Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

ファッション化する技術

ティージョブズの引退は、アップルという一つの時代の終わりを告げるようなセンセーショナルなニュースであった。しかし、技術の最先端を走ってきたようなイメージの強いアップルではあったが、現実は必ずしも最先端技術のあくなき追求が今の成功に導いたわけではない。
iPhoneiPadも革新的な技術が盛り込まれた新製品ではなく、既存の技術(もちろん最先端ではあるが)を上手く組み合わせた上に、独特のデザインによりまとめ上げている技術製品である。
もちろんその結果、消費者の支持を得て大きな収益を上げているのでそれを否定するつもりはない。

ただ、マッキントシュ時代にはパーソナルコンピューターの最先端を走り続けていた(少なくとも性能不足はあっても、windowsの2〜3年先は走っていた)アップルが、単純に最先端技術のみによる開発では大きな収益を上げるには至らないとして方向を変えて成功したという気がしないではない。

同様の傾向はGoogleにも感じられつつある。検索サービス技術としては当初脅威的だったし、その後も斬新なサービスの提供を続けることでここまで成長したgoogleではあるが、直近ではその成長に大きなブレーキがかかっているように見える。

日本ではソーシャルゲームサービスの雄であるGREEの開発本部 ソーシャルアプリケーション(Japan)統括部 統括部長である岸田崇志氏の講演に面白い傾向が見てとれる。(http://www.4gamer.net/games/127/G012735/20110908100/
そこでは、新たな技術や新しい斬新な発想を求めるよりも、収益性の向上のためには上手い課金方法を如何に演出できるかに重点を置いているという。すなわち、「細かなゲームバランスよりも,課金機会の演出,効果の演出のほうが大事」と言うわけだ。

基本的にどこの分野でも同じであるが、技術進歩が著しい段階では新しい技術そのものが受け入れられる。
それ以外に付加的な要素を付け加える必要があまり大きくない。
しかし、技術進歩の速度が減速し停滞すれば、技術以外の要素が求められる。
それは、見た目の良さなどのファッション化である。
イメージ戦略によって、あたかもそれまでの技術進歩が続いているように錯覚させたり、差別化を図ったりという方法なのだ。

現状、IT関係の技術が減速し停滞し始めているのかどうかは正直言えばわからない。
ただ、人が感じる範囲ではその減速が始まっているのかもしれないと、上記の状況を受けて感じるようになった。
すなわち、単純に使って役立つ新しい技術ではなく、広告のようにぱっと目を引く技術に重きを置く時代。
企業経営が、技術の進歩を先導するのではなく、今ある技術をデコレーションして上手く使う方向。
無駄な技術投資を控えるという判断である。

それは、IT業界でも技術が行き渡る時代から技術を選択する時代に変わりつつあると言うことではないだろうか。
そして現在選択される技術とは、技術的な斬新性よりもファッション的な斬新性。もちろん、そこに全く新しい技術が含まれていないわけではない。ただ、現状のIT進歩のフェーズが一区切りになりつつあるかもしれないということかもしれないと思っている。

これはモラトリアムの時代ではないか?
次の革新的な技術が生まれる前の停滞の時代。
いつ、次の革新的な技術が生まれるか?
それは誰にもわからない。

だとすれば、その萌芽が見えてくるまでは、技術のデコレーションが幅をきかすのだろう。
技術がファッション化すると言うことは、大企業のマンパワーの時代ではなく、中小企業のオリジナリティの時代でもある。
モラトリアムかもしれないが、面白い時代とも言える。

「若者は混乱を喜ぶべきだろう。それは、持てるものが失うときなのだから。」