界銀行総裁に代々アメリカ人が就任していることとのパワーバランスにより決まっていると思っても良い。

リーマンショックの時には、金融危機に面したのは世界的な大国ではなかった。もちろん大国も大きく傷ついたが、当時のそれは直接的に金融機関の損失であり、国そのものは金融機関をいかに道義的な問題を抑えて救済するかの議論であったのだ。だから、一定以下の余力の国家がIMFから一時的に資金を借りて立て直すという流れが必要であり、そのための資金を日本が拠出したということだ。
小さな国々とはいえど、経済を根本的に壊してしまうほど疲弊すれば世界経済全体がおかしくなってしまう。だからこそ息継ぎできる資金は需要だし、しかも日本が拠出する資金でそれを賄うこともできたのである。

ただ、現状はどうであろうか?
今も資金を欲する国は多いだろうが、IMFが資金をかき集めている理由はユーロ維持のためである。これまでとは桁の違う資金需要があるのだ。実際、アメリカはIMFへの追加拠出を現時点では拒否している。世界的な小国は自力で立て直すことができないためIMFなどの機関と資金を必要とするだろうが、ユーロについてはEUという連合体が既に存在する。
アメリカの言い分はおそらくこうであろう。
「まずはユーロ内でできる手を尽くせ。その上でユーロが保たないというのであれば、資金を拠出することもやぶさかではない。」
しかし現実には、ユーロ内の勝ち組であるドイツは資金拠出を「できる限り」行っているわけではない。むしろ、その拠出が少なくなるように様々な規制をユーロ内に掛けようとしている。すなわち、ドイツは資金をギリギリまで出したくないからIMFを通じて世界中に資金を募っている状況なのである。

更に言えば、このユーロ内の資金不足は暴発すればおそらくIMFですら救いきれない可能性がある。
もちろん世界中が無制限に資金を供給すれば救えるだろうが、同時に世界を巻き込んだインフレが生じてしまう。それでは意味がない。
要するに、これまでは比較的小さな国に融資してきたが故に確実に回収できていたIMFの資金ではあるが、今回はその転がり方次第では回収しきれないという末路を迎えるかも知れないのである。リーマンショックの時とは背景が異なるのだ。
その上で、IMF専務理事は欧州人(正確にはフランス人)のクリスティーヌ・ラガルドが担っている(wikihttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%9A%E8%B2%A8%E5%9F%BA%E9%87%91)。資金を世界中から集めたいのは欧州なのだから。

さて、このような文脈で考えた時に今すぐ日本が進んで拠出した方が良いのかはちょっと考えなければならない。この資金拠出により日本が得るメリットとデメリットをである。
メリットは金利と恩義程度しかない。実際には、欧州が日本に恩義を感じることすらないだろう。その上で、IMFは他の国々に対して行ったような厳しい取り立てをするのかどうかもわからない。実質的に欧州はIMFの身内なのだから。
そう考えた時、日本が勇んで資金を拠出するのが必ずしも良いとは私には思えない。むしろもっとじっくりと待って本当に欧州が困った時に大胆に援助をさしのべる方が国益に叶っていると思うのだ。

「きっかけは需要だが記憶には残りづらい。最後の一押しとなるタイミングを見定めるべきであろう。」