Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

面白い言説

 アベノミクスの影響で、現在一時の超円高は和らいだ形となっている。私はアベノミクスの目的を円安とは捉えていないが、マスコミなどはこの状況をもって輸入物価の上昇と囃し立て、あるいは日本企業や日本の不動産が外国に買いあさられると不安を煽る。
 しかし過去の状況を勘案すれば、100円/ドルを切った時にも円高の進行が言われていた。小泉政権時代は120円/ドルであった。だとすれば、その当時はよほど輸入物価が高く世界中から企業や土地が買いたたかれていたことになる。そんなことはあったのか?もちろんそんな話は聞いたこともない。企業買収は、為替もあるが株価も大きく影響する。現状、株価は一時期と比べてかなり上昇している。日経平均株価が全てを表す訳ではないが、一時期の8500円程度が現状の1万2000円となったとすれば1.4倍の上昇である。為替は、1ドル当たり80円が95円になったとして1.2倍を超えていない。だとすれば、むしろ企業は買収されにくくなっているはずだがマスコミの騒ぎ方には首をかしげる次第である。
 確かに、原油価格や小麦の価格は世界的に上昇しており、小泉時代と比べても高くなっているために、円高が少し解消された結果としてこれまでのより上昇したのは間違いないだろう。ただ、それは世界レベル言えば円高の恩恵で日本だけが被っていなかった原材料高騰の流れが同じように広がったに過ぎない。それに無関心でいられたのはむしろ僥倖だったのだが、そのアドバンテージが多少減じたのだ。
 土地に関しては、確かにまだ本格的な上昇を始めている訳ではないから為替安の影響を受けない訳でも無いだろうが、これもまた過去において日本の地価が今より安い時代はあったし、同時に為替がもっと安い時期もあった。これも取り立てて騒ぎ立てる向きは何か別の意図があろう事は容易に類推できる。

 どちらにしても、まだ1ドル90円台にも関わらず騒ぎ立てるようなものではない。確かに、この後も円安がどんどんと(例えば120円を超えて)進行していくようになれば問題もあろうが、それを政府が目的としていると考えるのは穿ちすぎだと思う。あくまで現状は金融緩和による円の増刷に合わせた為替の水準訂正時期だと考えるのが妥当である。
 逆に、円高解消を背景に日本の輸出企業が一定の競争力を取り戻して、世界市場に打って出ることができればそれは円高要因として働くし、その効果が広がり日本経済の調子がよいと考えられても円高に振れるものである。
 すなわち、現状の円安により日本が買いたたかれるというのはそうした状況が部分的にはないとは言えないものの、俯瞰的に見れば取り立てて騒ぐようなものでは無い。かつても書いたが、国家としての日本にとって理想の状態が円高であるのは間違いない。ただ、極端な円高は一時的に日本の輸出企業の耐力を奪い危機に陥らせる。じわじわとしたそれは努力と新たな技術開発により対応できるかも知れないが、急速なものにはやはり耐えきれない。今は、今後の発展のための一時的な息継ぎだと考える方が良いと思う。

 どんな時にも「日本オワタ」を叫ぶ人はかなりの数存在する。もちろん彼らはそれを叫ぶことにより自らの存在価値を高め、結果的に収入の糧としているのである。しかし、日本経済や日本社会は多くの問題を抱えてはいるがそれほど脆弱ではないし、衰退に関して無策でいる訳にもいかない。より良くするにはどうすればよいかを考えれば、小さなマイナス点を大きな危機に仕立てて喧伝することの方がずっと有害ではないかと思うのだ。