Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

心機一転の覚悟

春は様々なところで新しい生活が始まるが、その初々しさは微笑ましくもあり危なっかしくもある。まだまだ馴染まないおニューのスーツが、彼らの新たな時間を周囲に対してこれでもかと主張する。ほんの数ヶ月も経てばその目新しさは消えてしまう訳だが、だからこそ今この一瞬がより眩しく見えるのであろう。
この新しい経験に対してドキドキする瞬間は、同時に過去との決別の時でもある。

人が一生において使える時間は有限である。だから日々取捨選択を続け、その結果が自らの人生を形作る。もちろん自らの決断のみで全てが決まるわけではないが、きっかけの一つであるのは間違いない。そして捨てたものを惜しみながら、それ以上の新しい何かを得ようともがくことになる。
もっとも、日々の生活において何かを捨て新たなことに挑戦するきっかけを得ることは容易ではない。それ故新生活は、抜け出しがたい過去に囚われる日常から抜け出すための最高の機会を私達に与えてくれる。

私達の人格は、自らが経験してきた知識・意識や人脈などにより構成される。過去の一部を捨てるということは、言い換えればこれまでの自分を構成してきた要素の一部を捨て去ることでもある。早く捨て去りたい忌まわしきものもあれば、捨て去ることに何の感慨も受けない過去もあるだろう。それでも日常生活においては、俗世のしがらみから守りたいものとセットでしか捨てられないこともある。さらに多くの場合には、自らのステップアップを目指すために安住を捨て去るべき時も来る。
その決断が正しいのかどうかなど本来誰にもわからないし、仮にわかっていたとしても自らの人格の一部を捨て去る決断は自分にしか成し得ない。その結果について責任を擦り付けることはできたとしても、自らの失った人格の一部を取り戻すことは自分自身にしかできない。加えて、一度捨て去ったそれは姿こそ変わらずとも同じものではあり得ない。

現実には、毎年春になって一大決心を繰り返すことではない。あるいは新生活が多大なる決意の下でしか成し得ないものでもない。引っ越しも新生活を送るための一つの方法であるし、あるいは部屋の模様替えでも効果があるだろう。小さなところでは髪を切るという行為も程度こそ違えど思うところを一にしている。
何にしても、新たな何かを得るためにはそれに費やす時間を生み出すために、これまで他の何かに費やしてきた時間を削ることになる。捨て去るとは、そこに心を置く時間をそぎ取る行為なのだ。そして過去を捨てられないということは、結果的に何かに集中する機会を失ってしまうこともある。作られた余白で得る濃密な時間こそは、自ら切り開く未来を生み出す源泉であろう。

今週のお題「新生活での、おもしろエピソード」